「教育振興基本計画」とは?【知っておきたい教育用語】
教育基本法に基づき策定される「教育振興基本計画」をおさえておくことは、教育の今後を見通すうえで欠かせません。では、教育振興基本計画とは、具体的にどんな計画であり、どのような教育を目指すために策定されるものなのでしょうか。
執筆/創価大学大学院教職研究科教授・宮崎猛
目次
教育振興基本計画とは、教育基本法に基づいて政府が策定する教育計画
【教育振興基本計画】
平成18(2006年)に定められた教育基本法に基づき、政府が策定する教育に関する総合計画。5年おきに国の教育政策全体の方向性や目標、施策などを定めており、令和5年度~9年度における第4期の教育振興基本計画は、令和5年(2023年)6月16日に閣議決定された。計画のコンセプトとして、持続可能な社会の創り手とウェルビーイングの向上が主たるテーマとなっている。
平成18(2006)年に全面改正された教育基本法では、教育の振興に関する施策の方針や必要事項を定める「教育振興基本計画」の策定が国に義務づけられることになりました。その条文が以下の通りです(「教育基本法」より該当部分を抜粋して紹介します)。
(教育振興基本計画)
第十七条 政府は、教育の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、教育の振興に関する施策についての基本的な方針及び講ずべき施策その他必要な事項について、基本的な計画を定め、これを国会に報告するとともに、公表しなければならない。
2 地方公共団体は、前項の計画を参酌し、その地域の実情に応じ、当該地方公共団体における教育の振興のための施策に関する基本的な計画を定めるよう努めなければならない。
この条文に基づき、教育振興基本計画が策定されるようになりました。また、地方自治体においても「○○県教育振興基本計画」や「○○県教育ビジョン」など、国の教育基本計画を参考に独自の基本計画を作成することが求められるようになりました。
平成20(2008)年7月に初めての教育振興基本計画が策定され、以降5年おきに計画が策定されています。現在の教育基本計画は第4期であり、令和5年(2023)度から令和9年(2027)度の取組となっています。
総括的なコンセプト・基本方針
第4期教育振興基本計画では、そのコンセプトともいうべき総括的な基本方針として「持続可能な社会の創り手の育成」および「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」を掲げました。
文部科学省「第4期(令和5年度~令和9年度)教育振興基本計画」によれば、以下のことが求められています。
持続可能な社会の創り手の育成
文部科学省(PDF)「第4期(令和5年度~令和9年度)教育振興基本計画」
●将来の予測が困難な時代に、未来に向けて自らが社会の創り手となり、持続可能な社会を維持・発展させていく人材を育てる
●主体性、リーダーシップ、創造力、課題設定・解決能力、論理的思考力、表現力、チームワークなどを備えた人材の育成
日本社会に根差したウェルビーイングの向上
●多様な個人それぞれが幸せや生きがいを感じるとともに、地域や社会が幸せや豊かさを感じられるものとなるよう、教育を通じてウェルビーイングを向上
●幸福感、学校や地域でのつながり、協働性、利他性、多様性への理解、社会貢献意識、自己肯定感、自己実現等を調和的・一体的に育む
コンセプトの背景には、前期(第3期)の教育振興基本計画の取組の成果と課題を鑑みたことにあります。
成果としては、初等中等教育段階における、GIGAスクール構想による1人1台端末と高速通信ネットワーク等のICT環境の整備が飛躍的に進展したこと、高等教育段階において大学の認証評価のための法改正、大学設置基準の改正など、学習者本位の教育への転換に向けた取組が大きく推進されたことが評価されました。その一方で、課題として、不登校・いじめ重大事態などの増加、学校の長時間勤務や教師不足などの問題が指摘されました。
さらに、現代は「VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)」の時代、つまり将来の予測が困難な時代といわれています。こうした教育をめぐる現状・課題・展望を踏まえ、第4期教育振興基本計画では、2040年以降の未来の社会を見据えた教育政策が示されたのです。
また、上記の2つのコンセプトに基づき、以下の5つの基本的な方針が定められました。
①グローバル化する社会の持続的な発展に向けて学び続ける人材の育成
文部科学省(PDF)「第4期(令和5年度~令和9年度)教育振興基本計画」
②誰一人取り残されず、全ての人の可能性を引き出す共生社会の実現に向けた教育の推進
③地域や家庭で共に学び支え合う社会の実現に向けた教育の推進
④教育デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進
⑤計画の実効性確保のための基盤整備・対話
この5つの基本方針を実行していくことで、子どもはもちろん、教師をはじめとする学校全体のウェルビーイングの向上を目的としています。そして、子どもたちのウェルビーイングの向上が、家庭や地域、社会にも多大な影響を与え、日本の教育全体をよりよい方向に導いていくことが期待されます。
5年間の教育施策の目標と基本施策
基本的方針を実効ある教育政策として進めていくために、16の目標と基本施策、指標が定められています。
ここでは、文部科学省「第4期(令和5年度~令和9年度)教育振興基本計画」から、16の目標を抜粋して紹介します。
目標1 確かな学力の育成、幅広い知識と教養・専門的能力・職業実践力の育成
目標2 豊かな心の育成
目標3 健やかな体の育成、スポーツを通じた豊かな心身の育成
目標4 グローバル社会における人材育成
目標5 イノベーションを担う人材育成
目標6 主体的に社会の形成に参画する態度の育成・規範意識の醸成
目標7 多様な教育ニーズへの対応と社会的包摂
目標8 生涯学び、活躍できる環境整備
目標9 学校・家庭・地域の連携・協働の推進による地域の教育力の向上
目標10 地域コミュニティの基盤を支える社会教育の推進
目標11 教育DXの推進・デジタル人材の育成
目標12 指導体制・ICT環境の整備、教育研究基盤の強化
目標13 経済的状況、地理的条件によらない質の高い学びの確保
目標14 NPO・企業・地域団体等との連携・協働
目標15 安全・安心で質の高い教育研究環境の整備、児童生徒等の安全確保
目標16 各ステークホルダーとの対話を通じた計画策定・フォローアップ
また、遂行にあたっては、次の評価・投資等の在り方を示しています。
●教育政策の持続的改善のための評価・指標の在り方
文部科学省(PDF)「第4期(令和5年度~令和9年度)教育振興基本計画」
・教育政策のPDCAサイクルの推進
・客観的な根拠を重視した政策推進の基盤形成
●教育投資の在り方
・「未来への投資」としての教育投資の意義
・教育費負担軽減の着実な実施及び更なる推進
・各教育段階における教育の質の向上に向けた環境整備
・国民の理解醸成及び寄付等の促進
教育振興基本計画の策定の義務づけが教育基本法に盛りこまれた意義は重要です。なぜなら、教育振興基本計画は、国会への報告が求められているためです。OECD諸国のなかでも、GDP(国内総生産)に対して教育予算が少ないとされる日本では、教育振興基本計画が策定されることによって、教育予算の増額が期待されます。
しかし、これはあくまでも計画であり、それをどれだけ実行に移すことができるかが重要となります。教育振興基本計画は、国民的な関心事として取り上げられることが少ないという現状があります。計画が絵に描いた餅にならないよう、国民が注視していくことも求められるでしょう。
▼参考資料
文部科学省(PDF)「第4期(令和5年度~令和9年度)教育振興基本計画」
文部科学省(PDF)「新たな教育振興基本計画【概要】(令和5年度~9年度)」