ウェルビーイングを学校でつくる! ~SDGsの授業プラン #26 「Goal 13 気候変動に具体的な対策を」の授業|永井健太 先生

連載
ウェルビーイングを学校でつくる! ~カリキュラム・マネジメントで進めるSDGsの授業プラン~
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北海道公立小学校教諭

藤原友和
ウェルビーイングを学校でつくる! ~SDGsの授業プラン #26
タイトル

全国各地の気鋭の実践者たちが、SDGsの目標に沿った授業実践例を公開し、子どもたちの未来のウェルビーイングをつくるための提案を行うリレー連載。今回からは「気候変動に具体的な対策を」について学ぶ授業実践を提案します。ご執筆は、立命館小学校の永井健太先生です。

執筆/立命館小学校教諭・永井健太
編集委員/北海道公立小学校教諭・藤原友和

1 はじめに

はじめまして、永井健太と申します。大阪市の公立小教員として14年間勤務し、2023年度より京都の立命館小学校に勤務しております。これまで社会科を中心に学んできました。
社会科は社会的事象に対して見方・考え方を働かせながら概念的知識を獲得し、獲得した知識を生かして社会への関わり方を考えていく教科です。
本稿で扱うSDGsとは目標や内容において重なる部分が多く、社会科的なアプローチが生かせると考えております。と申しましたが、依頼を頂戴した時は1年生の担任をしておりましたので、生活科の中で社会科的なアプローチを用いながら実践した内容となります。読んでいただきました皆様からのフィードバックをいただければ幸いです。SNSは実名でやっておりますので、ぜひお気軽にご連絡ください。

2 SDGsのGoal 13についての解説

気候変動と聞いて多くの人の頭に浮かぶのは “地球温暖化”だと思います。
2023年の7月に国連のグテーレス事務総長が会見の中で、”地球沸騰” と表現したことも記憶に新しいのではないでしょうか。
また、同じ会見でグテーレス事務総長は、「気候変動による最悪の事態はまだ回避できる」と発言しました。
CO2・メタン・代替フロンなどの温室効果ガスの大気中濃度が上がると、地表の温度が上昇し、異常気象(夏の猛暑・干ばつ・台風の頻度と強度の増加・集中豪雨・海面の上昇など)が頻発すると言われており、異常気象によって、小さな島国が水没してしまったり、農業や漁業にも影響が出たりします。※1
その解決に向けて、ここではGoal 13.2を取り上げます。
Goal 13.1のテーマが「気候変動への適応」であることに対して、13.2のテーマは「気候変動の緩和」であり、「気候変動対策を国別の政策、戦略および計画に盛りこむ」という目標を掲げています。
2015年に温室効果ガスをこれ以上排出しないようにすることを目標として、COP21が開かれ、参加した国々の間で「パリ協定」が結ばれました。参加国は気候変動対策に関する計画をつくりつつありますが、現状は厳しい状況と言えます。※2

資料1 「世界の統計2023」より、二酸化炭素排出量の多い国ランキング表
キッズ外務省HPより

3 SDGsのGoal 13を扱った授業の実際

・学年 小学1年生

・教科 生活科「季節の変化と生活」

・ねらい 植物園の見学で見つけた「台風被災のヒマラヤスギ古木」をきっかけにし、台風について話し合ったり、調べたりすることを通して気候変動に関心をもつことができるようにするとともに、自分がどのように関わることができるのかを考えることができるようにする。

授業の展開

①植物園の「台風被災のヒマラヤスギ古木」と出合う(1・2時間目)

台風で被災したヒマラヤスギの古木と出合う子どもたちの写真

学校の近くの植物園で冬の様子を観察する中で、子どもたちがヒマラヤスギが倒れているのを見つけて駆け寄っていく姿を目にしました。
子どもたちは迫力あるその様子に驚きながら、タブレットでヒマラヤスギを撮影し、「なんで倒れているの?」とつぶやいていました。
その疑問を解決するヒントがないかと、子どもたちと一緒にヒマラヤスギの周りを調べていると、次のような掲示板を見つけました。

台風で倒れたヒマラヤスギ古木を解説する掲示板の写真

掲示板に書かれていることから、子どもたちは、2017年と2018年の台風によって大きな損害を被ったことや、そのことを伝えていくために展示・保存されているということを知りました。
そんな子どもたちに、「台風が強くなっている原因に地球温暖化というものがあると言われているのを知っているかな?」※3と問いかけました。
「地球温暖化」という言葉を聞いたことがあるという子と、知らないという子は半々くらいの状況であることを確認した後、「次の生活の時間に少し調べてみない?」と投げかけ、次時の学習へとつなげていきました。

②地球温暖化について知る(3時間目)

3時間目の授業の板書例

初めに地球温暖化について簡単に解説をした後に、NHKの動画「2050年の天気予報」を子どもたちと視聴して、このまま地球温暖化が進むとわたしたちの生活にどのような影響が出るのかを確認しました。
そして、動画に出ていた地球温暖化による影響について一つ一つ確認しながら、どのように感じるかを子どもたちと話し合う時間を取りました。
動画の中には、ヒマラヤスギを倒した台風21号を超えるようなスーパー台風が発生する可能性にも触れられており、それに対して子どもたちは、「いやだ」「こわい」とつぶやいていました。
その中で、ある児童が、「こんな怖いことは知りたくなかった」と言っているのに対して、別の児童が「まだ先のことだから大丈夫だよ」と励ます姿が見られたので、「どうすればこの地球温暖化を止めることができるんだろうね?」と問いかけてみました。子どもたちはそもそもなぜ地球温暖化が起こるのか、と疑問を抱いていたので、それをみんなの問いとして共有し、次の時間の調べる活動へとつなげていきました。

