実験を行う前に、実験室を整えよう 【理科の壺】
理科の授業をする際、教室だけではなく実験室(理科室)を活用することも多くあります。教室と違って実験室は普段出入りしている教室ではないうえ、複数の先生で利用しているため、備品の管理や整理整頓が少々難しいですよね。そこで、お互いに使いやすいように誰かが気遣う必要があります。そのとき、先生たちだけではなく、ぜひ子どもたちとも約束事を共有しましょう。先生1人で片づけるより、時間も手間も軽減されますよ。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような “ツボ” が見られるでしょうか?
執筆/徳島県公立小学校教諭・新田 望
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓
ゴールデンウィークが終わる頃には、子どもたちは新しい環境に慣れ、落ち着いて学習ができるようになってきます。先生たちは様々な業務で忙しいと思いますが、子どもたちの予想や仮説を確かめることができるよう、観察・実験の準備をしておきたいですね。使いやすい実験室や観察・実験の工夫を紹介します。
実験室の整理・整頓をしよう
単元に入る前には、しっかり実験器具の確認や予備実験をされていると思いますが、単元が終わった後は、ただ実験器具をもとの場所に片付けるだけで終わっていませんか。
授業中に実験器具が一部壊れてしまったり、器材を汚してしまっても、学習を進めることに手一杯。授業が終わった後はホッとして、こうしたことがスッポリと頭から抜け落ちてしまうこと、私もよくあります。
また、単元を始める直前になって薬品庫を確認すると、薬品を使い果たしており、焦ることはありませんか?
こうしたことを予防するためにも、子どもも、先生も使いやすい理科室ルールを作ってみるといいと思います。
① 実験机の座る位置で、役割を決めよう
それぞれの実験机で、席に座る位置で役割を割り振ると、教室全体でみんなが迷いなく実験を進められるようになります。実験器具や薬品を子どもたちが取りに行くときなど、「1番さん、ビーカーを準備しましょう」「2番さん、薬品を取りに来ましょう」と、具体的に指示を出すことで、みんながスムーズに準備することができます。また実験中の操作でも、役割を分担することで、同じ子どもに操作が偏らないように指示を出すことができます。
座る位置で、子どもたちに役割分担を
② 実験器具の片付けの仕方を掲示しよう
実験室を使う単元の前には、子どもたちと実験器具や加熱器具などの準備の仕方や使い方、片付けの仕方を学ぶと思います。しかし、実験室の使い方は、何度も繰り返すことでしっかり身に付いていくものです。子どもたち自身が、自ら考え片付けができるよう、掲示しておくといいと思います。プレートなどを貼ったり、実際に使う器具や保管場所の写真を撮って、それを近くに貼っておいたりすると分かりやすいです。
片付けの具体例をプレートに書いておきます
③ 実験室の外に器具を持ち出すときは、お知らせをしよう
他の先生が、虫眼鏡や鏡、電子てんびんなどの器具を、それぞれの教室や屋外などに持ち出して使用しているとき。
それを知らずに、自分の授業の直前に見当たらず、探し回った経験はありませんか? あるいは、自分が持ち出したことを他の人に知らせていなかったため、迷惑をかけてしまうことが起こるかも知れません。
そんなときのために、理科準備室にホワイトボードを準備し、「どんな実験器具を」「いくつ」借りているか、先生方に書いてもらうようにしましょう。よく見える理科準備室の入口に掲示しておくと、必ずどの先生方も見てくれるので、実験器具を探す手間が省けますし、慌てることもなくなると思います。
また、いずれにせよ実験器具を持ち出したときは、使用後すぐに元の場所に返却することを心がけたいですね。
持ち出し記録ボード
④ 薬品や試薬は使ったら、買い足して単元を終える
単元に入る直前に、「どんな観察・実験をするのか」「何が必要なのか」を教科書で確認されていることと思います。ただ、忙しくてなかなか確認ができず、「明日実験をしたいのに薬品がない」という経験を、一度や二度はされたことがあるのではないかと思います。
そこで、薬品などの消耗品は、いつも余裕をもって補充しておくようにしましょう。単元前にチェックするよりも、単元が終わったときに、使用した先生に買っていただくようにすると、次に使う先生が慌てることがありません。先生方の個別対応が難しいときは、理科専科の先生など、リーダーが管理するようなルール作りをしましょう。
また、薬品庫の中も、学年毎に薬品を置く場所を決めると、一目でどの薬品が足りないか確認がしやすくなります。
薬品庫の置き方
⑤ 実験器具を捨てる方法を掲示する
ビーカーや試験管などのガラス器具は、いつか必ず壊れます。ひび割れたままの器具を使うと、大きな事故につながる可能性が高いです。ひび割れに気付いたらすぐに廃棄しましょう。
ただ、実験室の器具は多くの人が使うため、うっかり見逃してしまうこともあります。
また子どもたちは、どうしたらいいのか分からず放置したり、気にせずにそのまま使用したりするかもしれません。
そこで、ゴミ箱の近くに、廃棄の条件や方法を分かりやすく掲示しておきましょう。
「実験器具がどのような状態になれば捨ててほしい」とか、「分別の方法」を明記しておくといいです。
また、割れたガラス器具は危険なので、ゴミ箱のすぐ近くに包んで捨てる用の新聞紙と、赤い油性ペン(ガラス注意などと書くため)があると、安全で確実です。
新聞紙の代わりに、使用済みの封筒(お手紙や教材注文の封筒など)を使ってもいいと思います。
実験器具を廃棄したときは、新しい実験器具の補充も必要になります。
そこで、廃棄したものを書くための連絡ボードを準備しておくといいです。
必要なものはすぐに準備すべきですが、実験器具は高額なものも多いので、ある程度予算を計上しておくなど、計画的に購入できるようにしておくといいです。
◇
安全で、使いやすい実験室があってこそ、楽しい理科の学習ができます。先生方のちょっとした意識づくりと配慮で、子どもたちの「実験っておもしろい」「上手に実験できた」という自信につながります。先生方もさまざまなアイデアを駆使して、実験室を整えてみてください。
イラスト/難波孝
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<執筆者プロフィール>
新田望●にった・のぞみ 徳島県公立小学校教諭。子供と共に,積極的に自然の事物・現象と関わり,作り出した問いを追求する楽しさを感じながら,日々実践を行う。
<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。