小4特別活動 「歯ぴかぴか大作戦」指導アイデア
文部科学省視学官監修による、小4特別活動の指導アイデアです。6月は、<学級活動(2)ウ「歯ぴかぴか大作戦」>の実践例を紹介します。
6月は、歯と口の健康週間(6月4日~10日)に関連させて、歯の磨き方の指導を行う学校も多いと思います。保健に関する学習の場合、専門的な知識をもつ養護教諭と連携して実践することで、子供の実態に即した専門的な情報等を授業に生かすことができます。そこで、今回は養護教諭とTT(ティーム・ティーチング)で行った実践を紹介します。
執筆/青森県八戸市総合教育センター主任指導主事・佐々木亮子
監修/帝京大学教育学部教授(前文部科学省視学官)・安部恭子
青森県公立小学校校長・河村雅庸
目次
年間執筆計画
4月 学級活動(3) ア 4年生になって
5月 学級活動(1) 係を決めよう
6月 学級活動(2) ウ 歯ぴかぴか大作戦
7月 学級活動(3) ウ 見直そう自分たちの読書
9月 学級活動(1) 学級オリンピックをしよう
10月 学級活動(1) 学年の仲を深める集会を開こう
11月 学級活動(2) エ よりよい給食のマナー
12月 学級活動(1) 大そうじ大作戦
1月 学級活動(1) ア 2年生と笑顔いっぱい集会をしよう
2月 学級活動(3) 10歳の節目
3月 学級活動(2) 4年生がんばったね集会をしよう
学級活動(2)について
学級活動(2)は、子供たち一人一人が自らの学習や生活をよりよくするために、学級で話し合ったことを生かして個人で具体的なめあてや行動目標を決めて実践する時間です。
本時の題材である「歯ぴかぴか大作戦」は、学級活動(2)ウ「心身ともに健康で安全な生活態度の形成」に関わる題材で、心身の機能や発達、心の健康についての理解を深め、生涯にわたって積極的に健康の保持増進を目指すものです。歯の健康を保つための課題に自ら気付き、必要な情報を進んで収集し、よりよい解決方法を考えて、学級で話し合います。そして、自分に合った具体的な解決方法を、学級での話合いを生かして意思決定していくことが活動の中心となります。
歯の指導について
本校では、給食後の歯磨きタイムなどで、1年生から継続的にブラッシング指導を行っています。そして、正しい歯磨きの仕方を身に付けるために、給食後ブラッシングの手順が示された動画を見ながら歯磨きをしています。しかし、子供たちの様子を見ていると、動画は見ているもののブラッシングは自己流、なかには歯ブラシをくわえているだけの状態が見られます。歯ブラシについても、ブラシの毛先が開いてしまっている子供もいます。また、10歳になるこの時期は永久歯への生え変わりも落ち着く頃ですが、磨き方が不十分なために汚れを完全に落とすことができず、永久歯が虫歯になってしまうことも多いようです。そんな時期だからこそ、虫歯になる原因を知り、歯の健康を保つための課題に自ら気付いて、自分事として考えていくことが大切になってきます。
養護教諭との連携について
現在及び生涯にわたって心身の健康を自分のものとして保持し、健康で安全な生活を送ることができるようにするためには、必要な情報を子供たちが自ら収集し、よりよく判断し行動する力を育むことが大切です。そのために、専門的な知識を有する養護教諭と連携してTTでいっしょに授業を展開していくことが、より効果的な学習につながります。そこで、「さぐる」や「見つける」の場面で養護教諭との連携を図っていきます。
事前の指導
① 事前アンケート
事前アンケートで、子供たちの歯磨きの実態やよく食べているおやつなどについて調べます。アンケートに回答することで、子供たちは自分の生活を振り返ることができます。また、保護者にも、子供たちの歯磨きについて気になっていることについてのアンケートを実施します。ICT端末を利用すると、アンケートの集計まで短い時間で完了することができ、より効率的に準備を進めることができます。
【事前アンケートの例】
② 家庭への連絡
本時では、展開の中で歯垢の染め出しを行います。学級の中には、口腔内を治療中だったり、矯正器具を使用したりしている子供もいることが考えられるので、本時のねらいや指導内容等を事前に家庭へ連絡し、心配のある子供については養護教諭の協力を得ながら配慮して進めていきます。
本時のねらい
今までの生活を振り返ったり、磨き残しを確認したりする活動を通して、歯の健康を保つために必要なことに気付き、歯を大切にしようとする意識を高めることができる。
本時の指導
導入【つかむ】段階(課題の把握)
事前アンケートや口腔検査(虫歯の有無)の結果から気が付いたことを話し合います。
<T1学級担任、T2養護教諭>
歯磨きについてのアンケート結果と口腔検査の結果を見てみよう。何か気が付いたことはあるかな?
