準備運動の在り方を変えて体育授業力アップ!【小学校体育指導アイデア】

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体育の授業では、一見地味に思える準備運動。しかし、授業の開始に行う、この準備運動を充実させることで、1時間の授業をスムーズに展開させていくことができるようになります。橋爪祐也先生は、この準備運動を子供たちが主体的に取り組めるよう、また、基礎体力の向上に高い効果が得られるように、特別な準備運動を考案しました。準備運動の見方が変わる、橋爪先生オリジナル“パワーストレッチ”を紹介します。

執筆/神奈川県公立小学校総括教諭・橋爪祐也

準備運動の在り方を変えて体育授業力アップ!

これまで見落とされていた「準備運動」を変える

体育の授業で、読者の先生は準備運動にどのくらいの時間を充てていますか?

多くの場合、先生方が準備運動に充てる時間は、平均して5分前後ではないでしょうか。その時間×年間授業時数として計算すると、1年生は5×102で510分、2年生から4年生は5×105で525分、5・6年生は5×90で450分に達します。

年間を通してこれだけの時間数が準備運動に充てられているのですから、毎回しっかりと効果を上げることができれば、その積み重ねは、子どもたちの体力向上の観点から、1年後にはとても大きなものとなります。

そこで、今回は、子供たちが楽しみながら、基礎運動能力を伸ばすことのできる準備運動を7つ紹介します。

準備運動のねらいを明確にして取り組もう

「準備運動の役割とは?」ーーそう問われると、「怪我を予防するため、柔軟性を高めるために行う」と答える方が多いかもしれません。これはストレッチ的な運動効果によるものに当たります。

それと同時に、「子どもたちがより良いパフォーマンスを発揮しながら、1時間を過ごせるための素地作りを行う観点をプラスする」というのはどうでしょうか?


ひと口に運動と言っても種類があります。
一に、「立つ」「歩く」「走る」「乗る」「登る」「転がる」などの、発達とともに自然に身に付けられる運動能力。
二に、「投げる」「捕る」「蹴る」などの、練習により身に付け、上達させる運動能力。
三に、知識や作戦、技巧が必要となる運動能力です。


体育の授業では主に(二)(三)の運動能力の向上に焦点が当てられやすいですが、(一)の運動能力、すなわち「基盤となる体の動きを高めることで、体育授業における子どもの運動能力をトータルに育てる」ことも必要だと思います。

私は準備運動(以後、パワーストレッチと呼びます)について、目新しさや難易度にこだわるのではなく、何に効果があるのかを大事にしています。それは教育活動にはねらいがあり、意図があるためです。

そこで、本稿で紹介するパワーストレッチを授業のメニューとして取り入れる際「何をねらいとして指導するのか?」。その目的が明確になるように、各パワーストレッチの説明に補足事項を付け加えて解説していきます。

さあ始めよう! パワーストレッチ

まずパワーストレッチを始める前に、子供たちに伝えてほしいことが3つあります。

呼吸を丁寧に行う
大声を出してのカウントはいりません。聞こえるのは自分の呼吸音です。どのパワーストレッチも4秒で吸って、6秒で吐ききることをイメージしてみてください。それを2~3セット程度繰り返します。
体の変化に意識を向ける
伸びているのか? 突っ張っているのか? 分かる範囲で具体的に効果を伝えると、より体の変化を意識しやすくなります。
人と比べず、自分に無理のない範囲で楽しむ
普段、自分の呼吸を意識することはあるでしょうか? 何も考えずに自分の体と心に目を向ける時間は、普段の学校生活ではなかなかつくれません。呼吸は感情のコントロールにも大きく関わってきます。パワーストレッチに落ち着いて取り組むことを伝えることで、段々と集中力も付いていきます。


