【明日の教室セミナー】佐々木潤先生「個別最適な学び×協働的な学び×ICT『超』入門」受講レポート

文/糸井登(「明日の教室」代表、京都女子大学附属小学校副校長)、吉川裕子(立命館小学校教諭)

みなさん、こんにちは。「明日の教室」代表の糸井登です。今回報告するのは、11月16日(土)の午後、京都・山科にある新学社の会議室で行った佐々木潤先生による「個別最適な学び×協働的な学び×ICT『超』入門」と題するセミナーです。

今回のセミナーの演題は、9月に刊行されたばかりの佐々木先生の著書名です。「個別最適な学び」「協働的な学び」「ICT活用」の3つは、今、教育現場での緊急課題とされているものです。その3つを組み合わせて分かりやすく書かれたのが、一昨年に刊行された『個別最適な学び×協働的な学び×ICT入門』(明治図書出版)でした。本著は、その続編というものです。

さて、少し佐々木潤先生の紹介をしておきたいと思います。

私が、佐々木先生の実践を知ったのは、かなり昔です。「授業づくりネットワーク」誌等の原稿を通して知ったのだと思います。

その後、朝日新聞の「花まる先生」に実践紹介されたのが、私の実践紹介と近かったこともあり、勝手に親近感を抱いていました(笑)。

大仏の大きさ感じて 石巻市立湊第二小学校・佐々木潤さん|朝日新聞デジタルhttps://www.asahi.com/edu/student/teacher/TKY200805190092.html

どんな絵だった? 京都・宇治市立菟道(とどう)第二小学校 糸井登さん|朝日新聞デジタルhttps://www.asahi.com/edu/student/teacher/TKY200805250053.html

その後、どうしても一緒に仕事がしてみたくて、昨年は新学社の「社会科資料集デジタルコンテンツ」プロジェクトにお声掛けさせていただき、取り組んだのが昨年でした。会議の中での佐々木先生の発言は豊富な実践に裏付けされたもので、大変勉強になりました。

今回のセミナーでは、加賀市での先進的な取組についても、たくさん紹介いただき、大変刺激的なものとなりました。

では、セミナーの様子を紹介します。今回も報告を書いてくれたのは、吉川裕子先生(立命館小学校)です。


佐々木潤先生セミナーレポート(報告者:吉川裕子)

2024年11月16日に開催した「明日の教室」セミナーの講師は、石川県加賀市教育委員会教育推進プロジェクトマネージャーの佐々木潤先生でした。佐々木先生は加賀市で教育改革、授業を変えるプロジェクトに取り組まれています。今回は「個別最適な学び×協働的な学び×ICT『超』入門」という題の講座でした。最近、耳にしない日はない「個別最適な学び」と「協働的な学び」。たっぷり3時間半の内容の一部をご紹介します。

なぜ「個別最適な学び」「協働的な学び」なのか

まずは、「うそつき三択」という自己紹介ゲームから始まった講座。

佐々木先生の「個別最適な学び」の定義は、「学習内容・方法・時間(環境)を子どもたちが決める学び」です。教師の役割は、子どもが選べる場の設定をすることであり、「個別最適な学び」=「自由進度学習」ではない、と話されました。

課題設定学習や課題選択学習、順序選択学習など様々な形式があり、以前から取り組まれてきていましたが、最近は自由進度学習だけが個別最適な学びだという認識が一人歩きしていることを危惧されていました。大事なことは、子ども自身が考えて判断し自分の学びを進めていけるかどうか、子どもが学びのコントローラーを握っているか、ということだと強調されました。

子どもたちは多様で、社会は大きく変わっているのに、授業スタイルが一斉指導だけでは限界があるというのは、多くの先生方が感じていらっしゃることでしょう。「個別最適な学び」「協働的な学び」が必要な理由は、多様な子どもたちに対応するため、自立(自律)した学習者を育てるため、協働して問題解決するスキルを身に付けるためだと話されました。

協働的な学びとは、子どもたちがお互いに支え合い、話合いながら学習することです。そこには「構成的な協働(グループ学習)」「非構成的な協働」があります。話合いの際には、着地点を明示し、意見の集約の仕方や結論の出し方を提示するなど、様々な配慮が必要になります。仲間の支えがあることで、自分だけでは難しい課題にも挑戦できます。

教師の役割は「授業は教師が教えるもの」という指導観を変え、子どもに任せる覚悟を持って学びのコントローラーを子どもたちに渡すことが一番大切であり、一番難しいことだと話されました。教師は、子どもたちが学ぶための授業のデザインをし、システムを設計し、とにかく子どもたちの学習の様子をよく見て、細かいフィードバックを繰り返します。授業が上手な先生は、短く細かく頻繁にフィードバックを繰り返すので、佐々木先生はいろいろな先生方に「1時間に5回は教室を回ってください」と伝えるそうです。

個別最適な学び・協働的な学びには、子どもの学習意欲が向上する、自分で考えるようになる、そして、だんだんテストの点数が上がるといった効果があります。一方で、子どもたちが転ぶ前に声をかけたり、先回りした手立てを取ったりしないで、我慢して見守る必要があります。

