<連載> 菊池省三の「コミュニケーション力が育つ年間指導」~3学級での実践レポート~ ♯12 千葉県船橋市立田喜野井小学校5年1組②<後編>

連載
菊池省三の「コミュニケーション力が育つ年間指導」~3学級での実践レポート~
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教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三
菊池省三の「コミュニケーション力が育つ年間指導」  3学級での実践レポート タイトル

菊池実践を追試している3つの学級の授業と子供たちの成長を、年間を通じてレポートする連載。 今回は、千葉の植本学級(5年生)における、9月下旬の授業レポートの第2回です。菊池先生と植本先生による、2時間続きのディベート(総合的な学習の時間)の合同授業です。

レポートする学級の担任の先生方3名の紹介

試合を経るたび、話し合いの “空気” が上がっていく

第3試合 賛成側:Kチーム、反対側:ハッピーバースデーひいなチーム

①賛成側立論
「下校時間が早くなる」
理由:(データを示しつつ)5年生の1年間の授業数をクリアすればいいので、夏休みを半分に減らすことで、毎日6時間の授業が、週3回以上5時間授業にできる。だから下校時間が早くなる。

②反対側質問
質問)1年間の授業時間は何時間か。
回答)データの通り、1800時間を超えればいい。
質問)6時間授業はいやなことなのか。
回答)放課後が減って遊ぶ時間が短くなるので、その分頭はよくなるかもしれないけれど、授業がいやだという子供が多いと思う。
質問)1週間に3回以上5時間授業にできるというのは本当か。
回答)データはないが、計算すれば、1800時間を超えるので可能である。

Point1
ディベートは本来、言葉だけで戦うゲームなので、データや具体物を出して発言することはありません。しかし、初期の段階では、データや具体物で補ってもいいでしょう。データや具体物を示すことには、子供たちを飽きさせないという意味合いもあります。

③反対側立論
「いろいろな体験ができない」
理由:(文部科学省のホームページを示しつつ)子供のときに旅行などの体験をすると、その後いろいろなことに興味を持ち、自分の感情を調整できるようになる。夏休みが短くなると、日程の調整が難しくなって旅行に行きづらくなり、いろいろな体験ができなくなる。

④賛成側質問
質問)いろいろな体験とは何か。
回答)泊まったり、アスレチックで遊んだり。
質問)夏休みが短いと日程が合わないのか。
回答)調整すればいい。
質問)体験は子供のときにしかできないことなのか。
回答)水泳とか。

⑤反対側反論
日数を聞いたのに、1800時間と時間数を答えたので、かみ合っていない。
データはなく計算と言ったが、計算は正しいのか。
以前、先生から聞いたのは1080時間なのに、なぜ1800時間とこんなに違うのか。

⑥賛成側反論
日程を調整できるなら、夏休みが半分でもいろいろな体験ができる。公園のアスレチックなら、5時間授業の後でもできるし、普通の土日でも、近くのショッピングモールでアスレチックができる。

Point2
賛成側で反論した子は、1分間の時間が余ったので、反論の内容を繰り返し話しました。
このとき、「同じ言葉で繰り返すのではなく、大事なところを強調して繰り返すといいよ」とアドバイスするといいでしょう。同じように、メモの取り方や作戦タイムのチームで確認し合う場面など、一つ一つの活動に、話し合いの指導のポイントがあります。
日常の話し合いがコンパクトにまとまっているディベートでこそ、教師は指導のポイントを意識しましょう。

<判定>
賛成1:反対5で、反対側の勝ち

<賛成判定の理由>
5時間目の後や休日にアスレチックに行けるというのが納得できた。

<反対判定の理由>
時間数がかみ合っていないことに納得。データが無いのもかみ合っていなかった。

<菊池先生の判定>
反対側の勝ち
話し合いの “空気” は、1試合1試合繰り返すたびに、上がっていく。
賛成側のフローシートを見てみると、「日程を調整すればいい」という答えに、「それなら土日でも行ける」と、立論と質疑、反論がつながっていた。ディベートは、最初の立論を崩していくゲームであり、そのやりとりができていた。
一方、反対側の反論は、立論そのものが矛盾していることを突いたものだった。
ディベートでは、ずっと考え続けていく。すると、考えの幅が広がっていく。
丁寧に相手へ反論し、さらに立論そのものを否定したことが有効だったので、反対側の勝ちとした。

<植本先生の感想>
どちらのチームも、相手チームに対して引かなくなった。話し合いの姿勢も強くなってきた。

最後の1試合では、第2反駁に挑戦

第4試合は、自ら立候補して第2反駁まで試合をすることを望んだ2チームの対戦だ。
隣の5年2組から見学にやって来た子供たちの姿も見られた。2組も最近、ディベートに取り組み始めたので、今日の試合を参考にするためだ。
植本先生が、
「この試合から学んで、来週以降は、全員で第2反駁まで進めて勉強するという視点をもって、学びに活かしてください」
と話すと、審判の子供たちも大きくうなずいた。

