小5国語「たずねびと」京女式板書の技術
今回の教材は「たずねびと」です。この単元では、「登場人物の心情や、情景が表れている表現に気を付けて読む」「展開や表現に着目し、物語の全体を想像する」が主たる学習内容です。本時では、主人公の行動への疑問や「綾」の自分自身への気付きなどを、文章の叙述をもとに読んでいきます。文章の叙述が分かるような板書の工夫を紹介します。
監修/元京都女子大学教授
同附属小学校校長・吉永幸司
執筆/京都女子大学附属小学校教頭・砂崎美由紀
教材名 「たずねびと」(光村図書出版)
目次
単元の計画(全6時間)
- 「たずねびと」の全文を読み、初発の感想を書く。
- 「たずねびと」の登場人物を押さえ、綾は「だれをさがしている」と考えたかを読む。
- 綾の行動や会話から、綾の気持ちを考える。
- 「たずねびと」について「だれがだれをさがしているのか」を考える。
- 綾とおばあさんの会話から、綾の変化を読む。
- 「たずねびと」を学習して、自分の変化を考え、友達と伝え合う。
板書の基本
〇本単元では、「登場人物の心情や、情景が表れている表現に気を付けて読む」「展開や表現に着目し、物語の全体を想像する」が主たる学習内容です。学習者は、学習者と同じ11歳の「綾」と同化して物語を読み進めていくでしょう。遠い時代に生きた、自分と同じ名前の「アヤ」に対して感じた「綾」のように、読み手も自分を「綾」に重ねて読んでいくのではないでしょうか。主人公の行動への疑問や、「綾」の自分自身への気付きなどを、文章の叙述をもとに読んでいきます。
〇本時では、「綾」が「アヤを見つけられるような気がした」ことから行動を起こし、おばあさんと出会う場面を中心に読みます。兄と広島を訪れた5段落以降、平和記念資料館を見て回った綾は「うちのめされるような気持ち」になっています。それでも、原爆供養塔に行く綾。7場面を中心に読みますが、綾の気持ちは7場面までに高まり、つながっています。
〇題名にある「たずねびと」とは、「誰が誰をさがしているのか」を、物語を読み進めるうちに子供たちは考えることでしょう。「綾がアヤをさがしている」「おばあさんがアヤをさがしている」「アヤをさがしている」「アヤを知っている人をさがしている」などの意見が出てくると思われます。
7場面では、「名前の分かる楠木アヤさん」を、いつかだれかが迎えに来てくれないかと、探しているおばあさんと出会います。家族のところへ戻してあげたいという広島市やおばあさんの願いがそこにあることが分かります。つまり、「アヤさんを知っている人をさがしている」のです。被爆者のおばあさんであるからこその願いなのでしょう。そのおばあさんとの出会いで綾の思いに変化が起こります。本時ではその変化を読みます。
板書のコツ(5/6時間目前半)
板書のコツ①
〇授業のはじまりは音読からです。まず7場面を音読します。綾の願いと場面を確認します。確認することで前時までの振り返りと前時とのつながりを、子供たちにもたせることができます。
板書のコツ②
〇綾が出会った人について、1人読みをします。この学習では、6・8場面を含めて、おばあさんについて分かる叙述を探し、教科書に線を引きます。その後、ペアで線を引いた箇所を確かめます。見付けた言葉を発表させて板書します。
「供養塔をそうじ」と子供が発表しました。「どの叙述からそう思ったのですか」と問います。子供は「手には、ほうきとちり取りを持っていた」という表現を見付けました。このように、考えの根拠をあきらかにするように子供たちに伝えています。
また、「いつも供養塔にいる」と答えた子供もいました。これは6場面で「たいていこの供養塔の近くにおられます」と教えてもらったことからという意見も出ました。いつも供養塔近くにいて、供養塔に納められた人々を少しでも家族のところに戻してあげたいと願っている、という意見もありました。そんなおばあさんと、綾が出会ったことを押さえます。
板書のコツ(5/6時間目中盤)
板書のコツ①
〇綾がおばあさんの話を聞いて疑問に思ったことは何か、を子供たちに問います。 綾の「何十年もだれにもむかえに来てもらえないなんて、どうしてなんですか。」という部分です。綾は、おばあさんがもう何年もここで「たずねびと」を探していることを知り、また名前は分かっているのに、だれも迎えに来ないことに疑問をもっています。綾の経験からの疑問でしょう。
しかし、被爆体験のあるおばあさんの言葉はちがいました。だれも迎えに来てもらえない人がたくさんいることを知っています。それでも望みを捨てずにいることが、ここに納められている人をなぐさめることになる、と考えているのかもしれません。
〇綾が、アヤと同じ名であると名乗った後の、おばあさんの様子と綾の様子を読み取ります。綾が「はずかしくなった」のはなぜかをペアで話し合います。綾は、広島まで来た理由=願いがありました。おばあさんの話から疑問ももちました。アヤさんを知っている人を探しているおばあさんにとっては、人違いの綾でしたが、がっかりするのでなく笑いかけてくれました。綾の心が大きく動かされます。板書を振り返ることで、綾の心に変化が起こることへと子供たちを導くことができます。
板書のコツ(5/6時間目後半)
板書のコツ①
〇おばあさんからの言葉を受けて、綾はどんなことを思ったかを考えます。ペアで考え、その後全体で共有します。
〇教科書の本文から分かる言葉を見付けます。8場面にも多くの言葉を見付けられることが分かりました。綾はおばあさんからの「わすれんでおってね。」の言葉から、「わすれないでいたら」と思いをめぐらせます。子供たちは「アヤは確かにこの世にいた」「一発の爆弾が町も人も、この世から消してしまった」などの言葉を見付けました。
〇「わすれない」ことがどんなことになるのかを考えます。また、おばあさんの「あなたの夢や希望にもなって、かなうとええねえ。」という言葉に、綾がアヤの分まで、生きる、生かすことにつながると教えられたと、子供たちは綾に自分を重ねて考えました。
アヤというのは1つの例で、思いを残しながら戦火に命を落とした多くの人々のことをさしているのかもしれません。一所懸命に生きることの尊さ、誰かが誰かを思うことの尊さを教えているのかもしれません。これら本時で考えたことは、次時での「考えたことを伝え合う」の学習で生かすことを、子供たちに伝えます。
板書のコツ②
〇学習の最後には、一人一人が「学習の振り返り」をノートに書きます。振り返りを書くときに使うキーワードを板書に示します。本時では、めあてにしていた「綾」と「変化」を使うことを指示します。また、そのきっかけとなった出来事を含むように「~との出会い」というキーワードを付け加えました。
学習のなかで、自分が気付いたり読み取ったりした内容を、自分の言葉で書くことで、学びを知ることになります。また、高学年での振り返りでは、学習で学んだ力を国語の学習において、これからどのように生かしたいかを書かせています。国語の時間に身に付けた国語力を人間力として使うことになるからです。
構成/浅原孝子