小6国語「風切るつばさ」板書の技術
今回の教材は、「風切るつばさ」です。この単元で付けたい力は、「描写をもとに人物同士の関係を捉え、心情の変化を読み取ろう」です。本文には、登場人物クルルやカララの会話文や心情描写が少ないため、「なぜ、カララは何も言わなかったのか」に注目して考えを深める活動をします。そのため、クルルとカララを対比しながら、子供たちが気になったこと、分かったこと、考えたことなどを整理する板書の工夫を紹介します。
監修/元京都女子大学教授
同附属小学校校長・吉永幸司
執筆/大阪府公立小学校教諭・岡本美穂
教材名 「風切るつばさ」(東京書籍)
目次
単元の計画(全9時間)
- 教材文を通読し、初発の感想を伝え合う。
- 単元の学習の見通しを立て、「付けたい力」を確かめる。
- 物語のあらすじを捉え、学習の流れを確かめ見通しをもつ。場面ごとに題名を付ける。
- 1場面のクルルとカララの関係を捉える。物語の展開と人物同士の関係を捉える。
- 2場面のクルルとカララについて考える。
- 3・4場面のクルルとカララについて考える。
- 5場面のクルルとカララについて考える。
- 終わりの感想を書く(初発の感想と比較して書く)。
- 単元の学習を振り返る。どのような描写に着目して、学習したかを振り返り、「付けたい力」を確かめる。
板書の基本
〇本教材は、仲間に対して不信感を抱き、自己嫌悪の果てに空を飛べなくなった中心人物クルルが、カララの寄り添いによって、自他への信頼を回復し、再び飛べるようになったことを描いた物語です。
この教材で着目したのが、4場面の最後に書かれた「でも、カララは何も言わなかった。」という1文です。この1文からも分かるように、カララの会話文や心情描写がありません。そこで「なぜ、カララは何も言わなかったのか」に注目して考えていくことにしました。
そこで、1場面では、「そんな言い訳などおしつぶされそうな雰囲気に、クルルはだまるしかなかった。」という1文に注目しました。ここでは、クルルの様子は書かれていますが、心情は書かれていません。厳しい言葉をぶつけられ、クルルの言い分はまったく通りそうにない状況での、悔しさや絶望感を子供の言葉で表現する機会をもちたいと考えました。
また、そのときカララは「カララでさえ、だまってみんなの中に交じっている。」と描写されていることに注目し、クルルの「だまるしかなかった」状況と、「だまってみんなの中に交じっている状況」を比較し、そのときのカララの心情にも迫りたいと考えました。この部分が4場面とつなげて考える機会になると考えました。4場面の「カララは何も言わなかった」と「だまってみんなの中に交じっている」とを比較することでカララのクルルを思う気持ちや死んでもいいと覚悟を決めている心情に迫れるのではないかと考えました。
〇板書とノート指導は学習の足跡となります。だからこそ、板書を通して、学級全体の1時間の学びの過程を振り返ることができるように構成しています。
・ノートに書くように伝える部分は、丁寧に、子供たちと同じ速さで板書すること。
・子供たちの「言葉」で板書すること。
・子供と相談しながら板書を完成すること。
を大事にしています。
〇そして、授業を構成するという点で重要なのは発問です。授業の導入から前半では、まず大きく発問するようにしています。具体的な発問でないと答えられないのでは、と考える人もいます。しかし、小さく問うことで答えやすくなる反面、子供の発言が限定されてしまうことがあります。ですから、まずは大きく問うことで、「こんなところがおもしろいね」「これって、どういうことだろう?」と、子供たちが多様な視点から自由に意見を出せるようにしています。
私が担任していたクラスでは、子供たちが教材を読んでいて、「これ疑問なんやけど……」「これってこういう意味やない?」という声が聞かれました。教材文を読みながら、自ら問いを発見したり、問いに対する新しい発見をしたりしていたわけです。追究する授業が大切だと言われますが、そのためには何よりも子供自身が追究したくなるような発問の工夫が必要だと思います。
板書のコツ(4/9時間目導入1)
板書のコツ①
この単元で付けたい力を明確にするために、「描写をもとに人物どうしの関係をとらえ、心情の変化を読み取ろう。」と板書しました。この後は、短冊にして毎回、授業の最初に子供たちと確認するようにしています。これは、子供が意識することもそうですが、教師自身が子供たちの発言、書いている内容などに、この「付けたい力」につながりそうな言葉がないか、と意識して聞くことができることもねらっています。
板書のコツ②
5年生のときにも「大造じいさんとがん」で「情景描写」については学習していますが、再度確認することで、「学習用語」の子供たちの「差」がなくなることをねらっています。このような積み重ねが、子供たちの「国語は難しい」「国語は何が正解か分からない」という曖昧さを消し去ってくれると考えています。
板書のコツ(4/9時間目導入2)
板書のコツ
そこで、描写とは何か? 辞書や教科書で確認し合い、みんなでノートに書くようにしました。
板書のコツ(4/9時間目)
板書のコツ①
今回のめあては「クルルとカララについて考えよう。」です。その後、音読を行い、「クルルとカララ」について考えたことをノートに「1人学習」として書くようにしました。あらすじは分かっていても細かい部分を読み飛ばしてしまう子供たちもいるので、そういう子供が「めあて」を意識して音読することで、理解できる姿を何度も見ることがありました。また、読みが苦手と感じている子供には、教科書の大事だと思う言葉に線を引きながら(短く・キーワード的に線を引く)読むこともすすめています。
このように、「大きな発問」を行い、クルルとカララについて気になったこと、分かったこと、考えたことなど、それぞれの子供たちが伝えてくれたことを板書します。
板書のコツ②
そのなかで、深める発問として「クルルはだまるしかなかった」「カララでさえだまってみんなの中に交じっている」という部分に注目して、同じように「だまる」とあるけど意味は「同じ?」と発問しました。すると、子供たちは、口々に話し出します。このつぶやきが増えれば増えるほど、「えっ?」と子供が真剣に隣の友達と話し出すほど、追究できる発問になっているという目安になります。
板書では、クルルとカララの比較ができるように色を変えて、四角で囲むことで分かりやすいようにしています。
構成/浅原孝子