「全国学力・学習状況調査のCBT化」とは?【知っておきたい教育用語】
文部科学省は、2024年9月に「令和7年度以降の全国学力・学習状況調査(悉皆調査)のCBT での実施について」を示しました。これまでのペーパーテスト形式から、コンピューターの機能を用いたテスト形式へ順次変えていくということです。学力テスト・調査(以下「テスト」)のCBT化とはどういうものなのか、また、その移行の計画はどうなっているのかを解説します。
執筆/創価大学大学院教職研究科教授・渡辺秀貴

目次
「文部科学省CBTシステム」とは
【全国学力・学習状況調査のCBT化】
ICT端末などを用いて、「全国学力・学習状況調査」を文部科学省CBTシステムによるオンライン方式で実施すること。
文部科学省は、GIGAスクール構想で1人1台端末環境の整備を進めてきました。この環境整備とともに、子どもが学校や家庭から国や地方自治体等の公的機関等が作成した問題を活用し、オンライン上で学習やアセスメントができる公的CBT(Computer Based Testing)プラットフォームである「文部科学省CBTシステム(MEXCBT:メクビット)」の開発・展開を進めています。
この「文部科学省CBTシステム」は、令和3年12月から、希望する全国の小・中・高等学校などでの活用をスタートさせ、令和6年11月には、約2.8万校、約890万アカウントの登録があるということです。授業や家庭での学習、「全国学力・学習状況調査」や地方自治体独自の学力テスト等、多様な機会で活用できることをめざしています。
「全国学力・学習状況調査」のCBT化の背景と意義
「全国学力・学習状況調査」がCBTシステムを活用する背景の一つとして、コンピューター技術やインターネットの普及により、テスト形式のデジタル化を可能にしたことが挙げられます。調査対象は全国の小学校6年生と中学校3年生で、その数はそれぞれ約100万人です。コンピューターを使うことによって、出題から採点、その結果の集計・分析を迅速かつ正確に行えるようになります。
文部科学省は、CBTシステムを用いる意義として主に次の3点を示しています。
①解答データを機械可読のビッグデータとして蓄積できる。
②ICT端末上で出題・解答することで、多様な方法・環境での出題・解答が可能になる。
③電子データにより問題・解答を配信・回収することで負担を軽減できる。
つまり、CBTでは受験者の解答履歴や学習の進行状況をデータとして蓄積することができ、これをもとに学力分析や指導の改善計画を立てることもできるわけです。また、学力のトレンドを大規模に収集することができ、教育政策や改善策に役立てられます。
さらにCBTシステムの活用によって、子どもも学校もすぐに結果を知ることができ、学力の向上に役立てやすくなるでしょう。すると、受験者は自分の強みや弱点を素早く把握し、その改善に取り組みやすくなります。
CBT化の実施の見通し
「全国的な学力調査のCBT化検討ワーキンググループ 最終まとめ」(2021年7月)によれば、「着実なCBT移行のためには、課題の抽出とその解決を繰り返しつつ、段階的にその規模・内容を拡充する必要があることから、CBTを導入する教科は1教科から段階的に増やしていくことが望ましい」とあり、まずは令和7年度から中学校の理科での実施が計画されています。
現在、ペーパーでの中学校の理科のテストは、3年に1回実施されています。毎年実施される国語や数学に比べて、データ収集の機会が限られるため、1回のテストでより多くのデータを収集する必要性が高いため理科が選ばれたとのことです。
これまでペーパーによるテストは、全国一律の指定日に実施していました。CBTでの実施日は、学校単位で同一とし、ネットワーク負荷軽減のために日時を分散して行われます。各教育委員会・学校の都合を調整し、最終的には、文部科学省が実施日を決定するとされています。これは、一度に約100万人もの生徒がオンライン上でCBTシステムを稼働させた場合のリスクを考慮してのことです。
