ダイバーシティ! 本当に腹落ちして経営してる?【連載|管理職を楽しもう #9】

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元北海道公立中学校校長

森万喜子

前例踏襲や同調圧力が大嫌いな個性派パイセン、元小樽市立朝里中学校校長の森万喜子先生に管理職の楽しみ方を教えていただくこの連載。いま管理職の先生も、今後目指すかもしれない先生も、自分だったらどんなふうに「理想の学校」をつくるのか、想像しながら読んでみてくださいね。 
第9回は、<ダイバーシティ! 本当に腹落ちして経営してる?>です。

執筆/元小樽市立朝里中学校校長・森 万喜子

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2024年が半分終わりました

みなさんこんにちは。
なんと、2024年も半分が終わってしまいました。時間が過ぎるのが早すぎて、ヨタヨタとついていくのが大変、と実感していますが、季節は確実に夏!
忙しい学校現場のみなさん、ボーナスはもらった? 夏休みまであと数週間! 元気を出して進もう。
この節目に、半年を振り返り、次なる半年のわくわくの布石を打ちましょう。
そして、今回から私のコラムもタイトルが変わりました。お気づきでしょうか。そうです、「女性」の文字が外れたのです。
多様性の時代、分けることは差別につながる。今、朝の連続テレビ小説でもこのあたりがテーマになっていて、私も楽しみに観ています。
「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」
ドラマの中で法律事務所の壁に力強く書かれたこの日本国憲法第14条を何度も目にして、公教育のあり方と自分のあり方を再確認する夏です。

多様性という「強み」

ダイバーシティ、多様性という言葉を聞くようになってからずいぶん時間がたちます。さて、あなたの学校、職場では多様性が尊重されていますか?
私は長らく公立中学校で勤務し、自分自身も地域の小学校、中学校、市内の高校、実家から通える大学というローカルな公立学校で学びました。特に地域の小中学校で過ごした時間は、自分にとって多様性と出合う場でした。今は国際化も進み、多様性の幅はもっともっと広がっています。
一方、学校、職場としての学校はどうだろう? まだまだ同質性が高いように感じるのです。

『多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』(マシュー・サイド著 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2021年)という本には示唆に富むアイデアや事例がたくさん書かれていて、おすすめの一冊です。そこでは、同質性の高さが危機管理の甘さにつながり、重大な問題を未然に防げない、そんな具体例を挙げて多様性の強みを示しています。

多民族国家アメリカのことを「人種のサラダボウル」と比喩的に表すことがあります。つまり、人種や民族など多様な集団それぞれの伝統や文化の優れた部分を生かし、認め合うことで素晴らしい国を創ろうじゃないかという心意気のこと。実際はそう簡単にはいかない、大変なことも多い。でも、いろいろな人がいるのは強みなのです。日本の学校はまだサラダボウルまでには至らず、どちらかといえば折詰めの寿司というイメージです。多様性よりは指示に従順で行儀のよい子を育てるのが優れた教員という価値観がまだ強いんじゃないかな……全員がそろっている入場行進、話し方のマニュアル、生活における所作や作法、もちろん基本は大事。教えてもらわないと分からないし、繰り返すことで定着するのも事実、だけど守破離の守だけで満足だったら令和の学びの場ではないと考えています。多様性を大切にするためには、覚悟と本質の理解が必要なのですね。

一人職、ノンティーチングスタッフを大事にしていますか

私が現職の校長だったとき、よく言っていたのは「学校の職員室って同質性が高すぎるくらい高いよ。ここにいる人、全員が大学を出て、大学でも教育学部とか教員養成課程を出た人が割と多く、どちらかというと自身が児童・生徒・学生のときに、学校でいい思いをした人、学校が好きだった人が多い。学校に活躍の場があり、先生との関係も良好で、部活動や生徒会活動でも頑張っていた人たち……違う?」。それはそれで素敵なことなんだけど「自分の過ごした学校ってとこはサイアクだった。だから自分が変えてやる」みたいなロックな人にはなかなか出会わず、同質性の高さは加速していくのです。

