イデオロギーを超えて、「子供第一」で教育を考える ~教育リーダー対談⑥阿部雅彦 【菊池省三流「コミュニケーション科」の授業 #33】

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菊池省三流 コミュニケーション科の授業
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教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三
菊池省三流「コミュニケーション科」の授業

教師と子供、子供同士のコミュニケーション不足こそ今の学校の大問題! 菊池省三先生が、1年間の見通しを持って個の確立した集団、考え続ける人間を育てる「コミュニケーション科」の授業の具体案と学校管理職の役割を提示します。
第33回「コミュニケーション科」の授業は、<イデオロギーを超えて、「子供第一」で教育を考える ~教育リーダー対談⑥阿部雅彦>です。

菊池省三先生と阿部雅彦先生
左)菊池省三先生 右)阿部雅彦先生

あべ・まさひこ。千葉県柏市の小学校教員、小学校校長を経て、一般財団法人東葛教育会館理事。1960年東京都府中市生まれ。

教育会館の事務局として、菊池プロジェクトにかかわる

阿部 4年前、当時小学校の校長だった私は、東葛教育会館の理事長も務めていました。東葛教育会館が主宰する夏の研修会について現場の先生に相談をしたら、「若手教師から『菊池先生を呼んでほしい』という声が上がっている」と聞きました。テレビ放映されたり大学の講義で取り上げられたり、菊池先生の著作を知って「本人の話を直接聞きたい」というのです。 『プロフェッショナル 仕事の流儀』(2012年NHK)の放映時、小学校の教頭だった私は番組を見ながら「すごい先生がいるなあ」と感動したことを思い出し、「じゃあぜひお願いしよう」と依頼したのが、菊池先生との出会いです。

菊池省三先生
いろいろな立場で子供たちを見ていくことで、風通しのいい関係性ができあがっていくのです。

菊池 まだコロナ禍の真っ最中で、会場とオンラインでの講演でしたね。

阿部 緊急事態宣言が出たり、解除されたり、なかなか予測できない時期でしたが、大勢の先生方が参加されました。
菊池先生にお会いして、しっかりとした実践と、その実践に裏付けされた理論が、2本柱としてどっしりあることに感動しました。特に心に残ったのが、「ほめ言葉のシャワー」です。「ほめることは大事」と言いながらもできない教師が多いですから。

菊池 先生方に、「ほめることは大事だと思うか?」と尋ねると、全員が「大事だ」と答えます。「じゃあ、子供たちをほめているか?」と聞くと、全員うなずきます。でも、さらに数を聞くと、「1年に数回だ」と。これで「ほめている」「ほめることが大事」と言えるのか。ほめることがもっと日常的に行き渡るように変えていきたいと思っています。

阿部 そういう話を偉ぶることなく、かみ砕いてユーモアたっぷりに話してくれるので、聞いていた先生方も素直に受け止められたようです。
話を聞きながら「この人しかいない!」と思い、その日の打ち上げで「今後も来ていただきたい」とお願いしたんです。

菊池 そのとき初めて行った店も、今ではすっかりなじみになりましたね(笑)。

阿部 はい、定番です(笑)。
あのときは、私がちょうど退職を迎える年度だったんです。「それなら、退職記念に阿部先生の学校に行きましょう」と言われ、2月、菊池先生に3年生に授業をしてもらいました。
子供の詩を題材にした授業を見て、「たった1時間で子供がこんなに変わるんだ」と衝撃を受けました。著作や講演で得た知識が、実感として入ってきました。

菊池 学校訪問の2か月後、翌年度の4月から、東葛教育会館の専任になられたんですね。

阿部 「菊池先生のプロジェクトにかかわりたい!」と、翌年度から事務局として取り組むことに決めたんです(笑)。
これまで、東葛教育会館は東葛地域の児童・生徒の作文集である文集「かつしか」の発行が中心でしたが、もっと幅広く活動したいと、ずっと考えてきました。
菊池先生の講演が好評だったことから、理事会で了承を得て、翌年度から準備を進め、22年度から本格的に動き出したのです。

組合分裂の中で、教育会館の意義をあらためて考え直す

菊池 東葛教育会館はどのように運営されているのですか?