では、いよいよパワーストレッチの具体的な説明に入っていきます。ここからは実際に私自身が見本をお見せしながら、写真で紹介していきます。

<各パワーストレッチ解説の見方>
名称…「何が始まるのだろう?」子どもの興味を惹きつけるとともに、できるだけ分かりやすく、イメージしやすいネーミングを意識しています。目の前の子供の発達段階や実態に合わせて、もっとイメージしやすく、興味を引きやすいネーミングを先生ご自身で発明してみてください。
Ⅰ 効果…ストレッチなのか? 体幹を高めるのか? 筋力を高めるのか? 一口に準備運動と言っても効果は様々です。まず指導者がこのことを理解したうえで、子どもたちをより効果的なエクササイズに導いていくことが大事です。授業開始の準備運動はパッと行われがちになりますが、何となく漠然とやるのではなく、先生も子供も、ねらいと効かせる体の部位をしっかり意識して行うことで、効果も抜群に変化します。
Ⅱ 解説と指導のコツ…「正しいフォームで安全に、気持ちよく!」をモットーに子供たちが運動できるための要点です。☆は発展系です。難度が上がりますが、楽しさもアップします。子供たちの実態に合わせて調整してください。
Ⅲ 運動の場…体育授業の場は運動場、体育館(多目的室等も含む)など、天候や種目により一定ではありません。どの場面なら取り入れられるのか? 屋外・屋内、あるいは両方可能と、エクササイズを安全に行うためにそれぞれ適した場を紹介します。
Ⅳ 種目…基本的に体育授業のどの種目を扱う前に行っても大丈夫です。器械系・陸上系・水泳系・ボール系・表現系それぞれの運動に関連する動きや効果になる場合は、特にウォーミングアップに最適です。なお、他の領域に体つくり系がありますが、すべてのパワーストレッチに関連するため省略しています。ペアやグループを作り、お互いフォローし合いながら行うこともできますので、実態に合わせて複数名での活動も取り入れてみてください。

ペガサス(天馬)

①②
ペガサス写真1

③④⑤
ペガサス写真2

Ⅰ…下半身筋肉強化・体幹バランスアップ
①両足を郵便ポストのようにまっすぐ伸ばして、地面を力強く踏む。
 ②安定したら、体をおじぎするように地面と並行に倒し、両手を天馬の翼に見立ててまっすぐに伸ばす。あごを引き、目線は地面に。
 ③片足でしっかりと立ち、もう一方の足を伸ばす。
 ④並行に倒した体は、つむじから上げている足のかかとまで、一直線になることを意識する。
 ⑤軸として地面に着いている足は、足裏全体で力強く押す。
★目をつぶってチャレンジ! バランス感覚がアップします。
運動場・体育館
器械・陸上・表現系運動の前に

シシ


シシ写真1


シシ写真2


シシ写真3

Ⅰ…上腕・背筋・下半身強化
①四つんばいになり、肩の下に手首、腰の下に膝が来るようにする。
 ②左足を上げながら左膝を後ろに伸ばし、足のつま先を腰の高さまで上げる。
 ③右手を上げて右手指先、右肩を床に並行になるように上げる。目線は床に。
 ④伸ばしている手と腕、そして足が互いに前と後ろで引っ張り合うイメージで伸ばす。
 ⑤地面に着いている手と脚を力強く押す。
★バランスが安定しない場合は、3人組を作り、補助の2人が前と後ろの指を支えながら優しく引っ張ってあげるのもおすすめです。
体育館
全領域。指先からかかとまでが一直線になって地面と並行になる姿勢は、水泳の伏し浮き・クロールのフォームの感覚をつかむのにもおすすめです。

ウルフ


ウルフ写真

Ⅰ…上肢・腹筋強化・体幹バランスアップ
①横向になり、両足を伸ばして重ねる。肘は曲げて床につく。
 ②前腕(肘から手首)と両足で体を支えながら、腰→膝と下半身を浮かせる。そのまま、両足を伸ばして下半身を支える。
 ③地面に着いていない方の腕は、肘を張り腰に当てる。余裕があれば天井に向けて肘、手を伸ばす。目線は伸ばしている手の方へ向ける。胸を張り、落ち着いて堂々とポーズを決める。
体育館
全領域

