「自分ごと」の行動が持続可能な学校と社会をつくる【連続企画 「持続可能な学校」「持続可能な教育」をどう実現するか? #07】

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「持続可能な学校」「持続可能な教育」をどう実現するか?
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持続可能な学校づくりとESDの実践に共通するのは「『自分ごと』として行動することの重要さ」だと語る、湘南学園学園長の住田昌治氏。自身の校長時代も振り返り、今の時代に求められるリーダー像についても語ってもらった。

住田昌治氏の写真

学校法人湘南学園 学園長
住田昌治

1958年京都生まれ、島根育ち。玉川大学卒業後、横浜市の小学校に7校42年勤務し、その間、副校長を3年、校長を12年勤める。2022年度より現職。副校長、校長時代にユネスコスクール、ESDに取り組み、元気な学校づくりで注目されるようになり、『カラフルな学校づくり』(学文社)出版後は、全国から講演依頼や原稿執筆依頼が相次ぎ、型破りな校長として全国を飛び回る日々を送る。著書に『「任せる」マネジメント』(学陽書房)、『若手が育つ指示ゼロ学校づくり』(明治図書出版)、『できるミドルリーダーの育て方』(学陽書房)、『校長先生、幸せですか?』(教育開発研究所)などがある。

この記事は、連続企画「「持続可能な学校」「持続可能な教育」をどう実現するか?」の7回目です。記事一覧はこちら

教員の休職者数が過去最多のデータを受けて

文部科学省の報告によると、2022年度に精神疾患により休職した教員の数は6000人超と、過去最多となりました。深刻な教員不足により、代わりの教員を採用できない状態のため、教頭や校長が授業を担うケースもあります。教育活動に支障をきたしている中で、とにかく学校経営をこなすことで精いっぱいの現場も多いでしょう。

多様性が重要視され、いろいろな価値観を尊重する世の中に進歩してきました。当然、学校でも児童生徒や保護者からの要望が多様になり、教員に求められることが非常に増えてきています。それゆえ全員が忙しく、ある先生が相談したいことがあっても自分で何とかしなければならないと思って抱え込み、結果眠れない、食べられないなど心身に影響が出てきます。今までと同じような学校のシステムや教育、授業のやり方をしている限り、状況は悪化していく一方だと考えています。

持続可能な学校をつくっていくためには、まず先生一人一人の「ウェルビーイング」を最優先にすることが必要です。今までは、どちらかというと勤務している時間を中心に1日をデザインしてきたと思います。そうではなく、先生方が理想とする1日の過ごし方をデザインするところから始めた方がよいと思います。自分が理想とする睡眠時間や食事時間などを最優先したウェルビーイングな1日です。そこから逆算して、働く時間はこの時間までと決め、その範囲で何ができるかを考えていきます。

管理職は、1日のタイムマネジメントやスケジュール管理に率先して取り組みつつ、先生たちにその意識を広めていってほしいと思います。学校は、時間に関する意識が生まれにくい場です。チャイムで区切られている1時間目、2時間目などと決められた中では動いているけれども、その単位ではない時間の使い方があまり得意ではない方もいらっしゃるのではないでしょうか。自分で使い方を決められる時間はあるはずですから、それを見える化し、マネジメントしていくことが非常に大切です。

「話し合う」より「聴き合う」姿勢

職場のチームづくりにおいて、大切なのは「話し合う」より「聴き合う」姿勢を全員がもつことだと思います。自分の意見を言うことは確かに大事ですが、やはりみんなで話しましょうと言うのなら、まずみんなできちんと聴き合うということを、管理職がモデルとなり示していくことが必要です。そしてその姿勢を、子どもも含めた学校全体に広げてほしいと思います。

聴き合うこと、つまり対話の大切さを伝えつつ、そういう場をしっかりと作っていくことも必要です。会議という形だけではなく、4人グループになったり、隣の人と話をしたり、みんなでざっくばらんに話せるような機会を頻繁につくっていく。そして、「割と何を言っても大丈夫なんだな」と実感してもらうことが大切です。

永田台小学校時代に考案した「円たくん」は、90㎝の円盤を4人で囲み、書き込みながら話をするというツールです。円はどこが上でどこが下、などがないことが利点で、みんながフラットに話すために役立つツールだと思っています。

「円たくん」を囲む様子
「円たくん」を囲み、お互いの意見を聴き合っている様子。

学校文化を持続させるために

先生方一人ひとりには、自分の働き方を自分で決める、自分たちでどうにかしていくという意識をもってほしいと思います。文部科学省や教育委員会、または管理職や誰かが改善してくれるとばかり思っていては、何も変わりません。特に働き方に関しては、自分の人生の一部です。定時退勤日を作らないと帰れないのではなく、定時に帰りたい日があれば自分で決めるべきです。管理職は、働き方は自分で決めることであり、それを周りが尊重する大切さを伝えてほしいと思います。

