「ダブルリミテッド」とは?【知っておきたい教育用語】
国際化の進展に伴って、「ダブルリミテッド」の問題が浮上してきました。主に、日本に在住する外国籍の子どもに関わる問題ですが、海外で生活する日本人の子ども、また日本でバイリンガルに育てようとする場合にも、ダブルリミテッドは避けられない問題です。
執筆/創価大学大学院教職研究科教授・宮崎猛
目次
「ダブルリミテッド」は、グローバル化による子どもの言語問題
【ダブルリミテッド】
「ダブルリミテッド」とは、二つの言語を用いることができる環境にありながらも、どちらの言語も不十分な言語能力しか獲得できていないこと。「ダブルリミテッドバイリンガル」ともいわれ、セミリンガルや限定的バイリンガルと呼ばれることもある。1つの言語を年齢相応に身につけ、もう一方の言語が不十分である場合はダブルリミテッドにはあたらない。
ダブルリミッテッドは、どのような状況で生まれるのでしょうか。母語を十分に身につけていない幼少段階で海外に家族で移住してきた子どもが、ダブルリミテッドとなる可能性があります。
母語とは、親が使っている言語のことで、一般的には母国語が母語となります。移住後の子どもにとっては、母語を獲得する機会は親とのコミュニケーションに限られるなど限定的となります。一方、移住先で教育を受ける必要もあり、そのためには移住先の言語も身につけなければなりません。
母語が身についていないと、外国語を身につけることは難しいともいわれています。移住先での外国語の獲得も難しい場合において、母語も外国語も中途半端になってしまうのです。現在の生活だけでなく、将来の生活にも支障をきたすことになりかねません。
もちろん、海外移住後も母語を獲得できる環境に置かれ、とりわけ読み書きなどを身につけることができれば、ダブルリミテッドにはなりません。また、外国語の取得も移住先で適切な教育を受けることができれば、ダブルリミテッドにはならないでしょう。一方、母国を主要言語とする国に住んでいても母語を極端に排除し、バイリンガルに育てようとするとダブルリミテッドになるリスクもあります。例えば、日本の子どもに、幼少期から自宅でも学校でも英語だけでコミュニケーションするように育てる場合などです。
日本語の指導が必要な児童生徒の増加とダブルリミテッド
近年、海外からの日本への移住者が増加しています。それに伴い、教育現場でのダブルリミテッドが課題として浮上してきました。今後も、この問題は教育現場にとって大きな課題となるでしょう。
文部科学省の調査によると、日本語指導が必要な外国籍の児童生徒数は、2023年の調査で5万7718人にのぼり、2年前の2021年に行われた調査より、21.2%も増加しています(1万99人増)。このうち、90.4%は、学校で特別な配慮に基づく指導を受けているとされています。また、「特別の教育課程」による日本語指導を受けている割合は、72.3%と報告されています。
一方で、中学校から高校への進学率は、全体が99%であるのに対し、日本語指導が必要な中学生の高校への進学率は、90.3%。高校中退率は、全体が1.1%であるのに対し、8.5%。大学等の高等教育への進学率は、全体75.0%であるのに対し、46.6%に留まっています。こうしたことから、90%が特別な配慮に基づく指導を受けているとはいえ、その内実には課題があるものと考えられます。
外国籍の子どもを多く抱える自治体は、外国籍の子どもたちの教育に大きな役割を担うことになります。日本の教育を受けさせるためには、日本語を習得させなければなりません。学校現場からは、通訳などの人材の不足や予算の欠如、予告なしの転入への対応の難しさなどが課題として挙げられています。
言語は、アイデンティティの獲得に結びつきます。言語が十分に身についていないと、アイデンティティの獲得も難しくなります。子どもたちは、自分から望んで外国に移住してきたわけではありません。ダブルリミテッドの子どもの増加は、子どもたちが健全に幸福に暮らす未来への障害になるとともに、社会不安にもつながります。国全体の課題として取り組んでいく必要があるでしょう。
▼参考資料
東洋経済education×ICT(ウェブサイト)「子どもを苦しめる『国を越えた転校』、母語・日本語ともに課題のある『ダブルリミテッド』を防ぐ教育に必要な視点」2024年9月9日(月)
文部科学省(PDF)「令和5年度 日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査結果 結果の概要」令和6年8月
『完全改訂版 バイリンガル教育の方法(アルク選書)』中島和子、アルク