<連載> 菊池省三の「コミュニケーション力が育つ年間指導」~3学級での実践レポート~ ♯4 高知大学教育学部附属小学校2年B組①<後編>
菊池実践を追試している3つの学級の授業と子供たちの成長を、年間を通じてレポートする連載です。3学級の担任は、徳島の堀井悠平先生、高知の小笠原由衣先生、千葉の植本京介先生。それぞれの学級をローテーションでレポートします。 今回は、高知の小笠原学級における、6月上旬の授業レポートの後編。菊池先生の「叱り方」について学べる必読回です。
目次
「考えがどう変わったか」を考える振り返りで、対話を深める
<アンパンマンとばいきんまんは、ともだちか?>
予想外の問いに、子供たちから、
「えーっ!?」
と驚きの声があがった。
「友達であるという人は○、友達ではないと思う人は×を書きましょう」
菊池先生の問いに、子供たちはノートに素早く書く。○派の数が多い結果となった。
次に、同じ意見の子同士で集まって意見交換し、そのままの位置で発表タイム。
×派
●悪と正義だから
●倒し合っているから
●いつもケンカしている
●アンパンマンの大切な仲間をいじめているから、アンパンマンがたたいて捕まえる
●いつもいっぱいたたいている
○派
●アンパンマンを倒してから帰るはずなのに、 ばいきんまんは倒さずに負けて帰っているから
●友達じゃなければけんかをしない
●いつもばいきんまんとドキンちゃんが変装してアンパンマンのところにご飯を食べに行っている
●エピソードの中では、時々仲間になっている
●仲良しだから、わざとケンカする
●赤ちゃんの頃、仲良しだったから
●ばいきんまんが恥ずかしそうに「勘弁してやるからな」と言ってるから
●戦わずに帰っているから
発表後、いったん自分の席に戻ると、菊池先生が、
「『○だったけど×に行きたい』という人がいます。どうしてか聞いてみましょう」
と、ある女子に発表を促した。
「いつもケンカしているから、何か友達じゃないような気がした…」
とその女子は小さな声で発表した。
子供の考えが変わるのは、子供同士が聞き合っている・考え合っている証拠です。
●AからBに変わった
●AからA′、BからB′に変わった
●分からなくなった
対話を通して、子供たちは次の3つの方向で自分の意見を掘り下げていきます。
①内容について考え方が深まり、変化する。(ときには、考えすぎて分からなくなることもある)
②友達のC君やDチームの発言を聞いたことで、考えを深める
③友達の発言や内容を受けて、自分の中で考えていることが変わっていく
内容の深化、相手の発言の影響、そして自分自身との対話。その3方向で、「変わった」「深まった」「分からなくなった」などと、自分の答えを見つけていくのです。
活動型の授業は、①活動の価値・目的ややり方の説明、②それを踏まえて活動、③振り返り の3つをセットに進めていきます。
活動の時間が延びてしまい、振り返りの時間を十分に取れないことも多々ありますが、
「考えがどう変わったか」を考える振り返りは、その後の対話を深める上で重要です。
そういう振り返りの視点を子供たちが持てるように、教師は年間を通し意識して指導していくことが大切です。
経験や知識をもとに、子供たちは自分の意見をつくり出す
「アンパンマンを作った人の名前を知っている人?」
と菊池先生が尋ねると、何人かが元気に手を挙げた。
「じつはやなせたかしさんが、アンパンマンとばいきんまんについて話しているそうです」
と菊池先生が話すと、一人の男子が手を挙げ、
「先生、理由を言ってもいいですか?」
と尋ねた。前に出てきたその男子は、やなせたかしの写真を指差しながら、
「この写真は、アンパンマンとばいきんまんがケンカしているから、友達じゃないと思う」
と、自分の意見を強引に主張しようとした。
「じゃあこれは?」
と菊池先生が新しい絵を出した。アンパンマンとばいきんまんがニコニコしながら寝転がっている絵だ。さらにジャムおじさんの絵を見せながら、
「ジャムおじさんは、『2人は友達だ』と言います。どうして『2人は友達』と言っているのでしょうか? 予想でいいから、分かる人?」
と問いかけた。手を挙げた数人が席を立った。
一人の男子が、
「最初に言っていい?」
と尋ねると、菊池先生が、
「どうぞ」とうなずいた。
●ケンカするほど仲がいいというから
それを聞いた後、菊池先生は、
「はい、どうぞ」
と声をかけ、それまでに立ち上がっていた子供たちが順に答えていった。
●ばいきんまんもパンだから
●みんなが知らんところで、もしかしたら一緒に遊んでいるかもしれない
●仲がいい絵があるから、前は友達だったけど、今はちょっとだけ仲が悪くなってケンカしている
●私もお姉ちゃんとケンカするから、もし2人がきょうだいならケンカするんじゃないか
「パンも菌でつくる」という知識、「いつもばいきんまんはアンパンマンを倒していない」という作品に対する理解力、「悪と正義。お互いがいるからこそ、お互いが引き立つ」という洞察力。
子供たちは、自分の経験や知識をもとに、多様な意見を出しました。子供たちの答えには、いくつかの層がありますが、B組のレベルは高いと言えるでしょう。
だからこそ今後、もっとお互いが聞き合うことができれば、話し合いが充実していくはずです。
たくさん発言させるのは、聞き合うため。聞き合うのは、活発に考え合いをさせたいからです。 多くの教室では、子供たちに発言させるだけで満足していますが、目的はその先にある「聞き合う・考え合う」ことです。教師は、そこに重点を置くことが大切です。
子供を叱るべき場面の3条件
菊池先生が子供たちを次々とランダムに指名しながら、
「自分から立って言う。これが自由起立発表だよ」と説明した。