第4試合 賛成側:やる気満々チーム、反対側:バナナチーム

①賛成側立論
「効率的に学習ができる」
理由:福岡県古賀市では25日間に夏休みを短縮した代わりに、6時間の授業を週4日から1日に減らした。6時間目の授業が少なくなるので、学習に飽きることがなくなり、学習の効率が上がる。

②反対側質問
質問)「飽きない」というデータはありますか。
回答)78%が「飽きない」、22%が「飽きる」というデータがあります。
質問)39日間が25日間に減っただけですが、古賀市以外でも中国地方や近畿地方など、いろいろな所で短くしています。20日短くしているところがありました。
学習効率が……(時間切れ)

③反対側立論
「勉強時間が減る」
理由:(データを基に)夏休み中の勉強時間は普段より多い。夏休み中の勉強時間は1日6~8時間、学校での1日の授業時間は4時間半。夏休みが半分になると、夏休みにしかできない勉強の時間が減る。

④賛成側質問
質問)夏休みの勉強時間はどれぐらい多いですか。
回答)………。
質問)学校での1日の授業時間の4時間半の中に、宿題をする時間も入っていますか。
回答)入っていません。
質問)夏休みにしかできない勉強とは何ですか?
回答)夏休み前に習ったことの復習や、夏休みに出た宿題です。

⑤反対側反論1(第1反駁)
6時間授業が週に1日になると、授業が間に合わなくなる。

⑥賛成側反論1(第1反駁)
夏休みにしかできない勉強は復習と言ったが、土日でもできる。夏休みでもやらない人もいる。

第1反駁が終わったところで、植本先生が、
「ここでもう一度確認するけれど、第2反駁では何をするんですか?」
とみんなに尋ねると、
「反論に反論すること」と答えた。
「そうだね。立論を削るために反駁1があるんだけど、その反駁1が認められなければ立論が生き残ることになる。だから、相手の反駁に対して反駁するんだね」
植本先生の言葉かけは、2チームの子供たちのやる気にさらに火をつけた。
作戦タイム後、第2反駁がスタート。

⑦反対側反論2(第2反駁)
土日でも復習できると言うが、土日は出かけるので、できない。夏休みの方が長いから、土日だけではできない。

⑧賛成側反論2(第2反駁)
夏休みは減っているので、6時間授業を減らしても間に合う。
学習の効率が上がらないと言うが、6時間目が減るので、飽きないから効率が上がる。

2チームの発表を終えたところで、植本先生が、
「判定のコツはなんですか?」
と菊池先生に尋ねた。
すると、菊池先生が、自身のフローシートを子供たちに見せながら、
「立論に対する質疑があり、それを基に第1反駁を行う。続いて、第1反駁に対して、第2反駁を行う。このフローシートの横の流れで見ていきます。そして、どっちのチームの反対の理由が強かったか、特に第2反駁で考えていきます」
とアドバイスした。

<判定>
賛成3:反対3で、同点引き分け。

<賛成判定の理由>
賛成側は紙に書いて教え合っていたのがよかった。反対側のデータは『高校受験に必要な勉強量』と書いてあったので、小中学生は関係ないので、データが違うと思った。

植本先生が、
「高校受験は中学生だから、論題の『小・中学生』には合っていると思うけど、データの扱い方がずれていた、という判断をしたんですね?」
と尋ねると、発表した女子がうなずいた。

<反対判定の理由>
「土日は出かけるからできない」という反論がズバッときた。

植本先生が、
「反対側の方が、第2反駁で相手をきっちり潰せて主張が保たれたという判断ですね。いい試合だったから、3対3の同点で分かれました。では、菊池先生に判定してもらいましょう」
菊池先生が、「責任重大だなあ」とニコニコしながら、判定した。

<菊池先生の判定>
賛成側の勝ち
今回のディベートでは、立論を前もって出し合い、相手チームが反論を考え合った。
ディベートの一番の楽しさは、相手の意見を予想すること。「どんなことを言うのかな」「相手がこう聞いたら、こう答えよう」と予想する。今日は、みんなが予想し合っていた。
ディベートのもう一つの楽しみは、さっき見せたフローシートのように、質疑が次の反論にどうつながっていったか、議論の流れ、引用して流れていく議論を楽しむこと。初めての第2反駁なのに、見事にできていた。
反対側の立論で、「夏休みが減ると、夏休みに勉強できる時間が減る」という意見があったが、若干矛盾している。
「夏休みにしかできない勉強とは、どんな勉強か」という質問が出たとき、「復習」と答えた。普通は、「学校でできない勉強」と答えることが多いが、「復習」と答えたのは、データが高校受験に充てる勉強時間だったから、そう答えたのだろう。
すると、賛成側が「夏休み以外の土日でもできる」と反論した。
それに対し、反対側は「土日は出かけるからできない」と反論したが、これも若干矛盾があるだろう。
反対側は、第1反駁で、「授業が間に合わない」「学習の効率が上がるデータがない」と反論したが、賛成側があまり丁寧に反論できなかった。
とは言え、立論からの流れを見ていくと、どちらかと言うと賛成側の方が丁寧にでき、論旨が一貫していた。