阿部雅彦先生
「子供第一である」という会館設立の原点を見失わないようにしました。

阿部 東葛地域は、千葉県の北西部に位置する松戸市、柏市、野田市、流山市、我孫子市、鎌ヶ谷市の6市から成ります。ここの教職員組合が母体となり、教育研究会や講演会等の研修会場として、1950年に設置されたのが東葛教育会館です。
設立当時は、大部分の教職員が組合に加入し、積極的に事業を行っていたと聞いています。
しかし、89年に教職員組合が日教組と全教に分裂した影響が、この東葛支部にも及んで、教育会館の運営も今までのようにはいかなくなったようです。

菊池 北九州市も同じでしたね。日教組と全教の教員同士の罵り合いが激しかった。新採2年目の職員会議は、毎回怒鳴り合い。その様子に辟易し、私は組合に加入しませんでした(笑)。

阿部 その後、教育会館は何とか文集「かつしか」の発行は続けていました。
しかし、東葛地域の教職員がもっと興味・関心を持てる会館の運営を目指し、2008年、教育会館の一般財団法人化を機に運営組織を再編しました。現役校長を理事長と副理事長にし、現役教頭、退職校長、退職した女性教職員、組合の代表各1人、合計7人が理事として、運営に携わっています。行政も協力してくれています。

菊池 北九州市での経験からすれば、全員を受け入れてつながる姿勢に驚かされます。

阿部 組合分裂の中で、教育会館の意義とは何かをあらためて考え直しました。教育会館の最重要目標は、「子供第一」であること。会館設立の原点を見失わないようにしたことが大きかったと思います。
組合加入の有無は別にして、会館としては、いい教育を先生や子供たちに還元したいと考えていました。
そんな中で、私が理事長をしていた4年ほど前、組合からも「組合と会館がもっと協力すれば、質の高い研修もできるし、その結果、組合の加入率も上がるのではないか」という声が挙がり、お互いが連携しながら協力するようになっていきました。

菊池 当時の組合員が管理職になり、教育会館の運営にかかわる。教員だけでなく、いろいろな立場で子供たちを見ていく方がいい教育ができる。その結果、風通しのいい関係性ができあがっていったんですね。

来年度からはモデル校を中心に進めていく

阿部 先生方にいい授業をしてもらいたい。そのためには講演だけでなく、直に授業を見る機会があった方がいい。そんな気持ちから、「菊池プロジェクト」が生まれたのです。

菊池 22年度は10回、23年度は週単位でうかがうことが増え、20日を超えました。特に、今年の1~2月は、北九州より千葉にいる方が多かったです(笑)。

阿部 そうでしたか(笑)。

菊池 ひたすら、学校と教育会館、ホテル、常連の店のルーティンでしたが(笑)。

阿部 すみません(笑)。
これだけの回数をお呼びするために、費用の捻出もいろいろと工夫しました。
会館の予算はもちろん、学校の予算、行政や民間企業の様々な補助金を活用し、持続できるシステムを作ってきました。
菊池道場の千葉支部の先生方の協力も大きいですね。

菊池 道場のメンバーも、組合に加入する人が増えました。教育会館と菊池道場もお互いWin-Winの関係が築けていると思っています。

阿部 昨年度は、教育会館の目的を理解してくれる管理職の勤務校を中心に、菊池先生に学校訪問してもらいました。いろいろな学校に行き、菊池実践を知ってもらうという第1段階は、ある程度達成したので、来年度からは、市ごとにモデル校を置きたいと考えています。
モデル校を核として集中的に進めることで、その学校の先生、子供を変えたい。そして、その学校が中心となって、近隣の学校に広めていけば、面として広がっていくのではないかと期待しています。

菊池 8月には、菊池道場の全国大会が柏市で開催されるので、より協力し合っていきたいですね。

一般財団法人東葛教育会館

構成/関原美和子


菊池省三(きくち・しょうぞう)
教育実践研究家。
1959年、愛媛県生まれ。山口大学卒業後、北九州市の小学校教諭として崩壊した学級をこの20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『菊池省三流奇跡の学級づくり』(小学館)他著書多数。


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