高さ前ころがりの他に、台上前転にスムーズに入れる指導法はありますか? 【使える知恵満載! ブラッシュアップ 体育授業 #72】
前回の「高さ前ころがり」は、腰を高く上げる動きや高い所で回転する動きを身に付けるのに役立ち、台上前転の習得にもつながる教材でした。
今回も、前回に引き続き、台上前転にスムーズに入っていける教材を紹介します。
執筆/東京都公立小学校教諭・吉羽顕人
監修/筑波大学附属小学校教諭
体育授業研鑽会代表
筑波学校体育研究会理事・平川譲
目次
1.低さ前ころがり
(図1)低さ前ころがり
「低さ前ころがり」は、図1のように跳び箱の1段目に乗り、マットに両手を着いて前転する運動です。
台上前転では、両足で踏み切った後、後頭部を跳び箱に着けるまでに、自分の体を両腕で支持する瞬間が存在します。この腕支持の感覚を育むことができるのが、低さ前ころがりです。
また、台上前転の踏み切りの後に、後頭部を着こうという意識から、腰を十分に上げないまま頭を跳び箱に近付けていく子がいます。このつまずきの予防や解消にも、低さ前ころがりは効果的です。
なお、両足で蹴り出す反動で跳び箱が後方にずれると危険です。図2のように、すべり止め用のゴムマットを敷いたり、仲間に足で跳び箱を押さえさせたりしましょう。
(図2)跳び箱がずれないための手立て
2.指導の工夫
⑴ 運動観察
低さ前ころがりは、回転を始めてから後頭部をマットに着くまでに生じる腕支持の感覚を身に付けることが主なねらいとなります。そこで、運動観察場面では、図3のように両腕だけで体を支えている瞬間があるかどうか確認させましょう。
(図3)一瞬の腕支持をする様子
腕支持ができていない子は、腰が頭の上を通る間に体を支えきれず、額や頭頂部をマットに着けてしまいます。体育班の仲間同士で「ちょっとだけ逆立ち」ができているか確認することで、腕支持を意識して運動することができます。
⑵ 恐怖心が強い子への手立て
跳び箱1段分とはいえ、そこからマットに着手すると腰の高さよりも頭が低くなり、逆さになっている感覚が生じます。逆さ感覚が不十分な児童は、そこで恐怖心を抱き、回転を躊躇してしまう場合があります。そのようなときは、図4のようにマットの上に別のマットを重ね、少しの段差から始めると恐怖心が緩和されます。
(図4)マットを重ねて練習する様子
低さ前ころがりは、回転する前から頭が腰より低い位置に来る「逆さの状態」になります。実際に体験してみると分かるのですが、この体勢はすぐに前へ転がってしまいそうになる、少し怖い体勢です。しかし、この緊張感を楽しみながら取り組み続けると、腕支持や回転の基礎感覚・技能を高めることができます。
前回紹介した「高さ前ころがり」と今回の「低さ前ころがり」にじっくりと取り組み、台上前転の指導をするときには “台上前転ができる体” にしておくと、指導がスムーズで成果が上がりやすくなります。ぜひ実践してみてください。
【参考文献】
・平川譲「小学校体育で育むべき「基礎感覚・技能」はこれだ!」(『楽しい体育の授業』No.399 2022年12月号、P.54〜57)明治図書出版社
イラスト/佐藤雅枝
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執筆
吉羽顕人
東京都公立小学校 教諭
1986年東京都目黒区生まれ。「みんなができる、みんなでできる」授業の実現を目指し、日々研鑽中。また、実践を広げるために、オンラインで研修会を行っている。『「資質・能力」を育成する体育科授業モデル』(共著)(学事出版)
監修
平川譲
筑波大学附属小学校 教諭
体育授業研鑽会 代表
筑波学校体育研究会 理事
1966年千葉県南房総市生まれ。楽しく力がつく、簡単・手軽な体育授業を研究。日本中の教師が簡単・手軽で成果が上がる授業を実践して、日本中の子どもが基礎的な運動技能を獲得して運動好きになるように研究を継続中。『体育授業に大切な3つの力』(東洋館出版社)等、著書多数。