やがて、最初に発表した男子が、発表を終えて満足したのか、友達の意見を聞かずに、筆箱を机の上に落とすなど、“雑音” を出し始めた。
周りの子もそれに引きずられ、席を立った男子がウロウロと歩き回り始めた。廊下側の最後尾の席の子の発表が、“雑音” にかき消されて聞こえない。
すると、菊池先生が筆箱を落とした男子のところに行き、
「音を消せ。消すなら消す!」
と男子の筆箱を取り上げて机にバンと置いた。さらに、
「友達の話を聞く。(筆箱やノートを)触らない。みんなで勉強するんでしょう? わがままは出さない」
ときつい口調で注意すると、教室がシーンとなった。
●アンパンマンとばいきんまんは、本当は友達だから
発表を促された女子が話すと、
「今の大きさの声でも十分聞こえますね」
と菊池先生。そして声のトーンを上げて、
「うるさい人がうるさいことをするから聞こえないんだ。なのに、『聞こえません』と言うのは、あそこに書いてある約束と違うでしょう」
と教室に貼ってあるポスターを指さした。担任の小笠原先生が手書きで作ったポスターには、
じゅぎょう中
①話をさいごまできく。(先生も友だちも)
②やさしい言葉をつかう。
③みんなが楽しくなるこうどうをする。
×大声、やらない、いじわる
と書いてあった。
「だから、聞くときには聞くんだ」
菊池先生が子供たちに話した。
この授業の前に、小笠原先生から、「『静かに』と言うと、わざと音を出す子がいる」という子供たちの実態について聞いていました。
4月に私が訪れた際の授業でも、そういう行動をする子が何人か目につきました。
意図的に意地悪をして、頑張ろうとしている多くの子、頑張れるエネルギーがある子、みんなで成長していく方向へ行こうとしている子たちの邪魔をする。2年生だからまだ自覚していないのでしょうが、明らかに悪意を持った行為です。
自分の話は聞いてもらいたいのに、相手に対してはうるさくして、「聞こえません」のコール。自分への甘えと怠惰な気持ちを、不遜な態度で他者への攻撃に転嫁する行為は、1時間目の小笠原先生の授業でも目につきました。
このような行為を、教師は許してはいけません。
次の3条件に当てはまる場面では、教師は毅然として叱る必要があります。
①命の危険にかかわる行為をしたとき
②いじめを見つけたとき
③学びへのリスペクトがないとき
彼らの行為は明らかに③に該当し、学びの場を邪魔することは、②にも当たります。
今回は私の2回目の授業で、今後も継続して訪れる予定ですから、彼を叱りました。
強い口調で言っても、翌日はけろっとして元に戻る可能性もあるでしょう。担任は、タイミングを見極め、元に戻らないことを目指して叱ることが重要です。
●仲良しだからケンカする
●ばいきんまんはアンパンマンが好きで、戦って一緒に付き合いたいから
●お父さんがばいきんまんで、お母さんがアンパンマン(の関係)と同じ
●ばいきんまんはアンパンマンを倒すために、たまごから生まれた。
●今は色と形が違うけど、生まれたときは同じだからきょうだい
●もしかしたら、いつもケンカしているけれど、どっちが強いか比べている
●ケンカしていても、一緒にくつろいでいる
子供たちが発表し終えると、菊池先生が黒板に書いた。
<みんな仲間>
「やなせさんは、『アンパンマンに出てくるキャラクターはみんな仲間』と言っています。だから、みんな友達なのかもしれませんね」と菊池先生が話した。
「B組はみんなと仲間になって頑張っているんだよね? 時々意地悪する人がいるかもしれません。でも、その人もみんな仲間です。だから、みんなで力を合わせてすてきなクラスをつくっていくんですね」と続けた。
「そして今日は、1時間目で『自由起立発表』を勉強しました。全員これができたら、多分、日本一のクラスになると思います。大事な仲間の話を聞いてあげる、素敵な仲間になってください」
と菊池先生が授業を締めくくった。
菊池省三先生による授業解説
子供は本来、学びたい気持ち、みんなと学びたい気持ちを持っています。
そしてまずはその気持ちを、全力で無邪気に表出しようとします。
「みんな」という言葉についての教師と子供の認識にずれがあるのは、この段階では当然です。
子供たちは元々アクティブ・ラーナーです。教師の役目は、アクティブ・ラーナーを「育てる」のではなく、「伸ばす」ことです。
一人ひとりのエネルギーがみんなの学びになっていくような教師の働きかけが大切です。
自由起立発表は、みんなで学ぶためのスタイルの1つです。それが成立するためには、技法だけでなく、子供たち同士の関係性が何より重要です。子供たちのむき出しのエネルギーを、優しさのエネルギーに変えていくのです。
学級の中に「気になる子」がいることは、どうすればいいかを考えることができる機会ができたということです。自分の授業観と指導がずれていないか、日々の指導がどこを向いているのか、振り返る場面が多くなるからです。
子供たちが聞き合い、考え合えるように、教師は、全ての教育活動において子供主体の学びづくりに取り組む必要があります。
ほめ言葉のシャワーや成長ノート、価値語もそのための活動です。 子供主体の係活動の中で、友達の思いに気付き、関係性を喜び合えるようにすることも大切です。
この連載と連動した菊池省三先生のオンライン講座、参加者募集中です!
↓若手が菊池実践を学ぶために最適の単行本 「一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ」発売中です!
取材・文/関原美和子
Profile
きくち・しょうぞう。1959年愛媛県生まれ。北九州市の小学校教諭として崩壊した学級を20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ コミュニケーション力を育てる指導ステップ』(小学館)他著書多数。