小学校の2学期スタートに、校長として何を語りますか?

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タバティのLet’sスマイル (レッツスマイル)学校づくり
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前埼玉県公立小学校校長

田畑栄一

夏休みがもう少しで終わります。1学期の疲れはとれましたか? 2学期に向けて、気持ちの立て直しはできたでしょうか。
さて、2学期のこの時期は、子どもたちの登校渋りや、不登校などの深刻な問題も起きやすくなります。そして、これらの問題の原因となっているのは、その多くがいじめ問題です。今回は、この時期、管理職が最優先でしなければならない対応について考えてみます。

【連載】タバティのLet’sスマイル(レッツスマイル) 学校づくり #24

仲良しの子どもたち

「言葉」を問う

言葉は人を励まし、時には人を苦しめるツールである、ということを改めて考えさせられる事案が最近頻繁に起きています。
特に、ある女性芸能人による特定の人物の人格を否定するような投稿で、彼女が社会的な制裁を受け、レギュラー番組やCMを降板させられたばかりか芸能活動を休止する事態にまで至った件は、多くの人の耳目を集めたと思います。
今、日本社会はマイナス言葉(死ね、消えろ、うざい、きもい等)に対して敏感に即時対応をするようになってきているように感じます。
この芸能人は公人という立場ですから例としては極端かもしれませんが、誰であろうと他人を傷つけるような言動は慎むべきだ、というのが社会のルールです。
しかし、学校では相変わらず「うざい」「きもい」「死ね」等のマイナス言葉が、日常的に聞こえてくるのではないでしょうか?
子どもの発達段階として心にモヤモヤが溜まっているわけだから、それは仕方のない現象だ、という捉え方があります。子どものマイナス言葉は、「イライラする」と同じようなレベルで捉えるべきで、目くじらを立てる程のことではない、というのです。
こういった捉え方を教師がしていたら、発信する側の子どもたちは、「遊び」「からかった」「軽い冗談」、「ストレス発散」「相手が気に入らないから」という様々な理由をつけて、マイナス言葉を発信し続ける雰囲気が出来上がっていきます。これがいじめの土壌を生んでいくのです。
確かに子どもの側からすれば、思わず口をついて出た、大した意味のない軽口なのかもしれません。「冗談だった。相手も笑っていた」「反応が面白いから、からかっただけだ」等です。
しかし、その言葉を浴びせられた側の子どもたちの側はどうでしょう。いわれないストレスのはけ口にされたにも関わらず、「大丈夫!」と受け止め、さらりと流すことができるでしょうか。
表面的には笑顔かも知れないが、心の中では泣いていることが多いと想像します。
発信する側と受け取る側の意識には、大きな乖離があるのが現実です。
まずは、その場に遭遇した周りの子どもたちや、大人が「それはいいの?」「それ、まずい!」「やめよう!」と必ず止めることが必要であり、対応できなかったら、誰か大人に相談することが重要です。 しかし、多くの学校は、マイナス言葉をいじめと捉えず、その結果、大変に重大な事件に発展することがあります。
2つの事件を取り上げて考えてみましょう。

マイナス言葉が自殺にまで追い込む

1つは、2024年5月31日に発出されたyahooニュースからです。
大阪府泉南市で2022年、中学1年生の男子生徒が自殺したことについて、第三者委員会はこの男児生徒が小学3年生の頃から『いじめ』の被害を受けていたと認定。教員への不信感などが自殺につながったと結論づけました。
この男子生徒は小学3年生以降、同級生に「あほ」「ちび」と言われたり、兄弟の悪口を言われたりするようになります。6年生からは不登校になったため、保護者は学校や教育委員会などに何度もいじめを訴えていましたが、解決には至らず、自殺にまで追い込まれました。
男子生徒が不登校になった6年生の頃からは、保護者と学校の関係も悪くなったとしています。
中学進学後も『少年院に行っていたから学校に来れなかった』『少年院帰り』と言われるなどのいじめが続くため男子生徒は依然不登校で、ついに保護者と学校との関係が断絶。
市外の中学校への転校を模索したものの、教育委員会から『通えるのは市内の中学校に限られる』と拒否され、学校からの家庭訪問も途絶え、苦しみから逃れる希望が絶たれて、学校から『見捨てられた』という感覚を覚えるなどしたため、心理的狭窄に至り自死を決意することに至った。第三者委員会はそう結論付けました。
また、自殺に至る要因として、『小学生時から中学校にかけて何度も教員との関係の再構築を試み、教員を信じようと行動しているが、幾度となく不信感を抱き、そして幻滅させられる結果となった』と指摘しました。死亡後の対応についても『学校側は自死の公表に向けて適切な対応を行うことができていなかった』としました。
第三者委員会は31日の会見で『初期対応がされていたらこれだけこじれることはなかったと思う。(学校や教育委員会が)保護者や被害児童にどれだけ寄り添えていたかは疑問があり、十分な対応だったとはいえない。学校としても学んでほしい』と語りました。」

もう一つは、2024年8月6日付のANN NEWSからです。
大阪府門真市で2022年に市立中学3年の男子生徒(当時15歳)が自殺した問題で、男子生徒の両親が5日、SNS上でのいじめや、担任教諭の不適切な指導が自殺の原因だとして、加害生徒11人と市に損害賠償を求めて提訴しました。
男子生徒へのいじめは、中学1年の秋頃に始まり、中学3年時にエスカレート。
SNSに『Sine』(死ね)、『Uzai』(うざい)などと書き込まれ、クラスのチャットから外されるなどした」ということです。

