金融経済教育【わかる!教育ニュース#46】
先生だったら知っておきたい、様々な教育ニュースについて解説します。連載第46回のテーマは「金融経済教育」です。
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「金融経済教育を推進する研究会」が教科の新設を要望
金融や経済の働きが暮らしとどうつながっているのかを考える、金融経済教育。一方で、最近は「投資教育」と誤解されがちなだけに、どう教えたらよいか、今も悩む人はいるかもしれません。
「学習内容の拡充を図り、金融リテラシーを向上させることは、個人と社会全体の幸福度が高い状態の実現に寄与する」。経済学や教育学の大学教員と中学高校の教員などでつくる「金融経済教育を推進する研究会」がこのほど、金融経済教育の意義をそう説き、指導の充実を文部科学省に求めました(参照データ)。
要望は主に6つ。まず、学習指導要領の改訂を見据え、投資の意義と役割などの学習の充実、家計管理や生活設計、資産形成を総合的に学ぶ教科の新設です。その他、教員の支援体制や授業時数の確保なども求めました。
ここまで要望したのはなぜでしょうか。
研究会が2022~23年に行った調査で、学校での金融経済教育は必要だと考える教員は、中学校で90.3%、高校で88.4%。理由は「自立に必要」「賢い消費者としての知識を養うため」が多く挙がりました。一方で、授業をする上でむずかしいと思うことを問うと、「教える側の専門知識が不足」が中学校で49.0%、高校は50.8%に上ります。また、授業時数が「足りない」と考える人も中学校が44.1%、高校で75.5%いました。意義は認めるけれど、課題を感じる教員が多いのです。
「『投資教育』にしてはいけない」
学習指導要領に「金融経済」の単元があるわけではありません。文科省によると、社会科や家庭科などの税金や社会保険、家計管理などの学習が該当するとしてきましたが、20~22年度に始まった現行の指導要領で拡充。特に高校の家庭科は、生活設計や家計管理に加え、民間保険や株式、債券、投資信託など金融商品の特徴も扱うことになりました。
強化した背景の一つは、22年に成人年齢が18歳に引き下げられたこと。ローンが組め、クレジットカードも作れるだけに、金融や経済の正しい知識が求められるのです。
一方で、日本人の金融リテラシーの低さが問題視されています。金融広報中央委員会の調査によると、年金の受け取り開始年齢や支給額などを知らない人は、約6割。元本保証の有無やリスクを十分理解せず、株式や外貨預金などに手を出す人も1割弱いました。
現状は、ゲームを使った投資の疑似体験や金融機関の出前授業が目立ちますが、金融経済教育に詳しい識者たちは、「『投資教育』にしてはいけない」「人生に必要な資金を算出し、お金に困らないようにするのが、本来のねらい。投資の知識を教えるのは、ライフイベントを叶えるために、貯蓄以外の手段も検討するためだ」と戒めています。 金融経済教育で得る知識は、お金絡みのトラブルを防ぐとともに人生を広げます。まずは自分らしい人生のプランを立て、実現するためにお金がどれだけ要るのかを考えさせてはどうでしょうか。
【わかる! 教育ニュース】次回は、5月15日公開予定です。
執筆/東京新聞記者・中澤佳子