開脚跳びの前にどんな運動に取り組めばいいの? 【使える知恵満載! ブラッシュアップ 体育授業 #68】
跳び箱運動の中でも、最もポピュラーなのが開脚跳びです。しかし、必要な運動感覚が身についていない状態で、跳び箱を準備して開脚跳びに取り組んでも、なかなかうまくいきません。逆に、恐怖心が芽生えたり、準備や片付けに時間がかかり、十分な運動機会が得られなかったりすることが考えられます。そこで今回は、開脚跳びに必要な運動感覚を身につけることができる「馬跳び」について、指導のポイントやバリエーションを紹介します。
執筆/筑波大学附属小学校教諭・齋藤直人
監修/筑波大学附属小学校教諭
体育授業研鑽会代表
筑波学校体育研究会理事・平川譲
目次
1 馬跳びのポイント
まずは、馬跳びの運動のポイントについて整理します。
馬跳びは2人で行う運動です。安全面を考慮して、必ず体格が同じくらいの2人が組むようにします。馬跳びは跳ぶことも大切ですが、丈夫で安定した安全な「馬」をつくることが大切ですので、組み合わせには配慮が必要です。
①馬の背中の中央に手をつきます。指を開き、指先に力を入れ、手のひら全体をつきます。
②膝を曲げてから踏み切ります。
③肩と頭を前に出して、着地する場所を目で確認します。
④両手で馬を押します。後ろに押すイメージで着地ギリギリまで手を離さないようにします。
2 馬跳びのバリエーション
1で紹介した馬跳びの「馬」が一般的ですが、最初からあの高さの馬を跳ぶのは簡単ではありません。そこで、下のイラストのような低い馬から取り組み、跳び越す感覚を着実に身に付けさせましょう。
また、高さに関しては、「高い馬だからよい」ではなく、自分の感覚に合った高さを選んでスムーズに跳び越すことを大切にしましょう。
<1の馬>
①手と膝を肩幅に開いて床につきます。
②肘を伸ばして、へそを見て頭を引っ込めて、背中を平らにします。
③お腹に四角い箱が入るイメージです。
<2の馬>
①手は肩幅に、足はそれよりもやや広く開いて床につきます。
②肘と膝をしっかり伸ばして、体に力を入れて、頭を引っ込めます。
<3の馬>
①足は肩幅よりも広く開いて、しっかり膝を伸ばします。
②肘を伸ばして足首をつかみ、頭を引っ込めます。
<4の馬>
①足は肩幅よりも広く開いて、しっかり膝を伸ばします。
②肘を伸ばして膝をつかみ、頭を引っ込めます。
3 それでも跳べないときは…
初期の段階では、1~4の馬でも跳べないことがあります。また、跳び越す直前に背中から手を無意識に離してしまい、跳び越えたつもりになっている場合もあります。
これは、高さの問題だけでなく、馬の背中を押して、自分の体を支えながら、体を前に投げ出す経験がないことが考えられます。そこで、「手で背中を押す感覚」と「肩よりも頭を前に出す感覚」を高めるための「0の馬」を紹介します。
<0の馬>
馬をつくるときは、手を床につき、その上におでこを乗せるようにします。
①イラストのように、膝を曲げてカメのような形で体を小さくします。
②跳び越える際に手を離してしまう場合には、手をついたまま両足で跨ぐようにして歩き、ギリギリまで手を離さないようにしましょう。こうすることで、馬を後ろに押す感覚を養うことができます。
4 絶対に助走して跳ばない!
馬跳びに慣れてくると、助走をつけて跳びたくなります。特に、馬の高さを高くすると、その傾向は強くなります。しかし、
必要以上に勢いがつき、踏切りや着手に強い力がかかり、その力に馬が耐え切れず、馬が崩れることがあります。そうすれば、馬をしている子だけでなく、跳んでいる子もバランスを崩して転倒し、2人ともが大きなケガをしてしまう恐れがあります。全体でその都度確認し、事故が起きないように取り組みましょう。
5 30秒馬跳びに挑戦!
30秒間でどれだけ多く馬を跳ぶことができるかに挑戦します。高さは特に指定せず、自分がスムーズに跳び越せる馬を選ばせます。
スタートの合図で始め、手でしっかり馬の背中を押して跳びます。着地したら素早く向きを変えて、すぐに跳びます。跳んでいる子は、跳ぶことに集中してほしいので、馬の子がしっかりと回数を数えるようにします。
自分の記録更新をねらうのはもちろん、ペアで合計何回跳んだのかを記録し、協力しながら取り組めるようにしていきましょう。
◇
このように、跳び箱を使わなくても、開脚跳びに必要な運動感覚を高めることができます。言い換えると、馬跳びで十分に感覚を高めておけば、跳び箱に対して抵抗感が少ない状態で取り組むことができるということです。次の〈#69〉では、さらに馬跳びのアレンジを紹介します。
【参考文献】
・山本悟,眞榮里耕太(2008)『写真でわかる運動と指導のポイント とび箱』大修館書店
・眞榮里耕太(2017)『写真でわかる運動と指導のポイント 体つくり』大修館書店
・齋藤直人(2021)「対話でつなぐ体育授業51」東洋館出版社
イラスト/佐藤雅枝
※連載「ブラッシュアップ体育授業」について、メッセージを募集しております。記事に関するご感想やご質問、テーマとして取り上げてほしいことなどがありましたら、下の赤いボタンよりお寄せください(アンケートフォームに移ります)。
執筆
齋藤直人
筑波大学附属小学校 教諭
筑波学校体育研究会 理事
1985年 山形県庄内町生まれ。「体の基本的な動きを身に付け、高めること」を目指した対話(声かけ、お手伝い)でつなぐ体育授業を研究。全国の子どもたちや先生方が、今よりほんの少しでも体育授業を好きになってもらえる方法を模索中。著書に『対話でつなぐ体育授業51』(東洋館出版社)等。
監修
平川譲
筑波大学附属小学校 教諭
体育授業研鑽会 代表
筑波学校体育研究会 理事
1966年千葉県南房総市生まれ。楽しく力がつく、簡単・手軽な体育授業を研究。日本中の教師が簡単・手軽で成果が上がる授業を実践して、日本中の子どもが基礎的な運動技能を獲得して運動好きになるように研究を継続中。『体育授業に大切な3つの力』(東洋館出版社)等、著書多数。