端末破損を防ぐ指導のポイント!五十嵐晶子さんに聞くICT支援員との付き合い方#02

デジタル化が進む教育現場で注目を集める「ICT支援員」。GIGAスクール構想の推進に伴い、全国の自治体でその採用が広がっています。しかし、ICT支援員の具体的な役割や、教職員との効果的な連携方法についてはまだよくわからないという先生も多いのではないでしょうか。

そこでICT支援員に関する理解を深め、よりよい「付き合い方」ができるように、中央教育審議会デジタル学習基盤特別委員会の委員も務める五十嵐晶子さんによる解説を3回にわたってお届けします。第2回の今回はICT支援員が教える「端末の破損を防ぐための指導のポイント」についてお話いただきます。

端末破損によるダメージは大きい

授業でのICT活用が常識になればなるほど、パソコンやタブレットなどの情報端末は必要不可欠なものになります。そして万一、端末の破損や故障が発生すると、授業が止まってしまい、授業計画に大きな影響が出てしまいます。不慮の故障は別として、端末を不用意に扱うことによる破損は絶対に避けなければなりません。

端末の故障や破損によるもう一つのダメージは、金銭的なものです。埼玉県で端末の修理費が年間で6億円に達したとのニュース(2024年4月NHKニュースWEB)があるなど、各地で修理費が想定以上に膨らんでいます。こうなると、その修理費は誰が負担するのでしょうか。地域や学校によって事情は異なるでしょうから、難しい対応となってきます。

そんな大切な情報端末を故障や破損から守るための対策やノウハウも、ICT支援員に頼ってほしい部分です。

端末の故障は「教育」で防げます

2023年の文部科学省の調査によれば、何らかの方法で情報端末を家に持ち帰らせている学校は9割に達します。そんな中で、端末の故障や破損が起きている場所は、大きく3つです。

  • 学校
  • 持ち帰りの途中
  • 自宅

こうした故障について、先生方はどのようにお考えでしょうか。

「子供のやることだから仕方がない」

「故障など気にせずのびのび使わせたい」

そういう考え方もある程度分かります。でも、適切な使い方を子供たちに教えれば、故障率は劇的に下がるんです。それを裏付けるデータもあります。

この指導は、先生方も含めて行う必要があります。先生方が端末の故障の傾向や正しい扱い方を学んでいれば、防げたはずの故障って案外多いんです。ではどんなことを教えたらいいのか、お教えしますね。

端末破損を防ぐ指導のポイント3つ

子供たちに教えるポイントは次の3つです。

  1. 精密機械が嫌いなことはしない
  2. 置くときは、はみ出さないで「そっと置き」する
  3. 「持つ」「置く」「運ぶ」「しまう」ときに気をつける

それでは一つずつ解説していきましょう。

①精密機械が嫌いなことはしない

まずは「精密機械にとって嫌いなことを避ける」ことを教えてください。精密機械が最も嫌いなことは、振動や衝撃です学校でよく見るのは、移動中などに落として壊す場合。もし保険に入っていたとしても、机の高さ以上から落とした場合は保証されません

次に嫌いなのは「バタン!」と勢いをつけて閉じられること。その衝撃で壊れてしまうことがありますし、鉛筆などがはさまっているときに「バタン!」とやると、画面が割れてしまいます。そっと閉めれば衝撃は与えませんし、仮に物がはさまっていたとしても画面は割れません。

次に嫌いなのは暑さ・寒さです。体育の授業などで校庭や体育館に置きっぱなしにすると、高温・低温の状況にさらされて故障してしまいます。また、家に持ち帰ったとき、車の中に置きっぱなしにして壊れる、というケースがよくあります。

次に嫌いなのは押したり踏んだりされること。これは体育の時間に発生しがちです。授業中の置き場所には注意しましょう。また、家に持ち帰ったとき「ソファに置きっぱなしでその上に座った」「床に置きっぱなしで踏んだ」というケースがよくあります。

最後に嫌いなのは水や汚れです。タブレットは授業中に水がかかった程度では壊れませんが、鞄やランドセル中で水筒の水がこぼれて濡れるというのには耐えられません。それから、土や砂の上に直接置いてしまうこともやめましょう。機械の中に砂鉄が入ってしまったら壊れます。