③地球温暖化の原因について調べる(4時間目)

図書館のSDGsコーナーで情報を集める子どもたちの写真

メディアセンター(図書館)にSDGsコーナーがあったので、子どもたちに紹介して情報を集めるように伝えました。熱心に読んでいましたが、1年生には難しい内容が多かったので、司書の先生に紹介してもらった本から資料(下写真)を作成して配付し、資料を基に地球温暖化の原因について知ることができるようにしました。

教師が作成して配布した資料プリントの写真

著作権の関係上、内容をお見せすることはできませんが、「温室効果ガスが地表を覆い、そのおかげで地球が温められて生き物が生きることができているが、その温室効果ガスが必要以上に増えている」ことと、「温室効果ガスの中で大きな役割を果たしているのは二酸化炭素であり、生活に必要なエネルギーを生み出すために化石燃料を燃やして大量の二酸化炭素を出している」ことを読み取れるようにしました。もちろん、内容は一年生には難しいので、質問も受けながら丁寧に解説し、理解できるようにしました。

また、子どもたちが学んだことを保護者に伝えてほしい、そして保護者の方と一緒に自分たちにできることを考える時間をつくりたいと思い、資料のプリントの中に話し合ったことを書くスペースをつくり、宿題として出しました。
保護者にも連絡ツールを通して協力を呼びかけ、一緒に考えてもらうようにしました。

④自分にできることを考える(5時間目)

宿題を出した次の日の朝は、登校するなり「家でこんな話をしたよ!」と多くの子が教えてくれました。また、話し合った内容を早く誰かに伝えたくて仕方ないといった様子で、それぞれのメモを見せ合う姿も見られました。

授業では、家でどのような話をしたのかをロイロノートで提出し、それを基に”自分たちにできることは何か”について話し合うようにしました。

子どもたちがロイロノートで共有した「自分たちにできること」の共有画面

クーラーの温度を28℃くらいに設定して、できるだけ使う時間を減らす。
使わない時や出かける時は電気を切って節約する。
むだなもの、必要のないものは買わない。
できるだけ車よりも電車などを使うようにする。
車のガソリンを電気や水素に変えていく。
ごみをへらす。できるだけごみが出ないようにする。

子どもが1人1台端末に書き込んだ「自分にできること」

子どもたちから出されたこれらの内容を一つずつ確認し、どれなら取り組むことができそうかを話し合いました。
「移動教室の時に必ず電気を消すようにすることはすぐにできる」や「寝坊したら車で送ってもらうことがあるから、早起きして車を使わないように気をつける」など、子どもたちの目線でできることを考えることができていました。

最後は、地球温暖化に関する学習について振り返りを書くようにしました。

子どもによる振り返りが書かれた端末画面・その1。「これからは、メデイアセンターに行って本を読もうと思います。温室効果ガスを減らすための本を読んで確かめます」。
子どもによる振り返りが書かれた端末画面・その2。「これからは、お母さんと一緒にいっぱい話をしていっぱいお母さんに聞いてどんどん学びます」。

様々な内容が出され、多くの児童が自分のこれからの具体的なアクションについて書いていました。
その中で上の画像のような記述があり、この時間だけではまだ分からないことがあるから、これからも学び続けようという意欲の高まりを感じることができました。
SDGsのターゲット13.3は「気候変動の緩和、適応、影響軽減及び早期警戒に関する教育、啓発、人的能力及び制度機能を改善する」であり、ここに繋がる子どもたちの考えだと思います。
まずは知ること、それがスタートになるのだと、私も子どもたちから学ぶことができました。

4 授業の成果と課題、他教科・他領域とのつながり

生活科の目標からずれる内容であると共に、1年生にとっては難しい内容になってしまったと振り返っています。事実、3時間目の子どもたちの様子を見ていると、まだ気候変動の事実に向き合うのは早いのかと感じました。
しかし、メディアセンターで地球温暖化についての本を探して熱心に読む姿や、保護者と話し合った内容を前のめりで伝える姿から、地球温暖化に対して少しずつ関心が高まり、自分事になっていることを確認することができました。
また、最後の振り返りからは、これからも地球温暖化について学び続けようという意欲の高まりも感じることができ、その点では生活科の学習が大切にする探究的な学びのきっかけになっていると捉えることができますし、今後子どもたちが社会科や理科の学習をした際に、今回の学習とつなげて考えてくれるのではないかと期待できます。
まだまだ改良すべき点はありますが、子どもたちの気付きを大切にしながら学びをつくっていった、手応えのある学習となりました。

【参考文献】
*1 朝日新聞出版「やるべきことがすぐわかる 今さら聞けないSDGsの超基本」泉美智子2023
*2 ポプラ社「これならわかる!SDGsのターゲット169徹底解説」稲葉茂勝2022
*3 環境省HP「勢力を増す台風〜我々はどのようなリスクに直面しているのか〜」2023

この連載は、毎週木曜日のAM6:00に公開します。どうぞお楽しみに!

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