学年担任制とは?【知っておきたい教育用語】
社会の変化に伴って子どもや家庭への対応も多様化し、学校教育に求められるその役割がますます増えています。これまでの教科・領域等の指導に加えて「○○教育」といった新たな内容の扱いは増えるばかりで減ることはありません。また、「個別最適な学び」や「協働的な学び」に象徴されるように、子どもの発達の状態に応じた教育の実現という課題も課されています。しかも、教員不足の状態の中で、働き方改革を強力に推進しなければならない、という喫緊の課題もあります。このような状況を踏まえて、学級経営を1人の教員、つまり担任が務めるという従来の学級担任制ではなく、学年を複数の教員で担当し、学級経営も担当者が協働して行うという学年担任制が試行されています。
執筆/創価大学大学院教職研究科教授・渡辺秀貴
目次
学年担任制とは
学年担任制を教育施策として実施している自治体に神戸市があります。神戸市教育委員会では、2023年度の4月から「学年(チーム)担任制」を導入し、市立小学校2校、中学校2校をモデル校として指定して、その成果と課題を明らかにする取組をスタートさせました。神戸市の取組では、「学級担任を固定せず、学級における児童生徒の指導や事務処理等の業務を複数の教員がローテーションで担当するなどして行う学級運営の方法」として次のような成果をめざしています。
児童生徒・保護者にとって、相談できる教職員が増え、安心感が高まる。
神戸市教育委員会事務局学校教育部学校教育課「市立学校における『学年(チーム)担任制』モデル実施校の決定」2023年3月
教職員が児童生徒の変化に気づく機会が増え、早期かつ丁寧な対応ができる。
教育活動や指導の透明性を高め、開かれた学校づくりにつなげる。
つまり、指定された小学校2校と中学校2校では、従来の学級担任制ではなく、学年を複数の教職員で担当する仕組みについて、各校の実態に応じて体制を工夫し、そのメリットとデメリットを検証する取組を教育委員会の事業として実施しているのです。
学年(チーム)担任制への注目
2018年、東京都千代田区立麹町中学校では、生徒主体の学校づくりにより定期テストや宿題の廃止などを進め、その改革の一環で固定担任制を廃止し、学年の教員全員で全生徒を指導・支援する「全員担任制」を導入しました。神戸市教育委員会は、麹町中学校の「全員担任制」の取組をきっかけに「学年(チーム)担任制」の導入検討を始めたと言われています。
また、富山県南砺市では、2020年4月から市内のすべての公立小中学校でチーム担任制を導入し、校長を含めた学校がワンチームで教育活動を活性化していく取組を展開しています。南砺市には、平地にある中規模校や山間部の極小規模校もあり、チーム担任制は、各校の実態に合わせて様々な形態で実施され2023年には4年目を迎えています。南砺市では、2019年度から2023年度の間、68人の教員を新規採用しましたが、年度末を待たずに退職した者が0であるところに、チーム担任制の成果が最も表れていると教育長が語っています。1つの学年や小学校5・6年といった2つの学年をチームで担当することで、ベテランと若手教員の相互作用による人材育成や、複数教員によるそれぞれの経験を総合的に生かす指導体制が確立している好例と言えます。
学年(チーム)担任制の具体的な取り組み
神戸市や南砺市の取組は、自治体主導で制度を導入し、その運用は学校が主体となるものですが、固定担任制を廃止して、学年(チーム)担任制を導入している学校は全国にあります。
東京都足立区立綾瀬小学校(高学年での学年担任制)
【仕組み】
○学年の学級数を上回る教員で、学級担任をローテーションする。
○年度当初は1か月程度同じ指導者が学級集団づくりを行う。
○徐々に1週間単位で担任がローテーションしていくようにする。
【メリット】
○子どもの良さや課題を多くの教員で見いだし、丁寧な対応ができる。
○子どもの情報を担当教員が共有して関わるので子どもの安心感が高まる。
○学年のどの子どもにも同じ指導を保証できる。
○子どもは、相談しやすい学年の教員に相談できる。
○教員同士の連携が強まり相互に高め合うことができる。 など
*この取組の成果を生かすために、「学年担任制Q&A」を作成して教職員間はもちろん、家庭や地域に発信している。
鹿児島県鹿児島市立城西中学校
【仕組み】
○教師6人程度のチームで3〜4クラスを担当。
○従来の学級担任の業務は、ローテーションで実施。
○道徳と学級活動は、学年の全職員で担当。
○生徒指導の案件には、状況に応じて弾力的にチームを編成。
【メリット】
○チーム制により、異なる複数の教師が担任の意識で教室を見守る。
○気になる子どもの姿があれば、直ぐに情報共有し、チームや学年全体で見守る体制ができる。
○子どもとの関係性や教師個々の得意分野を生かして効果的な指導・支援を実施できる。
○相談相手を固定せず、子どもが話しやすい教師にいつでも相談できる。
「学年(チーム)担任制」のメリット
神戸市では、教育委員会の立場として、この制度の導入のメリットを次のように捉えています。
○子ども、友人関係の変化に気付きやすくなる。
○教員と子どものよりよい関係が築ける。
○様々な考えや人間性を知ることができる。
○教員の働き方改革につながる。
○教員同士の学び合いになる。
これらのメリットは、先述の小中学校の実践とも共通しています。神戸市のように行政主導でこのように施策を進めることで、管下の学校での実践情報を交流し、よりよい取組にすることができるでしょう。
一方で、新しい制度導入に伴うデメリットも必ずあります。この制度では、「誰が担任なのかはっきりしない」、「教員間での情報共有に手間がかかる」などが挙げられていますが、それらも教育委員会が調整、対応をすることで保護者や地域にも分かりやすい説明ができるはずです。また、制度の持続可能性という視点からも自治体の取組として実施する利点があります。
学校における指導体制の工夫
学校教育を取り巻く社会の現状はとても複雑で多様なものとなっています。教育活動をよりよいものにするにしても、何か問題が発生して対応するにしても、教員1人の力では難しい時代であることは間違いありません。複数の教職員がチームで対応していくことが必然となっています。また、教員不足に象徴されるように、学校全体の組織力の脆弱化への危惧も語られることが多くなっている状況も踏まえ、学年経営をチーム体制で行うという指導体制の工夫はこれから広がっていくかもしれません。学校やその地域の実情に応じて、学校の自主・自律性を発揮しながら柔軟かつ実効性のある指導体制を工夫していくことは不可欠な状況と言えます。
▼参考資料
神戸市教育委員会事務局学校教育部学校教育課(ウェブサイト)「市立学校における『学年(チーム)担任制』モデル実施校の決定」2023年3月
ソクラテスのたまご(ウェブサイト)「神戸市の小中学校で始まる『学年(チーム)担任制』で学校の何が変わるの?」
東洋経済ONLINE(ウェブサイト) 「子ども・若手教員にメリット大、富山県南砺市『全市でチーム担任制』の深い狙い」
東京都足立区立綾瀬小学校(PDF)「高学年で行う『学年担任制』について」
鹿児島県鹿児島市立城西中学校(PDF)「学年チーム担任制」