信頼関係はよりよいコミュニケーションから! 教育相談とカウンセリングアイディア
多様な原因やきっかけがある子どものストレスですが、近くにいる先生がそのストレスを軽減させてあげることもできます。その役割の中心を担うのが「教育相談」であり、中核となる技法が「カウンセリング」です。今回は、子どもや保護者がストレスにうまく付き合う過程を支えるための、先生の教育相談とカウンセリングのアイディアについてまとめました。
【連載】ストレスフリーの教室をめざして #06
執筆/埼玉県公立小学校教諭・春日智稀
目次
1 教育相談とカウンセリングは誰のもの?
生徒指導の基本書である『生徒指導提要』(2022、文部科学省)では、教育相談の目的は「児童生徒が将来において社会的な自己実現ができるような資質・能力・態度を形成するように働きかけること」とされており、生徒指導と教育相談を一体としたチーム支援が求められています。
また同書には、「教育相談の基盤となる心理学の理論やカウンセリングの考え方、技法は児童生徒理解において有効な方法を提供するもの」と述べられています。
つまり教育相談やカウンセリングは、ある特定の役割をもった人(教育相談コーディネーターやスクールカウンセラーなど)だけが行うものではなく、すべての先生が行うものなのです。そしてその力量を高めることは、ストレスをはじめとする子どもの不適応の予防や対応にとても効果があるのです。
2 教育相談の工夫アイディア
⑴ 学級単位で!「全員面接」
筆者は、「全員面接」をおすすめしています。全員面接とは、文字通り学級の子どもたち全員と面接をすることです。「そんな時間ないよ…」という声が聞こえてきそうですが、次のような場面で設定してはどうでしょうか。
①業間休みや昼休みを帯で活用し、「全員面接ウィーク」を設定する。(一人5分×5日間、など)
②学期末の「通知表を渡すタイミング」を面接時間にする。
なぜ筆者が全員面接をおすすめしているかというと、「先生は全員に平等に関心があるよ」ということが分かりやすく伝わると考えるからです。学級には様々な子がいますから、コミュニケーションを積極的に取ることができる子と、そうでない子がいます。毎日忙しいですから、つい子どもから話しかけてきてくれる子とのコミュニケーションが多くなりがちです。多少の差はやむを得ないですが、気づけば授業以外でほとんど会話がない…なんてことも起きてしまう可能性があります。子どもは基本的には「先生に話しかけてほしい、興味をもってほしい」と思っています。それは、「認められたい」という承認欲求があるからです。
実際の面接場面では、いくつか質問項目を決めておいて、あとはそのときの状況で自由に質問を決める形がよいと思います(半構造化面接といいます)。時間は5~10分がよいと思います。学期に1回ずつできれば、その時々の行事などについて話題にするのもよいですね。もし時間を要する話題が出てきた場合には、「あとで必ず時間を取ってよく聴くからね」と約束をして、改めてしっかりと聴いてあげましょう。
ストレスや不安は、だれかに話すことで低減するという調査報告もあります。日頃から、子どもがSOSを発信しやすい雰囲気づくりに努めることも大切ですね。
⑵ 学校単位で!「グループ面接」
筆者の提案するグループ面談とは、「決められたテーマで希望者を募り、学年関係なく集まったメンバーで本音を語り合う」というものです。テーマの例としては、「勉強について悩んでいる人」「友達との関係で困っている人」などが考えられます。先生ももちろん参加しますが、ここではファシリテーション役にまわり、子どもたち同士の語り合いを促進するように支援します。
筆者がこれまでに行ったグループ面接の一場面ですが、「勉強について悩んでいる人」が集まる場面において、低学年の子が「算数が難しくて…」と話し出すと、高学年の子が「なんの勉強?」「算数って難しいよね~」「今のうちから家で復習したほうがいいよ!」「高学年になってから困るからね~」などとたくさんのアドバイスをしてくれました。低学年の子は、「話してよかった」とスッキリした表情が見られました。