「あほ」「ちび」と言われたり、兄弟の悪口を言われたりする
少年院に行っていたから学校に来れなかった」「少年院帰り」と言われる
SNSに「Sine」(死ね)、「Uzai」(うざい)などと書き込まれ、クラスのチャットから外される
なぜ、学校はここに切り込まなかったのでしょうか。
学校だけではありません。教育委員会も、こうしたマイナス言葉をいじめと捉えていませんでした。
『法的ないじめ対応意識が根本的に欠けていた』ことが明確です。

学校や教育委員会は、いじめ防止対策推進法のいじめの定義、「児童生徒に対して、当該児童生徒が在籍する学校に在籍している等当該児童生徒と一定の人的関係のある他の児童生徒が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む)であって、当該行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの」をどのように解釈し、対応したのでしょうか。この法律に沿って考えれば、これは明らかにいじめです。マイナス言葉は、いじめなのです。

課題感は増す一方で

資料 いじめの内容別件数

この図表は、文科省が令和4年10月27日に発表した「令和3年度問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」です。「金品を隠されたり、盗まれたり、壊されたり、捨てられたりする」と「その他」以外は、90.5%が「言葉と暴力」によっていじめが行われています。
いじめの認知件数は68万1948件です。いじめの件数が多ければ多いほど見逃さず対応していると評価される時代です。「いじめ防止対策推進法」が平成25年に成立し、その5年後に道徳が教科化されました。法律と心の教育、道徳が整備されれば、いじめは減少するだろうと考えられていましたが、11年経った今、令和4年の不登校数も29万9,094人と増加傾向であり、自殺も513人と過去2番目の多さです。
この課題をどのように解消していくかが、教育界、特に学校現場に問われています。
みなさんは、どのように対応しますか。
私は、いじめ・不登校・自殺が起きないようにするためには、第一に「マイナス言葉と暴力」をしないように予防教育をすることが鍵だと考えています。

校長講話「いじめとは何か」を共有化すること

9月の校長講話はここからスタートすることを提案したいと思います。私はこれを4月1学期始業式、必要に応じて9月2学期始業式等、そして、いじめ事案が起きた月にタイムリーに行ってきました。
そのパワーポイント資料の一部を紹介します。

<校長講話 テーマ「いじめとはなにか」を共有化すること>
挨拶:みんなが笑顔で登校してくれたことに対する感謝等
① 校長先生の好きなもの当てクイズ
② 校長先生の嫌いなもの当てクイズ
③ いじめの定義の共有化を図ります
④ いじめられたら。いじめと感じたら
⑤ 周りの子どもたちを「キーパーソン」に育てる
⑥ いじめが起きた時の学校の立場を明確にしておく
⑦ いじめは、「マイナス言葉と暴力」で起きる
⑧ 笑いには二種類があり、冷たい笑いはいじめである
⑨ 加害者も大事な子、向日葵のように育てる
まとめ:一人ひとりが安心して学べる環境づくりを!


資料スライド1


資料スライド2




資料スライド5


資料スライド6


資料スライド7


資料スライド8


資料スライド9

という流れです。
是非、学校の実態に応じて講話の内容を工夫し、いじめを生まない2学期になるようにしましょう。そして、万が一起きた時には、今回の朝礼等での講話が、トラブル解決の基軸になるようなお話ができたら価値あるスタートになると考えます。子どもたちは、学校に正義を求めています。安心して学びたいのです。その安心・安全づくりが、校長・教頭等の大きな責務だと考えています。
2学期は、学校での関係性に慣れとダレが出てきて、いじめが起きやすい時期に入ります。文科省令和2年度「不登校児童生徒の実態調査」の当事者回答(複数回答)で「不登校の要因は何か」と尋ねています。小学生は、先生29.7%、いじめ25.2%、友達22.0%と回答しています。いじめや、関係性から不登校になっているケースがほとんどであるというデータが初めて示されました。
不登校は、個性の一つという捉え方もありますが、いじめや関係性等によって、学校を離れていくことは管理職として、慙愧の感情に悩まされ、しこりとして残ります。学校の主人公が、トラブルによって不本意にも自校を途中で去ることはあってはならないことだからです。ましてや、自死という最悪のケースを起こしてはならないのです。だからこそ、笑顔溢れる学校づくりの視点が大切なのです。

おわりに

人間関係のトラブルは、どこでも起きるものです。しかし、それを解決することが校長・教頭の務めと覚悟することです。まずは、いじめの要因となる「マイナス言葉と暴力」を学校の実態に応じて創意工夫して予防教育を実施することです。
ただ、どのような場合においても、子どもたちの言葉遣いが落ち着くと、子どもたちは安心して笑顔になっていきます。温かい学校の空気の醸成の第一歩であり、不可欠な条件です。
子どもたち一人ひとりが、笑顔で登校する学校を作りたいものです。主体的な学びは、安心できる環境が整うことで、子どもたちは自ら動き始めます。教育には優先順位あります。まずは、子どもたちの言葉遣いから始めましょう。

イラスト/イラストAC


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田畑栄一

<プロフィール>
前埼玉県公立小学校校長。
埼玉県公立中学校国語科教諭、指導主事、教頭職、校長職を歴任。校長職は10年間。
著書に『教育漫才で、子どもたちが変わる ~笑う学校には福来る~』(協同出版)、『クラスが笑いに包まれる! 小学校 教育漫才テクニック30』(東洋館出版社)、『学級づくりと授業に生かすカウンセリング』(共著・ぎょうせい)。 NHK EテレなどTV出演も多数。
現在は、全国各地での講演や研修を実施/私立学園中学校・高等学校国語科講師/一般社団法人「Lauqhter(ラクター)」教育コンサルタント/一般社団法人「アルバ・エデュ」参事/こしがやFM86.8 教育パーソナリティーなど。
最新の教育活動についてはこちら(他サイトが開きます)。


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