教育は人なり!先生のストレスマネジメント ~セルフケア編~

関連タグ
ストレスフリーの教室をめざして
バナー

「VUCA(ブーカ)」と呼ばれる予測困難な今の時代において、「先生」に求められる仕事の量や質もどんどんと変化しています。それに伴い、先生が抱えるストレスも多種多様で、増加しています。「教育は人なり」と言われるように、子どもにとって身近な先生が元気にハツラツとしていることは、教育において何よりも大切です。今回は、「先生のストレスマネジメント~セルフケア編~」に焦点を当てた内容をまとめました。

【連載】ストレスフリーの教室をめざして #08

執筆/埼玉県公立小学校教諭・春日智稀

※VUCA=Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)

1 先生のストレスとは

先生のストレスは実に多種多様です。これは、「先生の仕事の種類が多種多様」だからです。学習指導・生徒指導・保護者対応・教材研究・職員会議・研修・事務作業…など、本当に幅広いのです。
さらに、これらに加えて、時代の変化に合わせた指導形態や授業の工夫も求められますし、保護者のニーズも変容していますから、「ある程度経験を積めばその貯金で仕事が楽になる」ということでもありません。常に自己研鑽が必要になります。
「ストレスの感じ方は人によって違う」
これが今回の大きなテーマです。つまり、同じ仕事内容でも、生き生きとこなせる先生と、大きな負担感を感じる先生がいるのです。
ストレスへの対処は、主に①セルフケア(自分自身でできるケア)と、②ラインケア(組織としてできるケア)の2種類に分けることができます。今回は、①セルフケア(自分自身でできるケア)についてまとめます。

2 ストレスへの対処 セルフケア編

① まずは睡眠!

快適な睡眠

睡眠時間を確保することを何よりも大切にしてください。心身の不調に直結するからです。睡眠が不足すると、例えば次のようなことが起こります。

物事を悲観的に考えるようになる
考え方が極端になる
集中力が低下する
思考力・判断力が低下する
イライラする
無気力になる
体調を崩しやすくなる

子どもの命を預かる先生には、高いパフォーマンスが求められます。例えば「考え方が極端になる」と、ささいな失敗でも「こんな失敗をするなんて、私はやっぱりダメな先生だ」などと考えてしまいます。小さなストレッサーを、自分で大きくしてしまうのです。こうなると、高いパフォーマンスは生まれませんし、重要な判断を誤る可能性すらあります。
また、例えば通勤手段が自家用車の場合には、事故のリスクが高まります。
とはいえ、保護者対応や学校危機の場合には、どうしても睡眠が不足するタイミングもあると思います。大切なことは、「睡眠不足を慢性化させない」ということです。睡眠が不足した次の日は早めに帰宅してゆっくり休むなど、先手型の対応が大切です。
睡眠環境にこだわることも大切ですね。

午後はカフェイン摂取を控える
入浴してリラックスする
寝る間際にスマートフォン等のブルーライトを浴びない
身体にあった寝具を用意する

などに気を付けましょう。最近はスマートウォッチ等で睡眠状況を解析してくれるアプリもあります。こうしたものを活用するのも良いですね。

入浴してリラックス

② 自分のビリーフについて知る

ビリーフは、「信念・価値観」と訳されます。あなた自身がこれまでの経験から、自分自身で獲得・形成してきたものです。そのため、個々人でさまざまに異なります。さらにビリーフの中には、「イラショナル・ビリーフ」と呼ばれるものがあります。直訳すると、「非合理的な思い込み」となります。例えばこんなものがあります。

レッテル貼り「長男だからしっかりしている」「末っ子だからわがままだ」
白黒思考「あいさつを無視された。私を嫌っているんだ」
過大評価・過小評価
 過大評価:「(些細なことで)大変なことをしてしまった」
 過小評価:「(重要なことで)このぐらいは全く問題がない」
被害的思考「ここにいる全員が私のことを責めている」
完璧主義「テストで一問間違えた。私はダメな人間だ」
過度の一般化「(一人の落ちつかない子どもを見て)このクラスは荒れている」
ねばならない思考「先生はいつもパーフェクトでなければならない」

ここでは、多くの人がもっているであろう「ねばならない思考」について取り上げます。例えば以下のようなものがあります。

「先生はだれからも好かれなければならない」
「仕事は絶対に失敗してはならない」
「弱みは人に見せてはならいない」
「先輩からのお願いは絶対に断ってはならない」
「人を利用するべきではない」
「相手の心は傷つけてはならない」