試合終了後、菊池先生が4試合についての講評をまじえながら、ディベート全体のまとめを話した。
「ディベートは、ルールでガチガチに縛られた話し合いに見えるけれど、『自分の責任を果たす』『自分の得意を生かす』『仲間と学び合う』というルールがあるからこそ、話し合いの仕方がわかり、みんなが成長できるのです。

①第2反駁まで楽しめるディベート
②メリット・デメリットを付け加えたディベート
③証拠を付けた話し合いができるディベート


今後は、この三つを意識したディベートに向かって行くことでしょう。ディベートの話し合いを繰り返す中で、一人一人が自分のよさをより発揮し、みんなで認め合って成長していく1組になっていくだろうな、と伝わってきました」
植本先生が続けて、
「私も菊池先生の合宿でディベートをしたんだけれど、その時、うまく出来なくて、何度も泣きそうになりました。今日、いろいろな人が参観している中で、堂々とできた君たちを本当に凄いと思った。今日、頑張った自分たちに大きな拍手を送り合いましょう」
と話すと、子供たちが笑顔で大きな拍手をした。

菊池省三先生による授業解説

ディベートには、根拠を伴った発表が必要になります。しかし、正解を求める通常の授業では、根拠を述べることはまずありません。よくて理由を発表する程度です。
話し合いにおいては、自分の意見に根拠を伴うことが必要不可欠です。根拠があることで、強い意見になるからです。
さらに、相手の意見に対して、相手の根拠のデメリットを示して反論し、ひっくり返していく。こうした話し合いは、経験しなければ身に付きません。そうした話し合いの流れを経験できるのが、ディベートです。ディベート学ぶのではなく、ディベート学ぶ視点を持つことが大切です。
ディベートは、次のようなステップを踏みながら指導していきます。

①ディベートごっこをする(二つの立場に分かれて意見を出し合う)
②きちんとしたディベートをする
③ディベートで学んだことを活かして、日常の対話・話し合いをより豊かにする

教師は、③をゴールに据えてディベートの指導をしていくことを忘れてはいけません。先にも述べましたが、大切なのは、「ディベートを学ぶ」ことではなく、「ディベートで学ぶ」ことなのです。
自由な話し合いでは、おとなしい子が押されがちですが、ディベートはチームで明確な役割があり、必ず発言する場があります。どの子も発言することで、番と平等が保障され、風通しがよくなっていきます。友達の発表を聞きながら、今まで気付かなかった“その子らしさ”に気付かされる場面も多々あります。ディベートは、自他を認め合う場でもあるのです。
さらには、チームで戦うことで、集団力も高まります。準備していなかった点を突かれ、答えなければならない場面も出てきます。そんなとき、チームで十分話し合っていれば、即興で答えられるようになっていきます。勝ち負け、というルールがあるからこそ、そうした力が付くのです。
ディベートは数を重ねていくうちに、ある程度はかみ合っていきます。
しかしその後、より迫力あるディベートに向かうことや、ディベートで身に付けた力が日常の話し合いに活かされていくことには、なかなかつながっていきません。
なぜでしょうか。
それは、判定の重要性を教師が理解せず、子供たちへの指導もおざなりになっていることにあります。
判定は、ディベートのメタ認知です。二つの意見のどちらに整合性があったかを見極めることです。
学習ディベートが学校教育に取り入れられ始めた当初、総じて国語科の教師は、「発音がいい」「はっきり話ができた」など、音声言語の判定(評価)に重きを置いていました。それに対して、社会科の教師は、話の内容を重視する傾向が強かったようです。
教科を問わずディベート指導においては、「ここの反論がよかった」とピンポイントで価値付けるだけでなく、「この意見に対してどんな反論をしたか」「その反論に対してどのような再反論をしたのか」等、議論の流れも見取って価値付けていく必要があります。
議論がつながっていくと、思考の幅が広がります。ディベートの横の流れを追いながら、議論のあり方を見ていくことの重要性を教師が理解していなければ、子供たちに理解できるわけがありません。従来の話し合い指導には、この視点が足りなかったのではないでしょうか。
まずは、教師自身が判定について学び直す必要があります。
そして、その判定についてさらに議論する。“メタ認知のメタ認知” によって振り返っていくことが大切です。

授業の様子。一つずつディベートの試合を重ねるごとに、教室の熱気が高まっていった。
一つずつディベートの試合を重ねるごとに、教室の熱気が高まっていった。

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取材・文/関原美和子


菊池省三先生の写真

Profile
きくち・しょうぞう。1959年愛媛県生まれ。北九州市の小学校教諭として崩壊した学級を20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ コミュニケーション力を育てる指導ステップ』(小学館)他著書多数。


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