田村学主任視学官⑵ 【教育キーパーソンにインタビュー! 令和の教育課程「その課題と未来」#02】

教育キーパーソンにインタビュー! 令和の教育課程「その課題と未来」
田村学主任視学官編
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前回は、文部科学省初等中等教育局の田村学主任視学官に学習指導要領と「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~(2021年1月)」の関係を中心に話を聞きました。今回はさらに、現在までに中央教育審議会(分科会なども含む)や関連の有識者会議で議論されていることを概説していただきます。

令和答申以降の中教審などにおける議論の状況は?

 「令和の日本型学校教育」の答申以降も、中央教育審議会(分科会なども含む)や関連の有識者会議においては多様な議論が行われてきています。そうした議論の状況について、概説をお願いします。


 現在、現行学習指導要領の成果や課題を浮き彫りにする議論をしているのが「今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会」(以下、有識者会)です。有識者会で議論されてきたことを概観すると、学習指導要領に示された3つの資質・能力の育成は妥当であり、その実現のための「主体的・対話的で深い学び」についても異論は出ていないと考えられます。ただし、学習指導要領をもう少し分かりやすく、シンプルに構造化して示すことはできないかという意見が出ています(資料1参照)。「子供にとって分かりやすい授業にするために」とか、「先生が授業しやすくするために」といった視点から議論が行われています。

【資料1】京都大学、石井英真准教授の発表資料より抜粋

資料1−1
資料1−2
資料1−3
有識者会において、石井英真准教授(京都大学)が提案した、授業と学びのデザインに直結する学習指導要領の改善案。

3つの資質・能力の設定については、学力論的にも問題はないと話す専門家が多い状況です。ただし、それが現場の一人一人の先生にとって分かりやすいものなのか、シンプルなものになっているのか、ということです。学校の先生は全体的に若返っていますし、教科書のページ数は増えています。そうした状況とも関係付けながら議論が行われてきました(資料2参照)。

【資料2】有識者会における文部科学省作成資料より抜粋

約50年前からの、小中学校における標準授業時数と教科書ページ数の推移。

近年のPISA調査の結果は好ましい状況です。現状を把握するための各種の調査結果からも、現行学習指導要領やこれまでの教育政策が否定されるような状況にはないと思います。その点からも、現行学習指導要領をさらに進化させていこうという議論がなされているように思います。

「何もかも子供に任せるという話ではありません」

こうした議論の先には、子供たち一人一人が、自分で考えて、自分で判断して、自ら行動できる存在になってほしいという願いや、多様な子供たちに対応しながら、受け身ではなく自律的に学ぶ姿を実現したいという考えがあるのだと思います。自律的に学ぶことができれば、資質・能力も確かに育つだろうということです。

そこには、子供が自らの力で選んだり決めたりして学ぶ姿をイメージすることができます。その際は、子供の実態を踏まえてていねいに実践していくことが欠かせません。一人一人の子供には、発達の違いがあり、身に付けている学習内容や学習方法の差もあるはずです。実践する先生が、子供に適切に関わりながら確かな学びを実現していくことが求められているのだと思います。

デジタル端末が一人一人に用意されたことで、一人一人の子供に応じた学習については、かなり実現の可能性が高くなっていると思います。デジタル機器やデジタル環境の整備によって可能性は大きく広がっているわけですが、だからと言って、何もかも子供に任せて放任するという話ではないのでしょう。令和答申では、学校の存在意義が示されていると前回確認してきました。学校には学習指導やカリキュラムデザインの専門家である先生がいなければならないということです。学び手の子供に適切に関与し、資質・能力を育むことを考えていくことが大切なのだと思います。

いずれにしても、一人一人の先生に専門職としての力を発揮していただきやすい環境を整えるために、教育課程や学習指導、学習評価について議論がなされているというわけです。結果的に授業の質が上がれば、子供は確かな学力を身に付けていくのだと思います。そうしたことがうまく循環すれば、学校の先生という職業の魅力も高まっていくのではないかと期待しています。

デジタル学習基盤の整備で「主体的・対話的で深い学び」がより質高く実現

1人に1台の端末が用意され、デジタル学習基盤が整備・拡充されると、「主体的・対話的で深い学び」が多くの子供に、確かに実現できるようになるのではないかと思います。これまで行ってきた授業を否定するのではなく、デジタル学習基盤を前提にして、授業をていねいに見つめ直していく必要があるのではないでしょうか。

私は、デジタル学習基盤を有効に利活用することで、「深い学び」の実現可能性が高まるのではないかと期待しています。それは以下のような理由によります。1つは、より大量で多様な情報を高速で扱えるということです。2つは、デジタルデータは可視化や操作化がしやすく、知識を構造化しやすいということです。3つは、データが蓄積され、検索され、それを外化する中で知識がつながり、精緻化するということです。4つは、インプットしてアウトプットするプロセスや他者とのインタラクションが頻繁に繰り返されるということです。こうしたことが、「深い学び」を実現する要因として考えられるのではないかと期待しています。

デジタル化やICTの環境整備については、初等中等教育分科会のワーキンググループなどでも議論されています。今後も様々な会議などに関心をもっていただき、議論の動向を捉え、そこから発信される情報をキャッチしていただければと思います。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之

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