子どもたちが「勉強するのは何のためか」を自分で考え、行動する力を育てていくには時間がかかります。これまでの佐々木先生のご経験からも、子どもたちが自分で学べるようになるまで2か月から5か月かかることもあり、教師が待てないこともあるようです。

行動する力を育てるといっても、何か万能な方法があるわけではなく、先生のキャラクターや学級づくりとの関係が深い、とも話されました。そして、保護者に授業の意図や進め方などを丁寧に伝えることも欠かせないそうです。

授業の実践例の紹介

その後、佐々木先生が実践されてきた個別最適な学びや協働的な学びの授業の具体例をたくさんの写真や動画で教えてくださいました。

教室の中に「お茶の間スペース」としてキャンプ用のテーブルを持ち込んだり、ICTを活用し問いに対する自分の考えをスプレッドシートに書きこんだり、グループで話合いをする際にはホワイトボードを活用したり……お話だけでは分からない子どもたちの学びの様子が伝わる貴重な時間でした。

そして教科ごとのお話も。たとえば、「算数はチェックテストで自分が理解できているかどうかを確かめながら、最後のテストは自分のタイミングでできるようにする」とか、「国語では『書く単元』は個別最適の考え方でやるなど、領域ごとにいろいろな方法で授業を進めていく」とか、作文の添削は基本的にしない、理科で試行錯誤しながら実験動画を撮っていく……など様々な工夫を惜しげもなく伝えてくださいました。実際に映像を見ることで、「この活動ならやれそう」「なるほど、こんな雰囲気なのか」「自分の授業のこことは似ているな」と多くの気付きがありました。

人間関係づくりの大切さ

「先生方、ずっと話を聞くだけの受け身では疲れませんか?」という佐々木先生の言葉から始まった3コマ目では、いくつものゲームや活動を体験しました。

続いて、学級での人間関係づくりの大切さについてお話に。話を聞いたり本を読んだりして、個別最適な学び、協働的な学びに挑戦してもうまくいかない理由は、子どもたち同士の人間関係ができていないからだ、ということがよくあるとのこと。個別最適な学びも、協働的な学びも、支えているのは人間関係なのですね。

ただ同じ教室にいるというだけでは、人間関係はできません。例えば、「昨日こんなゲームをした」「このYouTube面白かった」とか、そんなちょっとした話ができる人がクラスに2,3名しかいないような、相手のことがよく分からない中では、心理的安全性も保たれません。佐々木先生は、ゲームや活動を通して子どもたち同士が話をする機会を意図的に作ることで、学級経営をされてきたそうです。

紹介されたゲームや活動はどれも短時間でできるものでしたが、初めて会う先生方との距離が近づきました。とくに自分の好きなものについて詳しく書いていき、2人組で1分ずつ聞きあう活動は、とても盛り上がりました。好きなものについては、誰でも話しやすく、相手のことがよくわかります。教室ではこれを全員と繰り返すそうです。

「ゲームをするときに大切なことは何?」と聞くと、子どもたちは「みんなで楽しむこと」や「ルールを守ること」などと答えます。教師はゲーム中の様子を見ながら、例えば3人組を作るときに譲ってくれた人を見逃さず価値付けたりします。ずっと同じ空間にいても、実はお互いのことをよく知らないということもよくあるので、これらの活動はとても有効です。

模擬授業、Q&A

模擬授業も体験しました。算数の自由進度学習の授業です。みんなで計算に集中したり、先生に「まわりの人に聞いてもいいですよ」「答えを見てもいいですよ」と言われても一人黙々と問題を解き続ける人が続出したり、子どもたちの気持ちを体験する時間でした。

Q&Aでは、「個別最適な学びを始めたいけれど、具体的にどうすればいいか」という質問が出ました。まずは、学習の空白をなくし、活動中心の学習にしていくなど、一斉指導の改善から行うといいのではないかというお話に、多くの受講者がうなずいていました。

また、個別最適な学びというのはあくまでも進め方であり、教材研究は必要であること、子どもたちや教師自身の実態に合わせてチューニングしていくこと、教材・自分・子どもたちにそれぞれ向いているものや向いていないものがあることなど、個別指導を続けていくための視点をお話しされました。あっという間の3時間半でした。

興味を持たれた方はぜひ、以下の2冊をお読みいただければと思います。

『個別最適な学び×協働的な学び×ICT入門』 佐々木 潤

『個別最適な学び×協働的な学び×ICT「超」入門』 佐々木 潤


次回は12月7日、野中信行先生のセミナーを開催

さて次回の「明日の教室」セミナーは、12月7日(土)に元横浜市小学校教諭の野中信行先生をお招きして、「新しい時代だからこそ考えたい学級経営のあり方」について考えていきます。

これまでお世話になってきた野中先生の講座です。「明日の教室」では最後の登壇になると聞いています。多数のご参加をお待ちしております!

明日の教室セミナー開催予告】
「新しい時代だからこそ考えたい学級経営のあり方」
講師:野中信行先生(元横浜市小学校教諭)

日時:2024年12月7日(土)13:30~17:00
会場:新学社会議室(京都市山科区)
参加費:3000円(税込)

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