教育は人なり!先生のストレスマネジメント~ソーシャルサポート(ラインケア)編~

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ストレスフリーの教室をめざして
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ストレスの中には、セルフケア(自分自身でできるケア)で対応できるものと、自分自身では対応できないものがあります。自分自身で対応できない場合には、組織としてできるケアソーシャル・サポート(ラインケア)が必要になります。そこで今回は、ストレスがたまっている同僚に接する場合のアイディアについてまとめます。困ったとき、大変なとき、仲間同士で支え合える職場環境はとても大切ですね。

【連載】ストレスフリーの教室をめざして #09

執筆/埼玉県公立小学校教諭・春日智稀

前回の記事も併せてお読みください。教育は人なり!先生のストレスマネジメント ~セルフケア編~

1 心の病は、「精神的に弱い人がなる」という思い込み

いわゆる心の病にかかってしまった人に対しては、「精神的に弱いからだ」という周囲からの思い込みが表れることがあります。この偏見は「スティグマ」と呼ばれますが、大きな間違いです。だれでも一度は風邪をひいたことがあるでしょう。心の病もこれと同じで、だれがいつかかってもおかしくないのです。
スティグマには、「パブリックスティグマ:周知の人が特定の人に差別や偏見をもつこと」と、「セルフスティグマ:周囲からの差別や偏見を感じること」の2種類があると言われています。このようなスティグマから生じる大きな問題は、「適切な処置(医療機関を受診するなど)」につながるまでに時間がかかってしまうということです。適切な処置までに時間がかかればかかるほど、状態は深刻化します。
まずは、心の病について正しい知識をもつことで、スティグマをもたない、スティグマを生じさせない環境づくりが大切になります。

意欲が低下した教師

2 先生たちができるソーシャルサポート(ラインケア)

個人では解決が難しいストレスを抱いている人には、職場の同僚や先輩後輩といった仲間同士でサポートし合うことが大切です。周囲の先生からのサポートを、「ソーシャルサポート」と呼びます。
ソーシャルサポートには、次の4種類があります。

1 情緒的サポート:情緒を支える共感的な対応のこと(傾聴、うなずき、笑顔など)
2 情報的サポート:相手に必要な情報を与えること(職務上の助言、研修機会の提供など)
3 道具的サポート:共同(協働)して仕事に取り組むこと
4 評価的サポート:仕事に対してフィードバックをすること

このことを踏まえ、ソーシャルサポートのアイディアを紹介します。
なお、管理職が部下に対して行うメンタルヘルス対策を「ラインケア」と呼びます。意識すべきことはソーシャルサポートと同じです。管理職も適切な助言や指導をして、ストレスを抱かない円滑な組織づくりを心がけていきたいものですね。

①ワーク・エンゲイジメントを高めるソーシャルサポートをする

ワーク・エンゲイジメントとは、
①仕事に誇りややりがいを感じている
②仕事に熱心に取り組んでいる
③仕事から活力を得ていきいきとしている
の3つがそろった状態のことを指します。
ストレス過多状態の先生は、この状態から大きく離れてしまっている場合が少なくありません。サインとしては、
明らかにパフォーマンスが低下している(初歩的ミスを連発している)
ネガティブな言動が多い(「どうせこんな仕事やったって…」「またミスしちゃったよ」)
遅刻・早退・欠勤が増える
テンションが異様に高い
対人関係が悪化する

などが挙げられます。
つまり、「心のエネルギー」が不足しているのです。周囲にこのような様子の先生を見かけたときには、ソーシャルサポートの視点で「心のエネルギー」を充足させるサポートをしてあげましょう。
例えば、

1 情緒的サポート
ゆっくりと話を聴く(5~10分、雑談程度でもよい)
笑顔で対応する
苦労に共感する
自分の失敗を話す

2 情報的サポート
授業づくりの参考になる資料や文献を提供する
自分の知っている研修を紹介する
仕事の進め方について情報提供をする

3 道具的サポート:共同(協働)して仕事に取り組むこと
学習参観に向けた授業づくりを一緒に行う
思い切って大きなタスクを任せ、必要なときだけ援助をする
プリントなどを印刷しておく
保護者対応に同席する

4 評価的サポート:仕事に対してフィードバックをすること
行事を終えた後、「あなたのおかげでここがうまくいった」と具体的に労う
「先生のこんなところが子どもたちにとって魅力だと思うよ」と伝える
「先生のやり方もいいけど、こういうやり方もあるんだけどどうかな?」と提案する

などが考えられます。

②仕事の質・量について、定期的に検討する機会を設ける

厚生労働省の調査によれば、仕事や職業生活に関する強いストレスの原因の第1位は「仕事の質・量」です。多忙な毎日ですから、「仕事の中身」について話し合う場はあっても、「仕事の質・量」について話し合う機会はなかなかないのではないでしょうか。もし自身が学年主任やある程度経験を積んでいる場合には、「仕事の質・量」について定期的に検討する機会を設けることをオススメします。
例えば、次のような方法が考えられます。

1 現在それぞれがもっているタスクを「見える化」する(「量」にアタック!)