令和7年度の中学校理科は、テスト実施の基準日の3日前から4日間で分散させて実施する予定となっています。また、その場合でも、テストがスムーズに実施できるか、各学校においてサンプル問題(中学校理科)を扱ってCBT上で取り組めるかどうかを試行して環境の整備を進めてきています。令和8年度には、中学校で英語を実施し、2ヶ年の実施状況などを踏まえて、小学校と中学校の全ての教科でのCBTによる実施を令和9年度としています。
CBTテストのイメージ
では、CBTシステムでのテスト問題のイメージはどのようなものでしょうか。下の画像は、「令和7年度全国学力・学習状況調査CBT サンプル問題(中学校理科)」として、文部科学省 CBT システムで閲覧できるように文部科学省が提供しているものの一部です。

生徒は、問題場面を動画で見たり、解答をプルダウンで選択したりするなど、ICTの機能を活用して解答するように問題が作成されています。これは、すでにOECDが実施している「生徒の学習到達度調査」、いわゆる「PISA」の全てがコンピューター使用型問題の形態や内容を踏まえているといえるでしょう。
つまり、コンピューターを用いて「学力」を測るしくみは世界標準になっているということです。子どもたちが生きる未来の社会では、コンピューターの活用は不可欠なものとなり、そのスキルとともに、問題解決や新たな価値を生み出すことに活用できる能力を身につける必要があります。
CBT化に向けての課題
コンピューターを活用した学力測定手法として、子どもと学校の負担軽減や、即時のフィードバック、データを用いた学力分析など、学校教育の質まで変える可能性もあります。一方で、システムの導入・運用の面でも以下のような課題が挙げられます。
①ICT環境の整備
地域間や学校間でインターネット回線速度や端末性能に格差があり、CBTを公平に実施するための環境の不十分さを解消しなければ公平性を欠いてしまいます。テスト当日に、システムの不具合で実施できないなどということがないよう、その安定性を担保していく必要もあります。また、調査問題の漏洩や不正アクセスを防ぐためのセキュリティ対策、不正行為を防ぐ監視体制や技術の導入も重要です。
②ICT機器使用にあたってのスキル格差
子どもがICT機器にどの程度慣れているかによる格差についても考慮する必要があります。また、ICT機器の準備や運営、トラブルについては、その専門家でない教員の対応に限界があるため、ICTスキル格差をカバーする技術サポート体制の整備も必要です。
③CBT化による「学力」の測り方
CBT化によって、これまでできなかった問題場面の提示や、子どもの解答方法などを用いて、「どのような学力を測定するのか」という根本的な問題の検討も必要です。新しい問題形式に変わるとともに、子どもが予測困難な社会を生き抜く力を身につけることに結びつくものでなければ意味がありません。CBTならではのインタラクティブな問題形式の開発など、それに必要な技術的・教育的な検討が必要です。
④学校現場、保護者などの理解と協力
国が掲げる理想と学校現場の実態とが乖離していては、CBT化の成果は望めないうえ、負担増となりかねません。実効性のあるものとするためには、学校や保護者等の声を反映した運用方法や丁寧な説明が必要です。
全国規模であり、かつ新しい時代に対応するテストシステムの切り替えは容易ではありません。上記以外にも、まだまだ課題は考えられます。しかし、一つずつ解決することで、「全国学力・学習状況調査のCBT化」はより効果的で公平な形で進むことが期待されます。
▼参考資料
文部科学省(PDF)「令和7年度以降の全国学力・学習状況調査(悉皆調査)のCBTでの実施について」令和6年9月改定
文部科学省(ウェブサイト)「文部科学省CBTシステム(MEXCBT:メクビット)について」
文部科学省(PDF)「全国的な学力調査のCBT化検討ワーキンググループ 最終まとめ」令和3年7月16日
文部科学省(PDF)「令和7年度全国学力・学習状況調査CBTサンプル問題(中学校理科)問題」令和6年10月