ドルフィン


ドルフィン写真1


ドルフィン写真2

Ⅰ…背筋・下肢・腹筋強化
①仰向けで両足、両手をそろえて寝る。目線は天井へ。
 ②上半身を起こし、手を後ろに着いて支える。手の指先は足先の方へ向ける。
 ③肘を伸ばして上半身を持ち上げる。その時に手のひらで地面を強く押す。大海原からジャンプするイメージで。あごを引き、頭の先からかかとまで一直線になることがポイント。
体育館
全領域

ドラゴン

①②
ドラゴン写真1


ドラゴン写真2

Ⅰ…背筋・三角筋強化・背中のストレッチ
①うつぶせになり、すね、足の甲と指をまっすぐに伸ばしながら、地面にぴったり着ける。もも、足先ともにくっつける。
 ②脇を閉め、手は指をそろえ胸の横に置き、地面に着ける。
 ③息を吐きながら手のひらで床を押し、胸を持ち上げる。肘を伸ばし、あごを軽くひき、肩甲骨を寄せる。その時に肩が上がりやすいため、下げる。無理に背中を反らそうとすると腰に負担がかかるため、背中より体の前側に意識を向ける。
体育館
器械系・水泳系・ボール系・表現系の前に。ストレッチの効果もあるので、運動後の整理体操として行うこともおすすめです。

キリン


キリン写真1


キリン写真2


キリン写真3

Ⅰ…肩・背筋の強化・体幹バランスアップ・背中と股間節ストレッチ
①両足をそろえて立つ。左足を曲げ、左手で足の甲をつかむ。足の甲をつかむ時は内側(右足側)から手を入れる。
 ②上半身を前の方にゆっくりと倒す。
 ③右手を肩の高さに上げ、体の前へ伸ばす。
 ④右足の裏で地面を強く踏み、左足の甲を後ろへ押しながら伸ばすイメージで。次に反対の足でも行う。コツは、背筋を軸に左足、右手でお互い力の具合を同じくらいにして引っ張り合うと、バランスが安定する。
★目をつぶってチャレンジ! バランス感覚がアップします。
運動場・体育館
全領域

フェニックス


フェニックス写真1


フェニックス写真3

Ⅰ…下半身強化
①両手をそろえてまっすぐ立つ。その時に両手は横に沿わせる。
 ②「前にならえ」のポーズで両肘を伸ばし、顔に沿って肘が耳横に来るように。
 ③息を吐きながら膝を曲げ、遠くの椅子に腰掛けるように腰を落とす。この時に腰を落としすぎると効きにくくなるため、膝裏を曲げた角度が90度くらいになる位置でストップし、呼吸を繰り返す。フェニックスが羽ばたき、天に向かうイメージで腕を力強く斜め上に伸ばす。
★かかとを上げて、つま先で立つと、強度がアップします。
運動場・体育館
器械系・陸上系・ボール系

これらのパワーストレッチは、私が実践している中のほんの一部です。全部を通してやることもできますが、先生方の普段の授業で行っている準備運動に1つ2つプラスする感覚で、気楽に取り組んでみてください。

より効果のある体育授業をめざして

体育の授業では、単元ごとに行われる各種目にスポットが当てられがちですが(「球技」「水泳」など)、一見地味に思えるこの準備運動も、その名の通り立派な “運動” に他なりません。しかし実際は、どんな効果があり、なぜこれを行うのか?……尋ねられてもよく分からないまま、漠然と行われていることもあるかもしれません。それに、メニューをどう組み立てていけばよいのか…という不安もあるでしょう。

安心してください! 一緒に考えていきましょう。

橋爪祐也先生

橋爪祐也
神奈川県横浜市公立小学校教諭として採用後、神奈川県内公立小学校を歴任。現在、総括教諭として勤務。近年は実技教科(スポーツ・芸術)を通した情操教育を専門に研究している。

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