ファシリテーション役の先生は、テーマによって変えてもよいかもしれません。たとえば、健康に関わることであれば養護教諭、学校行事に関わることであれば特活主任などが考えられます。先生が変わることの良さは、まれに担任の先生とミスマッチな子どもが一定数いるからです。「担任の先生には話しにくいなあ。でもだれかに話したいな。」というニーズが必ず存在します。そんなニーズにこたえることができるのです。
先生にとっても良いことがあります。それは、「担当学級・学年関係なく子どもの話を聴くことができる」ということです。このような機会が無いと、担当する学級以外の子どもの話を聴く機会はなかなかないのが実態だと思います。普段接しない子どもの話を聴くことで、新たな発見や情報共有のきっかけになるかもしれません。
学校によっては、「子どもが面接したい先生を指名する」という取組をしているところもあるようです。学校の創意工夫で、多様な面接の場が設定できるとよいですね。
もちろん事前に職員会議や打ち合わせなどで先生方に趣旨を説明し、理解を得たうえで実施しましょう。
⑶ 強い味方に!「保護者面接」
ほとんどの学校では、「個人面談」「家庭訪問」など様々な形で保護者との面接が設定されていると思います。しかし「保護者面接」というと、「苦手だなあ…」と感じる先生も少なくないのではないでしょうか。
保護者との面接では、次のポイントをおさえましょう。
①事前に準備をしておく
保護者は都合をつけて面談に来てくださっています。「先生にどんなことを言われるかなあ」と、期待と不安が入り混じっている保護者も少なくないでしょう。そんな中で、先生の準備がゼロだと「お子さんについては特に言うことがないですねえ」と言ったNGワードが飛び出してしまいます。これは、能力主義で子どもを評価している先生にありがちです。学習も人間関係も生活態度も問題がなく、いわゆる「手がかからない子」の保護者に対して言ってしまうのです。しかし保護者の側から考えればどうでしょう。「他の子と比較して特に言うことがないんだな」と一発で見抜かれてしまいます。どの子にも親がいて、いろいろなドラマがあって育ててこられたはずです。その子にしかない成長過程の記録やエピソードを事前に準備しておきましょう。
②非言語的コミュニケーションを大切にする
言語的コミュニケーション、つまり会話によるものよりも、非言語的コミュニケーション(表情や姿勢、仕草など)の方が、相手に与える影響は大きいと言われています。従って、自分では意識していない非言語的な部分にも気を配りましょう。意外と話を聴きながらペンをカチカチしたり、腕を組んだり、眉間にしわがよっていたり、ということがありがちです。相手の話にじっくりと耳を傾け、不快感を与えないように気をつけましょう。校内研修などでカウンセリングの研修を行い、観察者に見てもらえると自分の癖が分かりやすいです。
③相手の関心に関心をもつ
よく「傾聴」と言われますが、自分の聴きたいことだけを聴くのは傾聴ではありませんし、ただ「はい、はい。」と機械的に相槌を打つのも傾聴ではありません。「相手が話したいことは何か」を吟味し、「相手が聴いてほしいこと」に上手に迫ることが大切なのです。まずは保護者の話したいことをじっくりと傾聴し、後半に先生がどうしても伝えなければいけないことを伝えましょう。
よりよい学級経営には、保護者との協力が不可欠です。面接をきっかけに、強力な味方になってもらいましょう!
3 まとめ
教育相談やカウンセリングについては、たくさんの学問的知見や専門的研究が積み重ねられています。現場の先生方は、知識(カウンセリングの技法など)と実践(実際の面接)の往還が何よりも大切だと思います。ぜひ、一緒に力量を高めましょう!
【参考引用資料】
・『生徒指導提要』文部科学省、2022
イラスト/坂齊諒一
<プロフィール>
春日智稀(かすが・ともき)
2015年より埼玉県公立小学校教諭。体育主任・生徒指導主任・研究主任・教務主任などを担当。
ケアストレスカウンセラー/青少年ケアストレスカウンセラー。
日本生徒指導学会 日本学校教育相談学会 会員。