タスク「見える化」シート

このようなシートを活用し、それぞれのタスクを付箋で貼っておきます。学年だけでなく、校務分掌のタスクも貼っておきましょう。デジタル化して共有するのもよいですね。タスクを見える化することで、優先度や偏りを共通理解するこができます。

2 本当に必要な仕事かどうか、そのやり方でよいか吟味する(「質」にアタック!)
学校の中には、いわゆる「慣例・慣習」として脈々と受け継がれている仕事がたくさんあります。もちろん歴史的な背景があったり、その学校のアイデンティティを保持するためのものであったりして、絶対に外せないものもあるでしょう。しかし、これだけ変化の激しい時代です。保守的な考えだけでは、現代を生きる子どもたちに大切なものを提供できない可能性もあります。そこで、「スクラップ&ビルド」の視点を忘れてはいけません。「何か新しいことをやるときには、何かをやめる」という決断です。こういう類の決断には労力が要りますが、きちんと情報を集めて手続きを踏めば、実現できるかもしれません。

また、完全にやめないまでも、やり方を変えることはできるかもしれません。急激な成長を遂げている生成AIなどはまさに活用すべきです。もちろん個人情報の取り扱いには十分注意しなければなりませんが、本当に精度が高く、強力なサポーターに成り得ます。文書のひな型の作成や添削などは一瞬でやってくれますので、まだ試したことがない先生は一度試してみることをオススメします。

タスクを活用して共通理解を図る教師たち

③カウンセリングマインドを学び、身に付ける

厚生労働省による同調査によれば、仕事や職業生活に関する強いストレスの原因の第3位が「対人関係」となっています。
対人関係において大切なことの一つは「コミュニケーション能力」です。(企業が入社時に求める能力第1位です)
ではどうすればコミュニケーション能力は高まるのか。筆者は、「カウンセリングマインド」を学び、身に付けることだと考えています。

カウンセリングマインドとは
カウンセリングマインドの定義は各種ありますが、広くは「信頼関係を築くための姿勢」のことを指します。例えばあなたが困ったことや悩みがあったとき、誰に相談したいと思いますか。また、その人はどんな人でしょうか。プロのカウンセラーや特定のスキルを身に付けているを思い浮かべた人もいると思いますが、そうではない人もいるはずです。つまり、カウンセリングマインドとは特定の人が身に付けるものではなく、円滑なコミュニケーションを行う上で全員が身に付けてほしいスキルなのです。

カウンセリングマインドをもった人とはどのような人か
心から、よく話を聴いてくれる
土足で心の中に踏み込んでこない
必要な時に、支えてくれる
このような資質をもった人は、カウンセリングマインドを身に付けている人だと思います。

どうすればカウンセリングマインドは身に付くのか
1 カウンセリングについて学ぶ
日本のカウンセリングの大家の一人に、國分康孝先生がいらっしゃいます。國分先生の著書を読まれることをオススメします。(例えば、『カウンセリングの技法』『つきあいの心理学』他多数)
また、研修会に参加するのもよいですね。NPO日本教育カウンセラー協会では、カウンセリングを含めた研修会を随時実施しています。さらに条件を満たすと「教育カウンセラー」の資格を得ることもできます。
2 自身が多様な経験を積む
だれかの相談にのるときに、自分自身に多様な経験があり、かついろいろな課題を乗り越えているとより親身になって話を聴くことができます。例えば、仕事の進め方についての悩みであれば、自分自身がつらい仕事を乗り越えた経験があると、具体性をもって話を聴くことができるということです。

前回の記事も併せてお読みください。教育は人なり!先生のストレスマネジメント ~セルフケア編~

【参考引用資料】
メンタルヘルス・マネジメント検定試験公式テキスト Ⅱ種 ラインケアコース〔第5版〕/大阪商工会議所/中央経済社
平成30年度労働安全衛生調査/厚生労働省

イラスト/坂齊諒一

<プロフィール>
春日智稀(かすが・ともき)
2015年より埼玉県公立小学校教諭。体育主任・生徒指導主任・研究主任・教務主任などを担当。
ケアストレスカウンセラー/青少年ケアストレスカウンセラー。
日本生徒指導学会 日本学校教育相談学会 会員。

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