「すべての子どもの学習権を保障する」学校をつくるために【木村泰子「校長の責任はたったひとつ」 #15】

連載
負の連鎖を止めるために今、できること 校長の責任はたったひとつ

大阪市立大空小学校初代校長

木村泰子
木村泰子「校長の責任はたったひとつ」 
#12 子どもの事実から「校長観」の転換を

不登校やいじめなどが増え続ける今の学校を、変えることができるのは校長先生です。校長の「たったひとつの責任」とは何かを、大阪市立大空小学校で初代校長を務めた木村泰子先生が問いかけます。
第15回は、<「すべての子どもの学習権を保障する」学校をつくるために>です。

開校1年目の大空小で起きていたこと

2006年にアウェイの中から生まれた大阪市立大空小学校の1年目は、悪戦苦闘の日々が続き、職員室では「どうしたらこの子が安心して学校に来ることができるだろうか」と雑談の毎日でした。教員はこれまでに出会ったことのない子どもとのかかわり方が分からなかったのです。言い換えると、ベテランであればあるほど、「どうして私の指示を守れない」「どうして椅子に座らない」「どうして教室に入らない」などと、主語が教員の自分であったために自分の指導力がないからだと焦り、困り、挙句には子どもや保護者のせいにするのです。
「この子がおかしい」「親の育て方がおかしい」「自分と学級の子どものアタリが悪かった」……こんな状況で、誰もが教師をやめたいと思っていました

そんなときに一人のベテランが「これまで教師の指導力が大事だと思って頑張ってきたけど、子どもを洗脳していただけなんかな……」とつぶやいたのです。誰が持ってもうまくいかない子どもとの出会いで生まれた言葉です。ベテランの教員がその言葉を自分事としてとらえました。そんなベテランの姿を見ている若い教員たちは何も言葉にはしませんでしたが、同様に納得していた空気がありました。

そこからです。これまでの学校の当たり前をいったんみんなで洗い出し、最上位の目的につながらないものはその都度捨てていきました。この原動力は日々の教職員同士の雑談でした。会議で決める時代ではないということにも気づいたのです。明日、子どもが学校に来られるかどうかの勝負をしているのですから。

開校時の1年間が何とか終わり、2年目を迎えるときに、大きく学校が動きました。開校2年目の新1年生は28人しかいません。ところがその中に「重度の知的障害」や「広汎性発達障害」などの手帳を持った子どもが10人いました。1年目の学校の様子を知った保護者たちが校区外から引越しをしてきていたのです。

1年生の担任ができる教員が誰もいない

「1年生の担任をしてくれる人?」と聞いても誰も手を挙げません。「特別支援学級の担任をしてくれる人?」も同様でした。あと数日で子どもがやってくるのにどうしたらいいかみんなで困り果てました。すべての教職員が自分事として学校の困り感を共有した瞬間でした。

最上位の目的を果たすための学校の新たなシステムを、すべての教職員が当事者になってつくり始めました。「誰も1年生の担任ができない」という現実を自分事として納得したからこそ、「担任制」は無理だと考え、捨てました。「担任制」を捨て「担当制」を新たに生み出し、「担任」と「担当」の違いを明確にしました。「担任」の主語は教員ですが、「担当」の主語は子どもです。手始めに「チーム担当制」を新たなシステムに組み入れたのです。

「チーム担当制」の目的
すべての子どもを多方面から見つめ全教職員のチーム力ですべての子どもの学習権を保障する学校をつくる

「チーム担当制」は手段です。その目的を言語化し、常に見える化して、ブレそうになったときは互いに自浄作用を高め合いながら、これまでに経験したことのない日々の「教員の仕事」へのチャレンジを始めました。

大空小の「チーム担当制」の中身

具体的な手段としては、低学年チーム、中学年チーム、高学年チーム、支援チーム、職員室チームの五つのチーム編成をしました。教員からは第3希望までを募り、校長が決めました。チームをどのようにつくるかは、各チームの主体性で進めます。最上位の目的につながる手段は何でもオッケーです。うまくいかなかったら瞬時にやり直しをすればいいのですから、まずは行動することを大事にしました。その際に各チームの共通事項は言語化しました。

チームの中で担当する授業を決める。その際に、初任者の教員から先に希望する教科を決める
子どもの状況に応じて、常に授業はシャッフルする
常に「人の力を活用する力をつける」ことを忘れない。「担任」と「担当」の違いを明確にしながら「やり直し」を繰り返す
学びの主語は子どもであることを見失わない
「職員室チーム」はすべてのチームをつなぐコーディネートの役割を果たす

「まずは行動しよう」とスタートしたところ、子どもの事実が驚くほど変わっていきました。外部の方がよく来られた学校でしたが、子どもたちは「あなたの先生は誰?」と質問されると、「全教職員!」と躊躇なく答えていました。教員に対しても「先生の子どもは何人ですか?」と聞かれると「260人です!」と全校の子どもの数を言っていました。

中でも子どもの言葉で「なるほど」と思わされたのは、「先生だけじゃないよ。教職員もだよ」と言い換えることです。学校の大人はすべて自分の味方なのです。そこに、保護者や地域住民が常に「サポーター」として子どもの味方でいる学校、これが「みんなの学校」です。「不登校」や「働き方改革」という言葉は生まれません。

まずは自校の状況に応じて「やる」ことです。すべての教職員が主体性と当事者意識をもち、行動して、うまくいかないときはやり直す。「人のせいにしない」大人の行動を子どもたちに見せませんか。

これ以上「自殺」「不登校」「いじめ」の件数の過去最多が続くのは、公教育の崩壊につながりかねません。新たなシステムを進化させる中で、これまでの学級担任制の弊害が見えてきました。

「学級担任制」の弊害に目を向ける

担任の「アタリ」「ハズレ」をつくる
担任同士の指導力の競い合いがサービス提供型になり、保護者の要求を過剰に増やす
子どもに失敗をさせなくなる
一人の大人の価値観しかないワクで学ばせようとする
人のせいにする子どもが育つ
教員同士が対立する構図ができる
子どもの主体性を奪ってしまう
子どもの残念な事実が過去最多の原因をつくる

ここに書かせていただいたのはあくまでも私自身の体験に基づいたことなので、校長先生方はご自分の学校の子どもの事実から全教職員とともに校長の「たった一つの責任」が果たせる手段をつくり出してください。

できるかできないではなく、まずはやるのです。うまくいかないことが当たり前の今の学校現場です。うまくいかなければ、みんなでやり直しをすればいいのですから。そんな校長の行動を周りの大人や子どもはしっかり見ています。

まとめ
 大空小のチーム担当制は、困り感の共有から生まれた。
 最上位の目的を果たすための学校の新たなシステムを、すべての教職員が当事者になってつくろう。
 学級担任制の弊害を放置してはいけない。
 
まずは行動しよう。うまくいかないときはやり直しをすればいい。


木村泰子先生

木村泰子(きむら・やすこ)
大阪市立大空小学校初代校長。
大阪府生まれ。「すべての子どもの学習権を保障する」学校づくりに情熱を注ぎ、支援を要すると言われる子どもたちも同じ場でともに学び、育ち合う教育を具現化した。45年間の教職生活を経て2015年に退職。現在は全国各地で講演活動を行う。「『みんなの学校』が教えてくれたこと」(小学館)など著書多数。


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