子どもたちの人間関係をよりスムーズに! 発達段階に合わせて学級でできる、ソーシャルスキルトレーニング ~総論~

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ストレスフリーの教室をめざして
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近年、子どもたちの社会性が低下していると危惧する声が高くなっています。社会性が低下すると、円滑な対人関係を作ることが難しくなり、子どもたちが学校生活にストレスを感じたり、些細なことが大きなトラブルになったりと、多くの問題を生じさせます。対人関係について、しっかり子どもたちに指導することも、今や教員として大切な仕事だと言えます。
そこで今回の記事からは、小学校の教室で行う「ソーシャルスキルトレーニング(SST)」の指導アイディアについて、①総論②低学年編③中学年編④高学年編の4回にわたって紹介します。

【連載】ストレスフリーの教室をめざして #12

執筆/埼玉県公立小学校教諭・春日智稀

1 ソーシャルスキルとは

ソーシャルスキルとは、直訳すると「社会的スキル」のことで、河村ら(2007)は「対人関係を営む知識と技術」と定義しています。ソーシャルスキルトレーニングはSST(Social Skills Training)と略されます。
具体的には、「上手なあいさつ」「上手な話の聞き方」「励まし方」「頼み方・断り方」「仲直りの仕方」「グループの入り方」など様々なものがあります。

2 なぜソーシャルスキルが必要なのか

近年、子どもたちの社会性の低下が指摘されています。この背景には、核家族化の進展やSNSの急速な普及など、社会的構造や文化の移り変わりがあると言われています。昔は、多様な人間関係(学校・家庭・地域など)の中で人と関わりながら社会性を学んでいました。しかし現代の子どもたちは、そもそも関わる人が周りに少なかったり、友達との交流はSNSで完了したりして、社会性を学ぶ機会が減少しているのです。
社会性が低下するとなぜ困るのか。それは、対人関係がうまくいかなくなるからです。些細なことでトラブルになったり、人と関わることを敬遠したりして、ストレスをため込んでしまうのです。
そこで注目されるのがソーシャルスキルトレーニングです。人とのかかわり方を授業や日常生活の中で学ぶことができるこのトレーニングを通じて、社会性を学ぶ必要があるのです。

3 ソーシャルスキルを学ぶ価値

ソーシャルスキルトレーニングは、その子の性格や気質に由来するものではなく、学習の結果である、という発想に立ちます。例えば友達とのトラブルが多い子は、性格や気質のせいではなく、「友達との上手なかかわり方を学んでいない、または誤って学んだ」と考えます。つまり、適切なスキルを学習することによって、友達と上手にかかわれるようになることを目指します。
これらのことから、学校という小さな社会の中で、友達や教師と関わりながら、授業や日常生活の中でソーシャルスキルを学ぶことにとても大切な価値があるのです。
さらにソーシャルスキルトレーニングは、特別に配慮を要する児童にとっても大きな価値があります。例えば人とのかかわり方は、いわゆる「暗黙知」とされる部分が多く、子どもたちはこれまでの経験の中で獲得してきています。しかし特別に配慮を要する児童の中には、その「暗黙知」を理解することができずに、人との距離感を適切に取れなかったり、相手の表情や仕草から感情を読み取ることに困難を抱えていたりします。これらをロールプレイや日常生活の中で学習することによって、人とのかかわり方を丁寧に身に付けることができるのです。

イメージ「友達と上手にかかわる」

4 指導の4段階

ソーシャルスキルを教える手順は、次の4段階です。

①インストラクション(説明・教示)

扱うスキルと、それをトレーニングする意義を説明します。

扱うスキルは、学級の実態に即したものを選びましょう。また、なぜそのスキルを扱うのか、分かりやすく説明しましょう。

②モデリング(観察)

扱うスキルのモデルを見せます。教師が示す場合や、子どもが示す場合もあります。よいモデルはもちろんのこと、悪いモデルを見せる場合もあります。

モデリングは、「観察学習」とも呼ばれます。実際に自分が行動しなくとも、観察することによって頭の中で良いモデルや悪いモデルを学習しているのです。良いモデルをうまく示すことが、このあとの展開に大きく影響します。

③リハーサル(試す)

想定場面や日常生活の中で、扱うスキルを実際に試してみます。

最もいけないのは「教え込み」です。そのスキルを実践することのよさや楽しさを実感できなければ、日常生活に定着することはありません。教師はその場の雰囲気をよく観察し、子どもが安心してチャレンジできる環境を整えましょう。

④フィードバック(強化)

子どもたちが実践した行為を適切に評価し、言葉にしてフィードバックします。

最も大切なのは、「具体的にフィードバックをする」ということです。ほめる・認める・広げる・修正する、などの内容に応じて、「〇〇さんのここがよかったよ。」「その行動は素晴らしいね、ぜひ普段から実践してほしいな。」「〇〇さんは今日、みんなのために□□をしてくれました。」「〇〇さん、ここをこう変えるともっと相手は嬉しいと思うよ。」といった声をかけます。

5 指導プログラムの例

⑴ プログラム名 「上手なあいさつ」
⑵ 対象:全学年
⑶ ねらい 上手なあいさつの仕方を身に付け、人間関係づくりの第一歩を円滑なものにする。
⑷ 指導の実際(:教師のセリフ

表組 指導の実際

【引用参考資料】
『いま子どもたちに育てたい学級ソーシャルスキル小学校低学年』河村茂雄・品田笑子・藤村一夫 編著、2007 図書文化
『いま子どもたちに育てたい学級ソーシャルスキル小学校中学年』河村茂雄・品田笑子・藤村一夫 編著、2007 図書文化
『いま子どもたちに育てたい学級ソーシャルスキル小学校高学年』河村茂雄・品田笑子・藤村一夫 編著、2007 図書文化
埼玉県立総合教育センター研究報告書第307号「ソーシャル・スキル・トレーニング(SST)に関する指導プログラムの開発」埼玉県立総合教育センター指導相談担当、2006

イラスト/坂齊諒一

<プロフィール>
春日智稀(かすが・ともき)
2015年より埼玉県公立小学校教諭。体育主任・生徒指導主任・研究主任・教務主任などを担当。
ケアストレスカウンセラー/青少年ケアストレスカウンセラー。
日本生徒指導学会 日本学校教育相談学会 会員。

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