こうした考えに縛られ、自分で自分を苦しめていないかを考えます。
考えるポイントは、①事実に基づいているか、②論理的必然性があるか、の2点です。例えば、「先生はだれからも好かれなければならない」に対しては、
「だれからも好かれている先生は存在するか?いるとすれば、その先生を知っている人全員に聞いてみたのか?」(事実に基づいているか)
「だれからも好かれる必要はあるのか?だれからも好かれたとして、自分に足りない部分や意見を言ってくれる人はいるのか?」(論理的必然性があるか)
といった具合に考えます。先生でなくとも、人間関係に由来するストレスはとても大きいものです。仕事をしていれば、自分とベストマッチな人も、そうでない人とも出会うでしょう。そんな中で、「先生はだれからも好かれなければならない」というイラショナル・ビリーフが強すぎるとかなりしんどいですよね。
「だれからも好かれるに越したことはないが、そうならない場合もある」程度に修正してあげた方が健康的です。
筆者のおすすめは、自分を苦しめるイラショナル・ビリーフが浮かんできたときに、「だれが決めたの?」「それって本当?」と自分に問うことです。

「だれが決めたの?」「それって本当?」と自分に問う

③ コーピングレパートリーを増やす

過去の連載記事でも触れましたが、ストレスへの対処のことを「コーピング」と呼びます。コーピングには、大きく分けると、

①問題焦点型コーピング
②情動焦点型コーピング

の2種類があると言われており、ストレスへよりよく対処するためにはコーピングレパートリーが豊富であることが望ましいとされています。

①問題焦点型コーピング
タスクの量が多い時には、優先順位をつけて順位取り組む
同僚に意見を求めたり、一緒に行ったりする
自分の力量に対して明らかに仕事の難易度が高いと思われる場合には、管理職に相談して調整をしてもらう
同僚は、どのようにタスクを処理しているのか見たり、聞いたりする

などが考えられます。つまり、仕事をしながらそれをうまくこなすためのスキルを身に付け、ストレスになる仕事の難易度を相対的に下げていくイメージですね。職場に自分の尊敬できる同僚、憧れる管理職の先生がいれば、思い切ってその人に尋ねてみるのも良いと思います。

②情動焦点型コーピング
情動焦点型コーピングの中には、「認知再構成法」や「ストレス発散法」があります。
「認知再構成法」は、上述したようなイラショナル・ビリーフの修正を試みる方法です。
「ストレス発散法」は、いわゆるストレス解消と聞いて思い浮かぶものです。

カラオケで思いっきり歌う
同僚とグチを言い合う
趣味に没頭する
運動をする
映画を観る

などは一般的ですね。
筆者は「運動をする」を強くおすすめします。運動が及ぼす好影響はたくさんの研究で証明されています(例えば『運動脳』アンデシュ・ハンセン/サンマーク出版)し、何より健康に良いです。
「運動」と聞くと「きつい、つらい」というイメージもありますが、1日20~30分のウォーキングをするだけでも効果があると言われています。おすすめは朝の日課に組み込むことです。

④ 援助希求は怖くない

「みんな忙しいし、今更こんなこと聞いたら迷惑かな」「できないことを言うのは、自分の評価が下がるかな」だれもが感じたことがあるのではないでしょうか。これは、背景に「仕事は自力でやるものだ」というイラショナル・ビリーフが作用していることが推察されます。実際、多くの若手の先生の悩みの一つに、「分からないことを人に聞くことができない」があるそうです。また若手に限らず、キャリアを積んで周りからの期待が集まる中堅~ベテランでも、同じような悩みをもつ場合があります。
だれかに助けを求めることを「援助希求」と言います。今は「SOSを出す力」と言って子どもたち向けのプログラムも開発されています。
援助希求を表明するときに大切なことは、決して「丸投げしてよい」ということではないと理解することです。できない仕事を他者にお願いするだけでは、責任の放棄になりますから社会人としての資質が問われてしまいます。そうではなく、あくまで主体は自分だけれども、周りの人たちの強みを拝借する、ということです。例えば近年ICTの発達が目覚ましいですから、教育現場にもどんどんと活用されています。しかしICTは先生によっての得手・不得手が大きく出るツールですし、これこそできる先生に聞くのが一番早いです。例えば、「先生、ICTを活用した授業で大切なことは何ですか?」「このコンテンツは、どうやって使うと効果的ですか?」などと聞いてみると、喜んで教えてくれるのではないでしょうか。また、「先生、今度授業を見せていただいてもよろしいですか?」などと申し添えると、どんどんと学びが深まっていくことと思います。
もし「今は忙しいから」と断られてしまっても、「ではまた改めてお尋ねしますね」といってリベンジしてみましょう。決して先生自身を否定しているわけではありません。

【参考引用資料】
つきあいの心理学/国分康孝/講談社
教師の悩みとメンタルヘルス/諸富祥彦/図書文化社

イラスト/坂齊諒一

<プロフィール>
春日智稀(かすが・ともき)
2015年より埼玉県公立小学校教諭。体育主任・生徒指導主任・研究主任・教務主任などを担当。
ケアストレスカウンセラー/青少年ケアストレスカウンセラー。
日本生徒指導学会 日本学校教育相談学会 会員。

学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!
関連タグ

教師の働き方の記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました