特別支援学級のコミュニケーションの実践は、授業+学級づくりで取り組もう
今回は、自立活動6区分の中で、「コミュニケーション」の授業実践について紹介します。
コミュニケーションを授業で取り扱うに当たり、意識して頂きたいことがあります。それは、学級づくりの視点も大切であるということです。「心理的安全性」という言葉を最近よく耳にしますが、「授業+学級づくり」で自立活動(コミュニケーション)は成立するものと捉えています。世間話で盛り上がることができる、弱音を吐いたら誰かが拾ってくれる、ここぞという場面で応援してくれる。 このようなクラスの雰囲気も、合わせて大切に作っていきたいものです。
【連載】「はじめに子どもありき」の特別支援学級 〜自立活動編〜 #08
執筆/埼玉県公立小学校教諭・奥山 俊志哉
「コミュニケーション」の項目には、大きく分けて5つの項目が設定されています。
⑴ コミュニケーションの基礎的能力に関すること
⑵ 言語の受容と表出に関すること
⑶ 言語の形成と活用に関すること
⑷ コミュニケーション手段の選択と活用に関すること
⑸ 状況に応じたコミュニケーションに関すること
この5つの項目を、年間通して身につけていく必要があります。
クラスの子どもたちは、好きなことや得意なこと、休日にしたことなど、自分のことを話すことが大好きです。また、ゲーム、昆虫、電車など、自分の興味がある内容については、たくさん知っています。目をキラキラさせて教えてくれますし、タブレットで写真や動画を見せて話をしてくれることもたくさんあります。しかし、コミュニケーション(=相手とのやりとり)は苦手です。
●話したいという気持ちが先行してしまい、友達が話している途中に割り込みをしてしまう。
●興味関心のあることを延々と話し続けてしまう。
●表情や感情を読み取れず、相手に失礼なことを言ってしまう。
●言っていいことと悪いことの分別がつきづらい(=相手の気持ちに立って考えることが苦手)
などの場面が見られ、トラブルに発展することもあります。このような子どもたちに注意や指導・支援をするだけではなく、自立活動の時間を通して、コミュニケーションをすることの楽しさを実感させたいと考えるようになりました。
また、コミュニケーションの楽しさを子どもたちが実感することができれば、一方的に発言をしてしまうような行動が、少しずつ減っていくのではないかとも考えました。
以下に授業で取り組んだ内容を紹介します。
今回は「すごろく」を授業で取り組んでみました。以前に昔遊び(生活単元学習)ですごろくに取り組んだことがあり、自立活動(コミュニケーション)でもすごろくを行うと、コミュニケーションを楽しむ経験ができ、コミュニケーションを楽しんで行おうとする態度が子どもたちに育成できるのではないかと考えました。
今回は3学期の初日に行いました。
コミュニケーションの力を身につけさせたいので、今回はこのように特別なルールを設けました。
① 友達や先生・支援員さんにお題を言う(=質問をする)
② 友達や先生・支援員さんが質問に答え、話を広げる。
③ 友達や先生・支援員さんが同じ質問をする。
④ 自分自身が質問に答え、話を広げる。
このようにアレンジを加えて、すごろくをクラスのみんなでやってみました。時期にマッチした話題で楽しくコミュニケーションができるよう、すごろくのマスには、以下のようなお題(イベント)を配置ました。
また、お題の他にゲームの進行にあわせて
「クラスの友達全員とハイタッチをする」
「先生とジャンケンをして勝ったら3マス進む」
などのイベントも適宜はさんで、体と頭の両方を働かせながら、45分間飽きずにすごろくができるように工夫しました。
また、ゴールができたら先生手作りのおみくじがひけるようにして、盛り上がるように活動を設定しました。
ここからは、実際の授業の様子をご紹介します。
「サンタさんに何を貰いましたか?」
というお題から、
「僕は〇〇(ゲーム)を貰いました。△△さん、〇〇(ゲーム)持っていますか?」
「〇〇というゲーム、楽しいよね」
という関わりに発展していました。
「大掃除はしましたか?」
というお題では、
「僕は〇〇を掃除しました。僕と同じ人いますか?」
「私は〇〇を掃除して怪我をしてしまいました」
「お家の人と掃除をしたら疲れました」
など、クラス全体にコミュニケーションが波及していきました。
「面白かったテレビは?」
のお題では、クラスの子どもたち全員が、
「〇〇というテレビ番組が面白かったです」
と言っており、話が子どもたちの間でどんどん深まっていきました。その様子から、
「コミュニケーションをすることは楽しい!」
と、子どもたちは感じることができたのではないかと思いました。
その裏付けとして、子どもたちの間で一方通行な発言はなく、友達の話をよく聞くことや、「〇〇さんは(どう思いますか)?」のように、みんなや先生に上手に聞き返すことができていました。
ゴール後に引いたおみくじについては、引いた子に「何吉でしたか?」と自然と確認する様子が見られ、コミュニケーションすることの一つのきっかけとなっていました。
これをきっかけに、子どもたちには相手のことやクラスのみんなのことを意識しながら、学校生活を送っていってほしいと思います。これからもコミュニケーションに関する自立活動の授業を続けていき、コミュニケーションをすることの楽しさを子どもたちに伝えていきたいです。
すごろくの実践は、お題を工夫すれば、長期休暇明けの学級開きに最適の教材であると考えています。本実践を参考にして頂き、学期初日に楽しい気持ちで子どもたちが友達と関わることができるよう、授業を実践することができればと思います。
イラスト/難波孝
奥山 俊志哉(おくやま としや)
1990年福井県生まれ/京都教育大学卒業、京都教育大学連合教職大学院修了 教職修士(専門職)/現在、埼玉県公立小学校教諭。
2024年現在、小学校教諭11年目(通常学級5年 特別支援学級6年)/自閉症・情緒障害学級担任、特別支援学級主任、特別支援教育主任/児童発達支援士資格 非営利活動任意団体空に架かる橋Iメンバー/TOSSサークル「自閉・情緒学級における授業づくり検討会」代表
・「実践みんなの特別支援教育」(Gakken)