ちなみに、お茶やコーヒーをこぼしがちなのは先生です。細心の注意を払ってください。

②置くときは、はみださないで「そっと置き」

次に端末置くときに注意すべきこと」を教えてください。

精密機械を机の上に置くときは、まず机の上を整理します。ごちゃごちゃしていると、何かの拍子に落ちてしまうということがよくあります。机の端に置いてもいけません。なるべく机の真ん中に置くように指導しましょう。

それから、置くときはそっと置くのが大事です。これは簡単そうに思えますが、子供には案外難しいことです。なぜなら物をそっと置くためには、実はかなりの筋力が必要だからです。

家庭で落としても大丈夫な食器を使っていたり、ゲーム機をポイと投げる習慣があったりすると、そっと置くための筋肉が鍛えられません。ですからそっと置く練習が必要です。給食の配膳の際、盛り付けた食器をそっと置いたり、トレーをそっと置くなどで練習をしましょう。

③「持つ」「置く」「運ぶ」「しまう」ときに気をつける

次は「端末を扱うときに気を付けるべきタイミングを教えましょう。

「持つ」ときには「赤ちゃんだっこ」というのを推奨しています(上図参照)。いろいろ試行錯誤した結果、最終的にこの形に落ち着きました。子供たちに「両手で持ちなさい」というと、多くの子がお盆みたいに持ちます。これは、足下が見えないので危険です。一方、おなかにくっつけて抱くだけだと、するっと落ちてしまうことがあります。

 「赤ちゃんだっこ」は、片方の手で下から支え、もう片方の手でおさえるやり方です。こうすれば、ノートなどほかの荷物があるときも、一緒に抱っこすれば運ぶことができます。

「置く」は、さきほど書いた「そっと置き」です。

「しまう」には、保管庫にしまう場合と、ランドセルや鞄にしまう場合に、それぞれ気をつけることがあります。

保管庫にしまう場合は、電源ケーブルや仕切板の取り扱いに気をつけます。ケーブルをひっかけたまま無理に押し込んで断線、ということはよくあります。端末をきちんと閉じず、保管庫の仕切にはさんだまま押し込んで故障、という場合もありました。

鞄やランドセルにしまうときは、しっかりケースに入れましょう。タオルに巻いて入れるのもよいです。精密機械は、ずっと振動を加えられるのが苦手なので。教科書やノートが挟まるという事故も防げます。

毎年教える続けることが大切

以上、子供に教えて練習させていただきたい3つのポイントをお伝えしました。ただし子供に限らず、人間は忘れる生き物ですから、これらのタブレット指導や練習は、毎年やることが大切です。それも年度初めに。そうすると、破損率は劇的に下がります。破損がゼロになった学校もあります

それで高学年の子供たちに適切な扱い方が身についてきたら、高学年の子から低学年の子に教えるというのもよい方法です。地域によっては「このタブレットはとっても高額なんだよ」と伝える先生もいます。それぞれ学校事情に合った方法でアレンジしてください。指導のアイデアについては、ぜひ学校のICT支援員にも頼ってくださいね。

「教えるべきポイント3つ」と言っても、いっぺんに教えるのは盛り込みすぎで伝わりません。毎日、小分けにして伝える方がいいです。それから、ここで教えた「持ち方」「運び方」などは、大人全員(先生や職員など学校に関わる大人全員)が必ず守ってください。子供たちは、先生のことをよく見ていますので。

そうそう、意外な方法として端末に愛称をつけさせるのもよい方法です。画面拭きなど、ちょっとしたお手入れができるアイテムを配るのも効果的。愛称をつけた端末を毎日磨くことで、自然とていねいに扱う気持ちが芽生えます。

次回は、学校内にいるICT支援員に対して、先生方に知っていただきたいことをお伝えします。

(第3回へつづく)

五十嵐晶子(いがらし・あきこ)
2000年頃より小中学校の情報アドバイザーを始め、神奈川県を中心に小中高校のICT導入研修会講師とICT支援員、ICT支援員運用コーディネーター等、学校ICTの導入と活用に関わる。
2020年3月に独立し「合同会社かんがえる」を創業。情報通信技術支援員(ICT支援員)の導入コンサルティングと育成を専門として、全国の支援員事業を行う企業や、自治体所属の支援員に向けたさまざまなICT研修会を提供。
現在教育ICT環境アドミニストレーター協会理事長、中央教育審議会デジタル学習基盤特別委員会委員。

取材・構成/村岡明

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