メディアで、いじめの重大事案の第三者委員会の報告などのニュースに触れると暗澹とした気分になります。学校の先生の同質性が見逃してしまったサインが最悪の事態につながったことに……。
いじめを危惧し相談した親に対して「あの子たちはいじめをするような子じゃない」「お母さんは気にしすぎじゃないですか」。
ここに教員の思い込み、同質性の高い集団ならではのエコーチェンバーがなかっただろうか。穏便に、問題が大事にならないでほしいというバイアスがなかったか。

そんな事態を避けるために必要なのは多様な視点です。例えば、学校にいるティーチャーじゃないスタッフの方々。給食室の配膳員が、とあるクラスから戻ってくる食器のスプーンが時折不自然に曲げられていることに気づく。また、以前はごみの分別が徹底されていたのに、残食の中にジャムの袋などが混ざっている。校内外の清掃や環境整備をしてくれる校務補さんが、トイレットペーパーが無駄に散らかされていたり、便器の中に丸ごと落ちていたりする場面を目にする。学校司書さんが、今まで友達と連れ立ってきていた生徒が、昼休みに一人で来て本を読んでいる姿がなんだか気になる。養護教諭が、体調不良で休養に来た生徒が去年に比べてずいぶん痩せていることに気づく。学習サポートのボランティアさんの気づきもあるかもしれない……そんな「問題の芽」、あるいは誰かのSOS。これを話題にできる職場だろうか、真面目に取り合ってくれる職員室だろうか。教員や管理職が「面倒なことを持ち込まないでほしいな」「教員じゃないのに生徒指導に首を突っ込まないでいいよ」とか「いちいち神経質なんじゃない」というムードを醸し出すと、その先集まる情報量は激減するでしょう。表面的には波風の立たない学校、だけど取返しのつかない事態へと進んでいくのです。

校長の権限強化? 誤解なきように

地域によって学校の組織風土もずいぶん異なります。「校長先生のおっしゃる通り」と従ってくれる職場もあれば「そんなことをする必要があるんですかね」とあからさまに不満を表す職員集団もあったり、学校のリーダーの苦労も様々。校長が学校経営に大変な苦労をする時代もあったので、法律や学校管理規則でも校長の権限について明らかに示すようになりました。だけど、校長ひとりの見たもの聞いたこと、考えや主張だけで学校経営をされては困るわけで、私たち教育に関わる大人たちのミッションは、子どもたちが生きる未来をどうするの? というビッグイシュー、それが肩にかかっているのです。

部下に反対されるとか、教育委員会に何か言われるとか近隣の学校との足並みそろえが目的じゃないのです。そして、決断するためには多様性を大事にしたほうがいいということ。
校長の権限で学校の組織づくりから体制づくりから自分で全部決めます。教頭の進言? ミドルリーダーや初任者層の職員の要望? 教員じゃないスタッフのつぶやき? いやいやそんなことより、自分の責任と権限でやらせてもらおう。……そんな校長がいたら口の悪い私はこう言うの「何、その全能感? 全部ひとりでなんて無理無理!」
子どもの学びと大人の学びは相似形とよく言われます。じゃあ、学校の大人たちももっと多様性を。


森万喜子

<プロフィール>
森 万喜子(もり・まきこ) 北海道生まれ。北海道教育大学特別教科教員養成課程卒業後、千葉県千葉市、北海道小樽市で美術教員として中学校で勤務。教頭職を7年務めた後、2校で校長を務め、2023年3月に定年退職。前例踏襲や同調圧力が大嫌いで、校長時代は「こっちのやり方のほうがいいんじゃない?」と思いついたら、後先かまわず突き進み、学校改革を進めた。「ブルドーザーまきこ」との異名をもつ。校長就任後、兵庫教育大学教職大学院教育政策リーダーコース修了。現在は、執筆活動や全国での講演の他、文部科学省学校DX戦略アドバイザー(2023~)、文部科学省CSマイスター(2024~)、青森県教育改革有識者会議副議長として活躍中。単著に「『子どもが主語』の学校へようこそ!」(教育開発研究所)がある。


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