よりよい所見の記入文例作成の極意〔1学期・前期〕 

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よりよい所見を作成するにはどのようなことが大切でしょうか。所見作成上の留意点やよりよい所見を作成するための手順、課題のある子の所見作成上のポイント、課題のある子の所見記入例等、しっかりとした所見を作成するための極意を紹介します。子供のよさを認め、子供の意欲を高める所見を作成するヒントにしてください。

執筆/埼玉県東松山市教育委員会教育長職務代理者
 城西国際大学兼任講師
 日本女子大学非常勤講師・稲垣孝章

所見扉イラスト

所見作成上の留意点

所見を作成する前に注意しておくことは何でしょうか。

①「行動の事実」の記録の累積

学習面だけでなく、学校生活全般において、「基本的な生活習慣の定着」「自主的な活動」「責任感のある言動」「思いやりのある態度」等について顕著な行動の事実を記録し、累積しておくことが大切です。

記録の累積がないと、適切な所見を書くことは困難です。まず、しっかり「行動の事実」の記録を累積することが前提となります。

②よさとして「取り上げる事実」の選定

「行動の事実」について、多面的にとらえて累積した資料をどのように活用するかが問われます。基本的には、相対評価ではなく、個人内評価を重視して個々の子供のよさを選定することになります。

その際、個人の様々な特性の中から、特に優れている事柄を取り上げる「横断面的個人内評価」の視点で選定する方法があります。また、個人の前の状況からの伸びの様子を取り上げる「縦断面的個人内評価」の視点も重要となります。その子なりのよさとしての「行動の事実」を選定することが大切です。

資料収集上の留意点

学級担任の主観にならない評価にするためにはどうすればよいのでしょうか。

➀教師側からの資料収集

所見の記載に際しては、学級担任だけの主観とならないように、より多くの教師から多様な情報を収集しておくことが大切です。例えば次のような教師が対象となります。

①同学年他学級の教師や他学年の教師(印象に残る場面を中心とした情報)
②養護教諭(身体面だけでなく広い視野でみた情報)
③クラブ活動、委員会活動担当の教師 (学級では見られない活動場面の情報)
④教科担当の教師(音楽や書写等の教科担当者から見た情報)

②子供側からの資料収集

学級担任の取り上げた子供のよさと本人が努力したと考えている内容が大きく異なる場合には、よい評価とはなり得ません。

子供自身で行う「自己評価」や「諸検査・日記や作文」、子供同士の「相互評価」も効果的に取り入れていくことが求められます。評価資料を適切に収集することが、所見作成の基盤となります。

多様なよさを見取る場面(例)

子供の多様なよさを見取るには、どのような場面があるのでしょうか。

子供の多様なよさを見取るには、様々な場面で視点を明確にした情報収集が求められます。例えば、授業の場面、その他の学校生活の場面では次のような例が考えられます。

①授業の中での様子

「背筋を伸ばした姿勢で学習する態度は、~」「大きな声でしっかり発表することができ~」
「国語では、登場人物の気持ちを考えて、~」「友達の発言をよく聞き、関連する発言を~」
「社会科のグループ学習では、友達と協力~」「ノートに書く文字が丁寧で、硬筆展でも~」
「算数では、様々な問題の解き方を考え、~」「理科の実験では、実験用具の後片付けを~」
「環境問題についての学習では、SNSを活用して~」

②授業外での学校生活の様子

「日直として朝の会で進んで進行の役割を~」「清掃では、自分の分担箇所だけでなく、~」
「係活動では、新聞係として友達の意見を~」「朝、登校したら誰よりも早く元気な声で~」
「給食当番で困っていた友達に対して自ら~」「クラス遊びの時には、進んで友達に声を~」
「次の授業の準備をして遊びに行く姿は、~」

子供のよさを見取るためには多様な場面を把握する必要があります。

所見を作成する際の7つのポイント

所見を作成する際のポイントには、どのようなものがあるのでしょうか。

所見の作成にあたっては、次のような視点をもつことが大切です。

①所見の文章表記は、子供向けでなく、保護者向けの表現にします。
②専門用語はできるだけ避け、分かりやすい平易な文章表現にします。
③他の子供との比較ではなく、その子なりのよさを取り上げます。
④課題の記載には十分に配慮し、次への意欲を高める文章表現にします。
⑤課題は、教師の指導不足ととらえ、子供や保護者の責任にしないようにします。
⑥学級担任の主観で、独断や偏見とならないようにします。
⑦誤字や脱字、文章の主述の歪み等がないようにします。