管理職は、教職員が働き方を自分たちの問題として捉え、自分たちで話し合うための場作りやきっかけ作り、テーマ作りをしっかりとやってほしいと思います。誰かが業務改善のリーダーシップをとり、その下で従うというわけではなく、みんなが「自分ごと」として取り組んでいくと、誰かが抜けたとしても改善は続きます。前任の日枝小学校、永田台小学校では、私が退任したあとますます良い学校になっています。学校を変えていくのはその時々にいる現場の人たちです。自分がいなくても、残った人たちで改善を続けていける。これが学校全体、子どもたちにも広まっていくと、持続可能な学校文化となっていきます。

先生にはいろいろな人がいますから、当然、最初から業務改善を全員で足並みそろえて進めることはできないでしょう。そこは、ドミノ倒しのように変わっていけばよいと思っています。実はこれも持続可能な変化の仕方。もし、一斉にみんなが賛成し、行動することがあれば、それはただ「やらされている」のです。本当は反対だけれど、言えないから忖度してやっているとか、嫌々やっているとか。自分ごとになっていない取組は続きません。

反対する人や、違う意見があることは大前提で、とにかく進めながら仲間を増やしていくことが大事です。最初から満場一致は無理な話ですよ。続けていくうちに「なんだかおもしろそう」と思う人が加わって、だんだん広がっていく。そうやって続いていくものもあれば、続かないものもあります。試行錯誤しながら実行していくため、発案されたものが全部残るわけではないですが、学校文化は自分たちで決めてよいのだという実感を、信頼関係の中で生み出していくとよいと思います。

業務改善の話合いの様子
日枝小学校で、先生たちが業務改善の話合いをしている様子。

小中高の思い出が、教員の志望度を上げる

教員を増やすために学校現場でできることは、今の学校を子どもにとって楽しい場所にすることです。というのも、よく管理職研修で「いつ教員をめざそうと思ったか」と参加者に聞くと、小学生から高校生の間が多いのです。長いスパンで考えると、子どもたちが、今自分のいる学校が楽しかったり、先生が自分にしてくれた話が印象に残ったりすることで、その中から教員になろうと思う人が増え、教員不足の軽減につながるのだと思います。

ここで1つ大切なのは、一人一人の先生が自分らしさを出すということ。どの先生も画一的で、どのクラスでも同じことばかりやっていると、先生というものにあまり魅力を感じないのではないかと思います。子どもの個性はもちろん尊重しつつ、先生も自分の個性を出しながら、子どもとしっかり向き合ってほしいと思います。

もちろん、今の長時間労働や、職場の雰囲気が悪いだとか、古めかしい慣習だとかは改善してイメージを変えていかなければなりません。そのためにも、先ほどのウェルビーイングな1日、働き方を作っていってください。

ESDのポイントは「自分ごと」で考え、行動すること

ESDでよく言われるのは「シンクグローバリー、アクトローカリー」。世界には、平和とは程遠い状況の国・地域があります。災害や気候変動、事故など様々あり、生命の危機にさらされている人もたくさんいます。世界の問題をきちんと知りつつ(シンクグローバリー)、自分たちの足元や地元で、自分たちができることからやっていく(アクトローカリー)ということです。

ここでも大切なのが、「自分ごと」になっているかどうか。他人ごとになっている限りは、何もアクションを起こさないですよね。世界で起こっている紛争や戦争も自分ごととして捉えると、じゃあ自分の身近なところで争いが起こらないように考えよう、となります。差別や暴力の問題も、自分ごととして、周りの人を排除しないようにしたり、話合いをして決めごとをしたりするというように、自分たちで行動を起こしていくことになると思うんです。

実は今、大人よりも子どもたち、若者たちの方が行動力にあふれています。学校の先生方においては、生徒が何か行動を起こそうとするときに、それをしっかりと後押しし、応援する環境を整えるなどの行動をしてほしいと思います。今こそ行動しないと、この先、人権、環境など、いろいろなものが手遅れになってしまう。それを防ぐために若者たちが立ち上がっている。そこから我々は学び、応援していくべきだと思います。

身近なところで行動するためには、地元でフィールドワークをすることも大切です。意識して歩いてみると、ある場所に大きな穴が開いていたり、ゴミが捨てられていたりするなど、いろいろな気づきがあるでしょう。もっと身近な教室の中や、学校の中に課題があるかもしれません。学校の雰囲気を変えていきたいだとか、ある場所をきれいにして人が集まりやすくするだとか、そういうことでも構いません。

もっと言うと、総合的な学習の時間だけでなく、ほかの授業や、掃除、特別活動、生徒会など、日常の様々な時間の中で、身近にある課題を自分たちで発見し、その解決に向けてみんなで考え行動することが大事です。この体験を繰り返すことで、自分たちが社会を作っていける、変えていけると思えます。これがESDの1つのねらいなのではないでしょうか。

