教師自身がディベートを経験する活動を、校内研修に取り入れる【菊池省三流「コミュニケーション科」の授業 #34】

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菊池省三流 コミュニケーション科の授業
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教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三
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1年間の見通しを持って個の確立した集団、考え続ける人間を育てる「コミュニケーション科」の授業の具体案と、学校管理職の役割について提案する連載、第34回。
今回は、校内研修の中に教師
自身がディベートを体験する活動を組み込むことを提案します。

“熟議ごっこ”で満足していないか

問題解決型の話し合いには、ディベートと熟議があります。
ディベートは、論題について肯定側と否定側に分かれて議論を戦わせる話し合いです。
一方、熟議は、議論を重ねて課題解決や合意形成を図っていく話し合いです。
校内研修や授業で、熟議を取り入れようとする学校も多々あります。熟議は、協同的な学びの代表格として、全ての意見を肯定する“ソフト”な印象を受けるのでしょう。

しかし、その多くは単発で終わっている印象を受けます。
「うちの学校は職員会議で熟議を取り入れている」というものの、実際は、教職員が意見を書いた付箋を貼り、模造紙いっぱいになった付箋を眺めて満足して終了。これでは、意見を出し合っただけの“熟議ごっこ”に過ぎず、課題解決や合意形成にはつながりません。

本来、年齢や性別、職業など様々な立場の人が参加することで多様な意見が生まれるのが熟議です。
同じ地域に住む同じ年齢の子供たちが話し合っても、多様な意見が出るわけではありません。
教師も、同じ学校の、あるいは同じ職業の人たちの視点で考えるのですから、子供たちと似たり寄ったりで、深まるわけがありません。
 何より、教師自身が十分に熟議を理解しないまま取り組むため、充実した話し合いが成立しないのです。下手をすると、“声の大きい”ベテラン教師がごり押しした意見に傾いてしまいます。

ディベートで話し合いの基本を学ぶ

なぜ、一部の“強い意見”に流されるのか。それは、「教師自身が話し合いを経験していないから」の一言に尽きるのではないでしょうか。
私は、校内研修を通して、全教師が話し合いを学ぶ機会を作ってほしいと思います。
みんなが和気あいあいと意見を出し合う“熟議ごっこ”に陥らないためにも、まずは熟議の前にディベートを学ぶことが必要です。
ディベートは、肯定側と否定側それぞれが、立論→質疑→反駁→最終弁論を行い、最後に審判します。ディベートでは立論者、質問者など全員が明確な役割を担います。このため、全員に発表する機会が保障されることになります。

また、参加者は、立証するための強い根拠となるデータ探しをしなければなりません。質問や反論をするためには、相手の意見をしっかり聞き、書き留めておくことも必要になります。
さらには、審判を通して、どちらの意見の方が説得力があるか、客観的に見極める力も付いていきます。

“声の大きい”人の意見が通ったり、安易な多数決で決めたりするのではなく、根拠を示して、みんなを納得させる。問題と解決方法がクリアなディベートは、全ての話し合いの基本になっています。
ディベートで話し合いのルールを学んでこそ、話し合いを重ねる熟議が充実していくのです。

継続して校内研修を行うことが大切

話し合いは、一度経験しただけでは、身に付きません。校内研修も継続していくことが重要です。
健全な話し合いを成立させるために、管理職は職員室の人間関係をよく観察してください。
次に挙げる、話し合いが成立する授業の5つの視点は、職員室にもそのまま当てはまります(カッコ内は、職員室の場合)。

①子供(教師)同士の良好な人間関係
②当事者意識が得やすい内容
③個と集団の確立
④授業者(管理職)とのつながり、かかわり
⑤対話型の学びへの興味・関心

ディベートは、肯定派、否定派、審判の3チームに分かれて行います。最初からフルコースで行うのは難しいので、1回目は立論のみ→第1反駁、2回目以降は議論づくり→第2反駁というように、徐々に増やしていくといいでしょう。

テーマは、「日本の小中学校はマンガ図書館を作るべきである」「校内にジュースの自動販売機を設置すべきである」など、授業と同じようなものでいいと思います。
そして、ディベート後に、学んだことや問題点を出し合い、次に向けてどう活かしていくかを話し合います。この話し合いが、次の熟議のステップにつながっていきます。

ディベートを体験した先生方に感想を聞くと、話し合いがいかに難しいかを実感することが多いようです。「職業柄、議論づくりは得意でも、質疑、反駁と進むにつれ、議論がかみ合わなくなってくることに気付いた」「実際に自分がやってみて、いかに子供たちに無理を言っているかわかった」という感想も多く寄せられます。

「議論がかみ合わない」ことは、ディベート以外の話し合いの授業でも強く感じることです。
自由に立ち歩いて意見を交換したり、途切れなく自由発表が続いたり…。一見、活発な話し合いに見えますが、よく見てみると議論がかみ合っていないのです。質疑のときに反論したり、質疑に対する反駁を行っていなかったり…。これでは、話し合いが深まることはありません。

ディベートを経験することで、次のような力が自然についていきます。

①議論の見通しを持つ
②お互いの意見を聞き合う
③根拠がある意見を作る
④メタ認知ができる

こうした力は、教師も子供も経験を通して学ぶことが必要不可欠なのです。

構成/関原美和子


菊池省三先生

菊池省三(きくち・しょうぞう)
教育実践研究家。
1959年、愛媛県生まれ。山口大学卒業後、北九州市の小学校教諭として崩壊した学級をこの20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『菊池省三流奇跡の学級づくり』(小学館)他著書多数。


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