「なぜ?」ではなく、「何が?」と問うことによって見えないものが見えてくる理科授業! 【理科の壺】

連載
理科の壺/進め!理科道~理科エキスパートが教える、小学校理科の指導法とヒント~

國學院大學人間開発学部教授

寺本貴啓

理科の授業において、先生が意図している発言が子どもから出てこないとき、先生の手助けが必要な場合があります。しかし、先生がどこまで発言したらいいのか悩みませんか? 先生が言いすぎるというのも、子どもの考える機会をなくしてしまいます。子どもたちの様子を見て、どこまで言えばいいかを考え続けたいものです。今回は、子どもへの問い方について、「なぜ?」と「何が?」はどのように違うのかについてです。
優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような“ツボ”が見られるでしょうか?

執筆/大阪府公立小学校教諭・真田順平
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓

予想・実験・考察など様々な場面で、先生が問いかけて子どもの思考を深めようとすることがありますよね。
子どもたちは自分なりの言葉で表現したり、意見を言い合ったりして、考えを深められることもあります。しかし、思考が止まって沈黙の状態になってしまうことも、結構あったりします。
「先生としてどんなことを言えばいいのだろう?」という悩みは尽きないと思います。そこで、そんな悩みを解決できる問い方のコツについて、1つご紹介します。

大事なのは「心に響く」こと

小学生のときに受けた理科の授業で、記憶に残っている授業ってどんなものがありますか?
ホウセンカやヒマワリの観察?メダカの飼育?大地のつくり?
いえ、きっと、こうしたものではなく、電気や磁石の実験や空気鉄砲を使った実験、水溶液を蒸発させる実験などの「実験」ではないでしょうか。
理科という教科の特徴が「理科=実験」だけになってしまうのは困りますが、「理科=好き」につなげるためにも、子どもたちの心に響く実験や内容を選んで一緒に考えたいものです。

「なぜ?」と問うてみるのは…

では、ここでは第4学年「とじこめられた空気と水」の第1時で空気鉄砲を使って玉を飛ばす活動をした後の場面で考えてみましょう。

空気でっぽうで弾を飛ばすこども

空気鉄砲で玉が飛んだよ!

「なぜ」玉が飛んだの?

なぜと言われると難しいな…。まだ説明できないな。

先生が子どもに「なぜ?」と問うことで、子どもは空気鉄砲が玉を飛ばす因果関係を答えなくてはいけないことになり、子どもの思考が止まってしまいました。もちろん因果関係を説明できるようになることは必要です。しかし、まだ子どもの中では説明できるための自分の考えの材料を持っておらず、説明できなくなりクラス全体が沈黙になることがあります。

「何が?」と問うことの良さ

では、以下のような問い方ではどうでしょうか。

空気鉄砲で玉が飛んだよ!

「何が」玉を飛ばしたの?

中にある空気が飛ばしたんじゃないかな?

手が飛ばしたのでは?

今回先生は、「何が?」と問いました。「なぜ?」と問う時との違いが見えましたか?
今回の空気鉄砲の活動では、手で力を加える(空気鉄砲を圧す)ことで、空気鉄砲の中の空気の体積が小さくなり、前の玉を空気が飛ばしました。

「何が玉を飛ばしたの?」と問うことで、子どもは「玉を飛ばしたものが何かいる」と考え始めます。先生が「何が?」と問うことで、初めて子どもは玉を飛ばす「もの」が何か、その存在を意識して見ようとするのです。「変化しているもの(ここでは空気)」や「変化させる力(ここでは手の力)」等を知ることで、「手の力を加えたから、空気鉄砲の中の空気さんが圧されて小さくなってものを飛ばした!」というように因果関係を説明することができるようになります。「何が?」が抜けてしまい、授業が進んでいくと、「もの」の存在を意識しない現象だけの理解で終わり、因果関係を説明する材料を持たず、説明できない子どもがいてしまうことになってしまいます。

この問い方は他にもいろんなところで使うことができます。いくつか例を紹介します。

第3学年「電気の通り道」
「なぜ豆電球の明かりがついたの?」ではなく、「何が豆電球の明かりをつけたの?」と問うことで、目に見えない「電気(電流)」を見ようとする。

第5学年「流れる水の働きと土地の変化」
「なぜ土は流れたの?」ではなく、「何が土を流していったの?」と問うことで、水によって土が侵食されたこと、水と土の関係を見ようとする。

第6学年「植物の養分と水の通り道」
「なぜ1日目と2日目では蒸散の量が違うの?」ではなく、「1日目と2日目では何が違うから蒸散の量が違うの?」と問うことで、太陽による日射量を見ようとする。

「何が?」と問い、子どもに「もの(事象)」の存在を意識させ、たくさん経験をした後に「なぜ?」と因果関係の説明を促してみると子どもの考えは深まるかもしれませんね。

イラスト/難波孝

「このようなテーマで書いてほしい!」「こんなことに困っている。どうしたらいいの?」といった皆さんが書いてほしいテーマやお悩みを大募集。先生が楽しめる理科授業を一緒に作っていきましょう!!
※採用された方には、薄謝を進呈いたします。

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<執筆者プロフィール>
真田順平●さなだ・じゅんぺい 大阪府公立小学校教諭。大阪市小学校教育研究会理科部員。拡張的学習における可視化を中心に日々実践研究を行う。令和6年9月号「理科の教育」


寺本貴啓教授

<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。


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