「小1プロブレム」とは?【知っておきたい教育用語】

連載
【みんなの教育用語】教育分野の用語をわかりやすく解説!【毎週月曜更新】
関連タグ

小1プロブレムとは、小学校に入学後に学校生活に適応できない状態が続くことを表した言葉です。何が原因なのか、どのように克服していくのかを考えてみましょう。

執筆/文京学院大学名誉教授・小泉博明

「小1プロブレム」とは?【知っておきたい教育用語】タイトル

「小1プロブレム」の要因とは

【小1プロブレム】
幼稚園や保育園から小学校にあがった際、子どもたちが小学校での授業や生活に馴染めず、問題行動を継続的に起こしてしまうこと。問題行動には、先生の話や指示を聞くことができない、集団行動をとれない、授業中、席についていられないなど、様々な問題があります。

ベネッセ教育情報サイトによれば、子どもが幼稚園・保育園から小学校へ入学すると次のような変化が生じるとあります。

・遊び中心から勉強中心に
・集団生活、集団行動が求められる
・自律的な行動が求められる
・1クラスの人数が増える

ベネッセ教育情報(ウェブサイト)「『小1プロブレム』を知っていますか? その原因と間違えやすい予防方法」2021年3月1日

子どもは、このような急激な環境変化に対応できず、学校生活に適応するまでに時間を要します。そして、小学校に入学後に、学校生活に適応できず、問題行動を起こしてしまいます。

また、子どもが、保護者から「もう1年生なんだから」「1年生にもなって」などの急き立てる言葉や、一方的な指示を受けると、子どもにとってはストレスが蓄積し、小学校で問題行動となって発散するようになります。単純に「しつけ」が不十分であるという問題ではありません。

そこで、家庭での適切な入学準備が必要となりますが、規律や時間を守ることだけを何回も教えても、子どものストレスとなるだけです。子どものストレスを軽減させるには、保護者が子どもの話を「聞く」「共感する」「考えさせる」「励ます」という共感的な会話が大切です。教育学者である汐見稔幸氏は、頭文字を取って、KKKH、野球用語でKが三振、Hが安打なので、「4打数1安打の会話術」と呼んでいます。

「小1プロブレム」を克服するには

文部科学省は、2022年に「幼保小の架け橋プログラム」を推進していくことを決定しました。義務教育開始前後の5歳児から小学校1年生の2年間のことを「架け橋期」といいます。幼保小連携とは、幼稚園または保育園から小学校へこどもが円滑に移行できるように、相互に連携することです。

共働きの家庭の保護者にとって、小学校へ入学すれば「手がかからない」ので、「働きやすくなる」と考えがちですが、この課題を克服しなければ両立が困難になりかねません。小学校に入学してからの方が働きづらくなります。

そこで、幼保小だけではなく、家庭や地域、関係団体、地方自治体など、子どもに関わる全ての関係者が、連携し協働することが必要です。さらに、「10の姿」(幼児期の終わりまでに育ってほしい姿)を正しく理解し、架け橋期における教育を実現させることで、子どもの学びや生活の基盤をつくることができます。

スタートカリキュラムによる「小1プロブレム」対策

スタートカリキュラムとは、「小1プロブレム」を解決するために、小学校に入学した子どもが、小学校の授業や生活などに慣れることができるようにするための、カリキュラム(教育課程)を工夫することです。文部科学省の「スタートカリキュラムスタートブック」によれば、幼児期と児童期、それぞれの時期の学びについて、以下のように説明しています(該当部分から一部抜粋して紹介します)。

幼児期〉 学びの芽生え
●楽しいことや好きなことに集中することを通して、様々なことを学んでいく。
●遊びを中心として、頭も心も体も動かして様々な対象と直接関わりながら、総合的に学んでいく。
●日常生活の中で、様々な言葉や非言語によるコミュニケーションによって他者と関わり合う。

児童期〉 自覚的な学び
●学ぶことについての意識があり、集中する時間とそうでない時間(休憩の時間)の区別が付き、自分の課題の解決に向けて、計画的に学んでいく。
●各教科等の学習内容について授業を通して学んでいく。
●主に授業の中で、話したり聞いたり、読んだり書いたり、一緒に活動したりすることで他者と関わり合う。

学びの芽生えと自覚的な学びをつなぐのがスタートカリキュラムです。ゼロからのスタートではなく、基本的な考え方として、「一人一人の子どもの成長の姿から編成すること」「子どもの発達を踏まえたうえで、時間割や学習活動を工夫すること」「生活科を中心に合科的・関連的な指導の充実を図ること」「安心して、自ら学びを広げられるような学習環境を整えること」の4つを踏まえカリキュラムをつくります。また、小学校では学校全体で協力体制を組み、スタートカリキュラムのマネジメントを行い、改善していくことが必要です。

教育用語である「小1プロブレム」「架け橋期」「10の姿」は、相互に関連し合う内容です。子どもに関わる全ての関係者が連携し協働し、子どもが「小1プロブレム」にならずに、「学びの芽生え」から「自覚的な学び」へと連続し、楽しい学校生活を送れることが期待されています。

▼参考資料
ベネッセ教育情報(ウェブサイト)「『小1プロブレム』を知っていますか? その原因と間違えやすい予防方法」2021年3月1日
ベネッセ教育情報(ウェブサイト)「『小1プロブレム』を乗り越える~背景から原因を探る」汐見稔幸、2016年4月6日
ベネッセ教育情報(ウェブサイト)「『小1プロブレム』を乗り越える 『自分を律する力』を育むために」汐見稔幸、2016年4月20日
文部科学省(PDF)「スタートカリキュラムスタートブック」2015年1月
文部科学省(PDF)「幼保小の架け橋プログラムの実施に向けての手引き(初版)
小学館(ウェブサイト)「『架け橋期とは?【知っておきたい教育用語】」2024年5月13日
小学館(ウェブサイト)「『10の姿』とは?【知っておきたい教育用語】」2024年2月12日

学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!
連載
【みんなの教育用語】教育分野の用語をわかりやすく解説!【毎週月曜更新】
関連タグ

教師の学びの記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました