ウェルビーイングを学校でつくる! ~SDGsの授業プラン #12 「Goal 6 安全な水とトイレを世界中に」|清水智久 先生

連載
ウェルビーイングを学校でつくる! ~カリキュラム・マネジメントで進めるSDGsの授業プラン~

北海道公立小学校教諭

藤原友和

全国各地の気鋭の実践者たちが、SDGsの目標に沿った授業実践例を公開し、子どもたちの未来のウェルビーイングをつくるための提案を行うリレー連載。今回は「安全な水とトイレを世界中に」を学ぶ授業を提案します。提案者は、神奈川県の清水智久先生です。

執筆/神奈川県公立小学校教諭・清水智久
編集委員/北海道公立小学校教諭・藤原友和

1 はじめに

はじめまして。神奈川県横浜市で小学校の教員をしています、清水智久(しみず・ともひさ)と申します。
教職13年目、現在は5年生担任と、研究主任をさせていただいております。
私の前任校、そして現在の勤務校が、3年前まで横浜市のESD(連載第1回参照)推進校としてESDの視点を取り入れたカリキュラムデザインを通し、ESDの浸透と実践の充実に取り組んでいました。
現在は横浜市の学校安全教育推進校となり、生活科・総合的な学習の時間を中心に、地域と連携した単元開発や授業改善を研究しています。ESDと研究の中で出会った「Think Globally、Act Locally」という言葉は私の教育観を大きく変えました。
今回は、SDGsのGoal 6「安全な水とトイレを世界中に」に関連した授業を紹介させていただきます。

2 SDGsのGoal 6についての解説

日本ユニセフ協会「持続可能な世界への第一歩 SDGs CLUB」によれば、水道の設備がない暮らしをしている人は22億人以上、トイレがなく、道ばたや草むらなど屋外で用を足す人は4億1,900万人、世界の4人に1人がきれいな水を使えないとされています。
日本のように豊富な水資源があり、上下水道の設備が整っている環境が「当たり前」である私たちからすると、このGoal 6は遠い国の話であり、どこか他人事になってしまうように感じてしまいます。

しかし、「ターゲット3」の「2030年までに、汚染を減らす、ゴミが捨てられないようにする、有害な化学物質が流れ込むことを最低限にする、処理しないまま流す排水を半分に減らす、世界中で水の安全な再利用を大きく増やすなどの取り組みによって、水質を改善する」、「ターゲット6」の「2020年までに、山や森林、湿地、川、地下水を含んでいる地層、湖などの水に関わる生態系を守り、回復させる」については、私たちの生活と大きく離れたものではないように思います。

「当たり前」を捉え直し、様々な事実や想いをつなげ、自分自身に矢印を向けて考え続けること。様々な矛盾や葛藤、迷いを抱えて揺れ続けること。それでも、自分の足元から行動していくことが、SDGsの授業プランにおいて重要だと私は考えています。

3 SDGsのGoal 6を扱った授業の実際

●対象学年 5年

教科及び領域 総合的な学習の時間

ねらい 様々な立場の人々とその暮らしを支援する仕組みや人々の思いや願い(探求課題)

授業展開
~本授業に至るまでのプロセス~
今年度の総合的な学習の時間のテーマが、「安全安心満足な地域をつくる」となり、そのための調査として地域の方々へのインタビュー等を進める中、山梨県西湖への宿泊体験学習が近づいてきました。
昨年度、総合的な学習の時間で非常食や非常水について学習を積み重ねた経験のある子どもたちです。今回の体験学習で実際に非常食や非常水を持っていき、その実感が今年度の総合的な学習の時間のテーマにつながると子どもたちは考えました。
その学習の振り返りで、「道志村や西湖にはたくさんのキレイな水があった。もしかしたら非常水を持っていく必要はなかったのかもしれない」という意見がありました。学びの視点を広げるよい機会になるかもしれないと考え、この意見から授業を実践しようと考えました。

①「道志村や西湖にはたくさんのキレイな水があった。もしかしたら非常水を持っていく必要はなかったのかもしれない。」という振り返りがありました。この意見についてどう思いますか?

確かにきれいな水がたくさんあった。
水道が止まる可能性があるから、持っていったほうがいい。
ろ過する機能がついたペットボトルみたいなものがあるから、それを持っていくといい。
非常水の重さが気になった。現地に水があるなら必要最少限のほうがいいと思った。
現地に水はたくさんあったが、自然の水で、飲むための水ではないのではないか。

私を含め、「非常水は必要であり、持っていくことが当たり前」という考えからスタートしていました。その中でこのような「当たり前を疑う」意見について冒頭で問いかけることにより、SDGs授業に必要な「揺れ」をつくることができると考えました。

②みんなが話している「水」は、安全な水」ですか?

持っていった非常水は安全だと思う。
泊まった場所で、「水道から出る水は飲むことができます」と書いてあったから安全。
「富士山の天然水」というぐらいだからきっと安全だと思う。
自然の中にある水は雑菌などがあって安全とは言えない。
4年生の時に横浜市の水源の一つに道志川があると習った。今回見た道志川の水は確かにきれいだった。
自然のままだったら確かに安全ではないかもしれないけど、だんだんと安全になる。
日本の水は外国に比べて安全で、どこでも飲むことができると聞いたことがある。

ここでは「自分たちが飲むことができる・できない」という視点での話合いになっています。
今回の体験学習では、道志村で林業体験を行いました。そのスタッフの方から聞いた話を私はすることにしました。

③ところで、道志村で林業体験をする時にヤマビルの対策をしましたよね。スタッフの方から聞いた話ですが、最近ヤマビルの被害が増えているようです。なぜだと思いますか?

ヤマビルが増えているから。
地球温暖化の影響。
動物が増えているから、ヤマビルも増えた。
動物はむしろ減っているから、ヤマビルも減っているはず。
動物が減ったから、エサを求めて住むところが変わった。
ヤマビルが生息しているところは変わらず、人間が山に入るようになった。

林業体験をする際に、ハッカ油のスプレーを足に吹きかけたことを思い出しながら、子どもたちに意見をだしてもらいました。林業体験中、私がヤマビルによって出血したこともあり、印象的だったようです(笑)。

スギが植えられた森林の写真

④スタッフの方は、「整備できない森林が増え、シカが山から人間の住む地域の近くまで下りてくるようになった。その時にヤマビルも山から一緒に下りてくるようになった」と話していました。この話を聞いて、どう思いますか?

人間が原因でヤマビルが下りてきている。
ヤマビルも被害者なのではないか。
整備できない森林が増えていることは社会で学習した。それとヤマビルが関係しているとは思わなかった。
シカの暮らしはどうなっているのだろう。
とにかくヤマビルが気になって、林業体験がドキドキだったことを思い出した。
林業の仕事をしている方々も、ドキドキしているのではないか。

自分たち人間の暮らしだけについての視点から、だんだんと生物の生態系、森林に関係した仕事をする方々の視点を想像する子どもたちが出てきました。
先述したように、今年度の学級の総合的な学習の時間のテーマが、「安全安心満足な地域をつくる」です。安全は設備などの目に見えるもの、安心は心などの目に見えないもの、というようにそれまで子どもたちと考えてきました。
②で安全について話し合ったので、次は安心について話し合うことを考えました。

⑤私たちの水源にもなっている道志川では今、このようなことが起きています。それが全てではないけれど、今までの話を考えたときに、「安心な水」を私たちは飲んでいると言えるのかな。

4年の時に学習したけど、水源を守る仕事をしている方々がいるから、安心だと思う。
浄水場もあって、きれいで安全な水は飲めていると思う。
浄水場の水もたくさん検査をしていることを知っているから、安心している。
今は安心だけど、これからがどうなるかが分からなくなった。
クマやサルが人間の住んでいるところによく出るようになったというニュースを聞いたから、シカもそうなのかもしれない。動物の暮らす場所が変わることがちょっと不安。
人間も動物も飲むことはできるから安全ではあると思うけど、動物にとっては安心とは言えないのかも。
水源を守る仕事をしている人はヤマビルが出るから安心ではないのではないか。
整備できない森林が増えていくことで、水に影響はないかが心配。

このような意見が出ました。当たり前の安全や安心を、今までとは違った視点で捉え直すことが、少しですが出来たように感じました。私は個々でさらに考えを深めてほしいと思い、子どもたちにこの時間で考えたことをノートに書かせました。以下、その作文からの抜粋を紹介します。

安全だけど、安全じゃない、安心だけど安心ではないと思いました。人間のことだけを考えたら安心なのかな。でも安心じゃない人もいる気がします。
水についてここまで考えたことがなかった。特に動物にとって水が安全かどうかは考えたことがなかった。
人間の暮らしのために、動物が犠牲になっていることが心配です。動物が犠牲になっても、人間の暮らしがよくなったとは言えないと思う。
安全はわかりやすいけど、安心が分かりにくいと思った。安全じゃないと安心できない。でも安全でも安心じゃない時があると思う。

授業序盤における「水」の見方が、変わってきたように感じます。自分以外の視点、人間以外の視点を考えることができるようになった子どもも出てきました。
反対に、「自分は水を飲むことができるから安全である。」や「自分や日本は安全な水が飲むことができるからよかった。」という振り返りもありました。それも一つの捉え直しかもしれません。しかしもう一歩、思考を深めるアプローチが必要だったと考えています。

●評価について
身の回りには様々な立場の人々が生活していること。様々な人々の生活を支える仕組みが地域にはあり、それを支える人がいること。(知識・技能)
様々な人の立場になって考え、よりよい社会の実現のために、自分に何ができるか考え、実行したり発信したりする。(思考・判断・表現)
様々な人の考え方や生き方にふれ、共感したり違いを感じたりしながら、自分の見方や考え方、生き方をよりよいものに高めようとする。

清らかな水が流れる渓流の写真。

4 授業の成果と課題、他教科・他領域とのつながり

【成果】

自分たちの経験からアプローチしたため、子どもたち一人一人のもっているコンテンツに大きな差がなく、授業参加へのハードルを低くすることができた。
安全かどうかという○×を自己決定する活動により、自分の立場を明確にすることができた。
安全だと考える子どもが多数いる中、④⑤の発問により、考えを揺さぶることができた。
安全→安心という捉え直しにより、様々な視点から考えようとすることができた。

【課題】

考えを揺さぶったため、思考が追いつかない状態で自分の考えを振り返る活動に入る子どもがいた。そのため、考え続けずに結論を出すというメッセージになってしまった。
スタッフの方のお話のみの紹介となった。私自身がこの事実に対して、多様な視点から考えたり、情報を集めたりすることができていないため、思考を促すアプローチができなかった。「揺れ」を目的にしてしまい、「揺れ」た後の思考を促す部分までたどり着けなかった。

【他教科・他領域とのつながり】

今回の内容は、4年生・5年生の社会科での学習経験をもとにしています。今回の学習で考えたことを国語科の説明文や、提案文を書く活動にもつなげていくことができると思います。

私個人の考えですが、SDGsについて知るより、今、していることがどうSDGsにつながっているかと考えると、様々な教育活動がまた違った価値を帯びていくのではないかと思います。
これからも、「SDGsを知っている!」では終わらず、一人一人の行動変容に少しでもつながるような授業プランを考えていきたいと思います。

【参考文献】
日本ユニセフ協会「持続可能な世界への第一歩 SDGs CLUB」
横浜市教育委員会 「ESD推進のための教職員研修資料 見直す つなげる 変わる 地域で、世界へ」2017年
横浜市教育委員会「2019年度横浜市ESD推進コンソーシアム実践報告書」2020年
横浜市教育委員会「ESD実践事例集 未来につながる 未来につなげる」2018年

この連載は、毎週木曜日のAM6:00に公開します。どうぞお楽しみに!

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