低学年の心に自然にゆきわたる「性の多様性」の伝え方
13人に1人はいると言われるLGBT。教師は、クラスにLGBTの子がいるという意識が必要です。多様な性を低学年の子にどのように伝えるとよいのか、小学校教師経験もある専門家が解説します。
執筆/LGBTの子ども・若者をサポートする「FRENS」代表・小野アンリ
小野アンリ●トランスジェンダーであることをカミングアウトし、3年間福岡市内の小学校に勤務。現在、セクシャルマイノリティの子ども・若者をサポートする団体「FRENS」代表として活動。
目次
多様な性に対する「正しい知識」と「慣れ親しみ」を持つことが大切
私がLGBTの子たちに接していて感じるのは、こうした子どもたちは学校生活を送る上で、さまざまな課題に直面しているということです。トイレ、体育の授業、服装、遊び、友達との会話など、いろいろなことで困り感を抱えつつ生活しています。
しかし、その困り感を先生や友人に言葉で伝えることはほとんどないでしょう。なぜならLGBTの子どもたちの中には、幼児のころから、「生まれ時に割り当てられた性別」らしからぬものが好きで、そのことで笑われ、馬鹿にされ、否定されるという経験をたくさん積み重ねてきている子どももいるからです。そして、ホモ、おかまなど、偏見に満ちた言葉を浴びながら、たくさん我慢をして生きてきました。たとえその言葉が自分に向かって言われたわけではなくとも、自分のことのように感じて、自己否定をしてしまっているのです。
高学年になると、LGBTの子たちの困り感はさらに複雑になります。そして、反抗的行為、自傷行為、不登校など、さまざまな問題行動とみなされる言動につながることがあります。
そうならないためにも、まず、その子たちがカミングアウトしなくても、それなりに安心して暮らせる環境を学校の中に整えることが重要です。そして先生方には、LGBTの子どもたちが、言語化できない困り感を日々抱えていることをぜひ知っておいてほしいと思います。
教師の悪気のない、無神経な言動によって差別やいじめにつながることもある
LGBTの子が安心できる環境に必要なものは、周りの人の、性別の当たり前にとらわれない寛容な認識・言動です。保護者や、教師、子どもたちのLGBTに対する否定的、攻撃的な言動を見るのは、当事者である子にとって、非常につらい状況なのです。まず、教師が知らず知らずのうちに差別的・否定的な言動をしていないか、ふり返ってみましょう。
《LGBTの子を傷つける教師の言動》
・ホモ、レズ、おかま等の言葉を使って笑いを取る。
・おねえタレントの真似をする。
・女装ネタをする。
こうした言動は、単に子どもの注目を集めたり、その場を盛り上げるために使いがちです。しかし、こうしたささいな悪気のない差別的言動が、性的マイノリティの子どもたちの安心感を奪うのです。さらに、先生が性を笑いのネタにすることで、差別やいじめにつながることも多いのです。
また、多様な性に関する情報に、生活圏内でアクセスできることも重要です。例えば、図書室や保健室、地域の図書館などにLGBTに関する本があることを知らせるとよいでしょう。性の多様性を知ることはもちろん、性のあり方について、偏見に満ちた言葉ではなく、適切な表現を習得することも大事なことです。
子どもに性の多様性を伝えるために教師ができることとは
① 教師自身が、LGBTに慣れ親しむ
性の多様性を受容できる学級をつくるためには、先生自身がどれだけLGBTに親しみを感じているかが大きなポイントです。先生が心の中で性の多様性に対する偏見を持っていたり、本気でその人たちを知ろうとしなければ、その価値観が言葉の端々に出てしまい、どのような実践をしても、その学習効果は下がるでしょう。
LGBTに関する手記はたくさん出版されています。また、『しまなみ誰そ彼』鎌谷悠希作(小学館刊)、『きのう何食べた』よしながふみ作(講談社刊)など、LGBTの人が登場人物に出てくる漫画は心情を理解しやすく、お薦めです。
② 絵本や映像資料を利用し、慣れ親しむ
子どもたちにとってもLGBTに慣れ親しむということは非常に重要です。低学年の教材としてお薦めなのは、映像資料と絵本です。映像資料は、子どもたちと年齢が近いLGBTの子が実際に話をしているドキュメンタリー的なものが、イメージがしやすいでしょう。
授業で取り入れる際、子どもたちからどんな発言が出るか、不安に思う先生もいるのではないでしょうか。あらかじめいろいろな場面をシミュレーションしておくとよいでしょう。もし、子どもからLGBTを馬鹿にするような言葉や笑いが出た場合、その子を強く叱りつけることはお薦めしません。誰かのことを差別したり否定する意図はなく、ただ反射的に馬鹿にしたり、笑ってしまっている場合が多いので、注意されても、ダメな理由がわからないのです。
だからこそ、なぜ笑ってしまうのか、なぜ気持ち悪いと思うのか? その気持ちにアプローチし、考えてみることが大事です。
「いま笑ったけど、どうしておかしいって思ったのかな? おかまってどういう人たちなのか知ってる? 知らないことがあるかもしれないよね。だからこの本で、男の子が好きな男の子のこと、もっと勉強をしてみようね」
などと言って、絵本につないでいくような実践があってもよいかもしれません。また、読み聞かせの途中の場合は、
「そのおかまって言葉って、どういうふうに使われてきたんだろうね。その言葉について後で話し合ってみようね、じゃあ続きを読むね?」
と言って、流れを止めず、読み進めるのもよいでしょう。
③ 「男らしさ」「女らしさ」の感覚をほぐす
子どもたちに多様な性を考えさせるきっかけとして、男らしさ、女らしさの感覚をほぐすことも効果的です。
「みんなは、女の子らしくしなさい、男らしくしなさいと言われるのは好き?」
「生まれたときに決められた性別がそうだからって、やっていいこと、悪いことを決められるのっておかしくない? この変な『おきて』のようなものはなんのためにあるんだろうね」
こうした語りかけも、低学年に自然に「性」について考えさせ、視野を広げるきっかけになるのではないでしょうか。
LGBTに慣れ親しむお薦めの絵本(低学年向け)
『くまのトーマスはおんなのこ ジェンダーとゆうじょうについてのやさしいおはなし』
作/ジェシカ ウォルトン
絵/ドゥーガル・マクファーソン
(ポット出版プラス刊)
『王さまと王さま』
作/リンダ・ハーン、スターン・ナイランド
(ポット出版刊)
取材・文/出浦文絵
『小一教育技術』2018年2/3月号より