多くの子供の所見を作成していくと、誰でもミスが出てしまうことがあるものです。そのために、互審会をしっかり行い、管理職を含めた多くの目で検閲することが大切です。

よい所見を作成する際の手順

よい所見を作成するためには、どのような手順があるのでしょうか。

よい所見を作成するためには、教師が所見として表現する文章について、どのような視点をもっているかが問われます。例えば、ある所見をよりよくするためには、次のような視点をもつことが求められます。

①事実としての「よさ」を取り上げる

(例)清掃活動によく取り組んでいる子
「清掃活動によく取り組んでいました。」

よい所見にするために

②「具体的な事実」を取り上げる

「進んで雑巾がけを行い、後片付けも責任をもって成し遂げていました。」

さらによい所見にするために

③事実だけでなく教師の考えも盛り込む

「進んで雑巾がけを行い、後片付けも責任をもって成し遂げる姿は、クラスの模範となり感心しました。」

ちょっと気を付けたい文章表記     
『~しているところがすばらしいです。
現在、丁寧語の助動詞として「です」は、かなり幅広く使われています。しかし、本来は、「です」は、体言やそれに準ずるものにしか接続しない助動詞で、断定の助動詞「だ」の丁寧語版という役割となり、上記のような表現に違和感を覚える人も多いようです。

課題のある子の所見作成上のポイント

課題のある子の所見を書く時に、気を付けることは何でしょうか。

「集団に適応できにくく孤立しがちな子」「友達に対する言動が粗暴な子」「身の回りの整理整頓ができない等の基本的な生活習慣が定着していない子」「集中力に欠け、学習意欲が高くない子」等、現実には様々な課題のある子供が学級には存在しています。

また、現在、通常学級にも在籍しているケースが多く見られる「発達障害のある子」についても、所見の書き方には十分配慮しなければなりません。

特に、課題のある子の所見を書く際は、次のようなポイントを押さえておくことが大切です。

①課題となる項目の記載は最小限とし、その子なりのよさを中心に取り上げる。
②課題については、教師の具体的な指導の手立てと今後共に取り組んでいきたいことを伝える。
③課題については、その子の以前の状況から進歩している様子を伝えることを主とする。
④課題の克服に向けた努力により、その子に内在する力を発揮できるような記載にする。
⑤課題の克服に向けた挑戦が、前向きで希望のもてるような内容となるように配慮する。

課題のある子の所見記入例

課題のある子に対する所見は、具体的にどのように書けばよいのでしょうか。

課題のある子供の所見を作成する場合には、上記のような視点をもって書くことが求められます。具体的には、次のような文章にしていくことが考えられます。

○落ち着きのない子

授業の中で、落ち着いて学習していこうとする場面が増え、特に文字を丁寧に書く姿が見られてきました。この態度は、算数の文章問題についても、……。

○乱暴な言動をする子

友達とのトラブルについて、その都度、原因を考え、改善することができるようになってきました。その結果、多くの友達と仲よく活動できるように……。

○おとなしく消極的な子

音読発表会では、事前に何度も練習を重ね、自信をもって発表することができました。その努力は、他の学習にも大きな成果となり、授業での挙手も少しずつ……。

○基礎学力が定着していない子

漢字練習を根気強く、継続して取り組もうとする態度が見られてきました。自分なりのめあてをもって学習する中で、本来の力が発揮されてきて……。

○友達との関わりが苦手な子

掃除当番では、自分の責任をしっかり果たす姿が見られ、帰りの会で級友から拍手を送られました。友達関係も広がりを見せ始め、……。

これらの所見では、あくまでも他との比較ではなく、その子なりの努力を認め、今後への期待感がもてるようにしていくことが基本となります。

通知表の仕上げは「言葉がけ」

通知表の仕上げは言葉がけということは具体的にどうすればよいのでしょうか。

ある初任者研修中の新採用教員が学期末に通知表を手渡している場面を見ました。
子供一人一人を順番に教卓に呼び、「○○さん、よくがんばったね。」とひとこと言葉を添えて通知表を手渡しています。初任者としては、すばらしいことかもしれません。

しかし、望まれる通知表の手渡し方は、少し違います。「通知表の仕上げは言葉がけ」という名言があります。可能なら、教師のそばに一人一人の子供を呼び、脇に座らせて、「今学期、どこをどのように頑張ったことがよかったのか、そして来学期には何を期待しているのか」等、具体的に言葉をかけることが求められます。

その際、他の子供への指示としては、読書や作文等も考えられますが、子供から担任への通知表と題して手紙を書かせることも効果的です。

構成/浅原孝子 イラスト/池 和子(イラストメーカーズ)

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