ほとんどの人が1日3回歯を磨いているよ。
1回に3分間磨いている人が多いね。
虫歯のある人が、思っていたより多いなぁ。
食後に歯磨きをしているのにどうして虫歯になってしまうのかな?
よく食べるおやつは甘いものが多いよ。食べているものも虫歯に関係があるのかな?
事前アンケートの結果と口腔検査(虫歯の有無)の結果を提示します。自分たちが日頃行っている歯磨きの実態と口腔検査の結果から、「歯磨きをしていても、虫歯になっていることがある」という事実に気が付き、「虫歯にならないために、どのようにしたらよいのか」という課題を自分事として考えることができるよう課題意識を高めます。
展開【さぐる】段階(原因の追求)
自分の生活を振り返り、虫歯にならないために必要なことをさぐります。そのためにも、「つかむ」の段階で子供たちが気付いた「食べ物」と「歯磨き」の2つの視点でアンケートの結果をもう一度見直し話し合います。
どんなおやつをいつ食べているのかな? みんなのアンケート結果を見てみましょう。
グミとかチョコレートなど、甘いものが人気だね。
動画を見ながらやゲームをしながら、おやつを食べている人もいるよ。
たしかに、遊んでいるとき、グミとかあめを食べていることが多いかも。
次は歯磨きについてのアンケート結果を見てみよう。何か気付いたことはありますか?
毎食後、歯磨きをしている人が多い。
おやつを食べたあとは、歯磨きをしている人は少ないな。
3分間磨いている人が多いけど、虫歯になるってことは3分じゃ足りないのかな。
たしかに、虫歯になる人とならない人って何がちがうのかな?
●教師が子供たちの発言を整理しながらまとめていきます。家庭での様子にも具体的に目が向くように、必要に応じて保護者アンケートの結果も紹介します。
●原因をさぐっていくなかで、子供たちからたくさんの疑問が出てきます。そこで、養護教諭から、「どうして虫歯になるのか」を話してもらいます。
(養護教諭)虫歯の原因は、歯垢です。歯垢とは、細菌が繁殖したかたまりのことです。(写真を示して)これが、その細菌です。この細菌が作る酸が歯を溶かし、虫歯になるんですよ。
歯が溶けて、虫歯になっていたんだ。
どうしたら、酸を出さなくなるのかな?
(養護教諭)細菌のえさになる食べかすを口の中に残さないことが大切なので、しっかり歯磨きをすることが重要ですね。また、口の中には、食べかすを洗い流す作用があるものがあるんだよ。
口の中で、洗い流すもの?
だ液かな。
(養護教諭)そうです。だ液です。だ液が出るためには、よく噛んで食べることが必要です。なので、普段の食事で野菜や果物をしっかり食べることも虫歯にならないためには大切です。
だ液の働きや、おやつなどをだらだら食べ続けることが虫歯の原因の1つとなることなど、子供たちでは気付けない部分も多いと思います。そうした場合は、原因となる例を養護教諭から示すなど、子供たちの実態に合わせて、虫歯にならないためのポイントを話してもらいます。
TTですから、養護教諭に任せきりにせず、T1である学級担任とT2の養護教諭でともに授業を進めていくようにします。
野菜や果物もよく食べているし、食後はちゃんと歯磨きをしているけど、虫歯になるのはどうしてなのかな?
口の中に、歯垢が残っていて、細菌が酸を出して歯を溶かしているってことなのかな。
(養護教諭)歯磨きにおいて、「磨いた」と「磨けた」はちがうのですよ。歯垢は、ねばねばしていて歯にくっついているので、「磨いた」と思っても、実は歯に残っていることが多いのです。
みんなの歯は大丈夫かな。では、ちゃんと磨けているのか確かめてみましょう。
あっ! 赤く染めるんだ。3年生のときにやったことある。
朝も給食の後も、歯磨きしたら歯垢は付いていないと思うけど……。
自分の口内の状態が気になったタイミングで、実際に歯垢の染め出しを行いました。染め出しの結果を鏡で確認するとき、学級担任と養護教諭は机間指導を行い、どこに汚れが多く残っているのかしっかり確認できるようにサポートします。3年生のときに一度経験しているので、本時の中で染め出しを行い、ワークシートへの記入も進めました。経験のない場合や本時の中で行う時間がないと思われる場合は、事前に実施し、その記録を「さぐる」で生かしたり、「見つける」につなげていったりすることも考えられます。
歯垢の染め出しをしてみて、気が付いたことはありましたか?