課題を見つけて、解決策を考え、行動する。その先、「行動し続ける」ということがいちばん難しいですが、ずっと行動を続けている生徒たちは、何かとつながりをもっています。1人で実現するというのはなかなか難しいので、仲間づくりや、同じことを既にやっている人を探すことはとても大事です。それは子ども同士だけではなく、子どもと大人や、企業、行政、家庭なども含まれます。

外部の人とつながることで、真剣に活動している人の本気に触れ、一緒に続けていこうというモチベーションにもなります。ESDは、学校だけでやるものではないですからね。当然、家庭教育であり、社会教育であり、地域の教育の中で取り組んでいくものです。

子どもの「本気」をサポートする

地域の課題解決の例としては、前任の永田台小学校での取組があります。この小学校は団地の中にありますが、高齢化が進んでおり、認知症の方へのサポートが1つの課題だったんですね。そこで、生徒たちは「認知症キッズサポーター養成講座」で認知症について学び、保護者や地域住民に向け、認知症の方のサポートの仕方を知らせていきました。また、地域のごみ問題にも取り組みました。捨てられた生ごみに水分がとても多いということで、家庭で水を切るためのアイデア集を作って地域に還元し、結果ごみの量を減らすことができました。

こういった活動で最終的に大切なのは、学んで自己満足、で終わらず、何かしら外に向けて発信すること。暮らしを良くしたいという思いで地域の方々に発信し、それで結果が出るとやってよかったと思えますよね。地域の方たちも、役所の人よりも子どもから言われた方が説得力を感じたりするものです。市長さんや区長さんからほめてもらえたりすると、子どもたちは認められたということで自信になり、次の年の活動のモチベーションにつながります。子どもたちが、地域の人のためだとか、笑顔になるためだとかを大事にしていくと、地域の方たちも学校のことを好意的に見守ってくれるようになります。こういったよい循環を生むためにも、発信することは大切なのです。

「持続可能な社会の作り手」に必要な力は、やはり「行動力」です。課題発見をして調べたり、知識を得たりすることは必要ですが、やはり大切なのは行動に移すこと。行動に移すと、壁にぶつかることは当然あります。そこで、子どもたち自身が振り返り、解決策を話し合い、また行動に移す。これを繰り返して試行錯誤しながら、自分たちが考えたことを実現していくことが大切です。そこをどう先生たちがうまくデザインし、環境づくりを行うか。結局は、諦めずに寄り添っていくことしかできないですけどね。

ESDでは、基本的には子どもたちがやれることをやっていって、ストレスを抱えているときは先生がサポートするということになると思います。外部の人を招き入れるとか、そこに発生するお金の問題など、子どもだけではできないことに関しても、大人同士で下打合せはしますが、アポイントを取ったり、プレゼンをしたり、協力のお願いをするのは子どもたちがやるべきです。学校や先生が引き上げてしまうと、子どもの学びの場を奪ってしまいますからね。協力者も、大人同士で事務的に伝えるよりも、子ども自身がやる気を見せる方が、本気になってくれると思います。

今の学校に求められるリーダー像とは

まず大事なのは、「ビジョンをしっかりともつ」こと。こんな学校にしたいだとか、こんな子どもが育つといいなだとか、自分が実現したいものをしっかりともつということです。

それから、周りの先生方の言葉に対して「聴く耳を持っている」こと。校長だからといって万能なわけではありませんから。先生方はもちろん、子ども、地域の人の声に耳を傾け、力を借りながら、学校経営していくことが大事です。自分以外の人たちをリスペクトし、意見を尊重することが、皆さんからも信頼されることになるのだと思います。ただ、ビジョンがないのはダメです。ある程度ぶれない考えや自分の価値観をもった上で、「聴き合う」ことを率先してやっていくことが大事だと思います。

「聴く」ことに関しては、聴いていると思っていても、聴けていないことは多いですから、時々振り返りをしたほうがよいと思います。振り返ってみると、途中から自分ばかり話していたとか、聴いているふりをして聴いていなかったこともあるかもしれません。その人の背景まで含めて聴いているのか、本当に言いたかったことは何なのか、聴いた後、その人にどのようにフィードバックしたのか。そういうことも含めて、私たちは常に立ち止まって考えてみなきゃいけないな、と思いますね。

私自身の展望としては、まず、現在勤めているこの湘南学園を、継続して長く続く、強靭な学校にしていくため、ビジョンをしっかりともち、みんなで語り合いながら考えていく。もう1つは、校長先生や先生たち、日本中の学校を元気にするため、講演活動を続けていきたいと思います。

最後にお伝えしたいのは、「今やっていることは、1つも無駄ではない」ということです。教師というのは、本当に学校に関わる人、みんなを幸せにしている仕事なのだと思って働いてほしいなと思います。そのために、まず自分自身が元気で、幸せであることを大切にしてほしい。皆さんは「ハッピークリエイター」ですからね。みんなを幸せにする人が幸せであってほしいと思います。

取材・文/橋本亜也加(カラビナ)

この記事は、連続企画「「持続可能な学校」「持続可能な教育」をどう実現するか? 」の7回目です。記事一覧はこちら

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