思っていたより、赤く染まったところが多かったです。
歯と歯ぐきの境目が赤く染まっていました。
ぼくは、歯と歯の間が赤く染まっていました。
(養護教諭)人によって、歯垢が残っている場所がちがうのですね。そのポイントを覚えて、そこをしっかりとブラッシングして歯垢を落としていくことが大切ですね。
どのようにブラッシングすると、赤く染まったところがきれいになりましたか。
歯ブラシを細かく動かすとよく取れました。
鏡を見ながら、歯の角度に合わせて磨くと汚れが落ちました。
やさしくブラッシングしたほうが、毛先が汚れに届いてよく取れました。
展開【見つける】段階(解決方法等の話合い)
虫歯にならないためにどのようにしたらよいかについて話し合います。アンケート結果から気が付いたことや、染め出しや実際にブラッシングをして分かったことなどから、解決方法について話し合っていきます。
可能であれば、大型の歯の模型や歯ブラシを用意して、歯垢が残りやすい部分を示したり、磨き方のコツを実演したりするとよいでしょう。
虫歯にならないためには、どのようにしたらよいかな。まず、「食べ物や食べ方」について考えてみましょう。
同じおやつを食べるときでも、だらだら食べないで時間を決めて食べるといいと思う。
だ液がよく出るようによく噛むことも、ふだんから気を付けたほうがいいんじゃないかな。
甘いものを食べすぎないことも大切だと思います。
(養護教諭)そうですね、食べ方も気を付けることが大切ですね。
次に、「歯磨き」について考えてみましょう。
歯垢を取ることを意識して磨くことが大切だね。
(養護教諭)奥歯は磨きにくいから歯垢が残りやすいです。こうやって歯ブラシを横にして磨くと奥のほうも磨きやすいですよ。
鏡を見ながら、1本ずつ丁寧に磨くといいね。
ブラッシングは細かく、やさしくすると赤いところが取れたよ。
今までより、1分ぐらい長く磨くようにしよう。
養護教諭は、子供たちから出された方法のよさを認めるとともに、子供たちから出されなかった方法があれば紹介するようにします。
歯ブラシのブラシの部分が広がってしまっている子供が見られる場合は、広がっているとよく磨けないことを全体に指導し、自分の歯ブラシを確認するように声をかけるとともに、家庭との連携を図るようにします。
終末【決める】段階(個人目標の意思決定)
「見つける」で話し合ったことを参考にして、一人一人が実践に向けて自分に合った具体的な内容や方法を意思決定できるようにします。ワークシートには、子供たちが継続して実践できるように、振り返りの欄を設けます。また、ICT端末を使用してワークシートを配付することで、日々の実践の様子を教師がすぐに確認することができます。
学級担任と養護教諭で机間指導を行い、実践可能な内容やその子供に合った見本的な方法を意思決定することができているか確認し、必要に応じて子供たちに助言を行います。また、1週間の実践中も子供たちの取組に適切に指導や助言を行い、一人一人が課題の解決や改善につながるようにすることが大切です。
板書例
事後の指導
① 決めたことの実践
本時の後、すぐに1週間実践します。自分が実践する内容を記入したワークシートで、毎日達成度を確認します。
② 実践の振り返り
1週間の実践の後には、学級担任がコメントしたり、家の人からメッセージをもらったりします。そのことにより、自分の課題解決に向けて実践できた喜びや達成感をこれからの生活に生かすことができます。ただし、家庭環境等により、コメントが難しいことが考えられる場合は、ワークシートは「先生から」とするとよいでしょう。
また、学級通信や保健だよりなどで授業の様子や子供たちの振り返りなどを家庭に伝えることで、家庭での実践の継続につなげます。
構成/浅原孝子 イラスト/小野理奈
監修
安部恭子
帝京大学教育学部教授(前文部科学省視学官)
埼玉県さいたま市の小学校に勤務後、さいたま市教育委員会、さいたま市立小学校教頭勤務を経て、2015年より文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・国立教育研究所教育課程研究センター研究開発部教育課程調査官、2022年より文部科学省初等中等教育局視学官を務める。
特別活動の魅力をすべての教師に伝える本!
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著/安部恭子 著/平野 修 著/清水弘美
ISBN9784098402106