メーカーに聞く「学習者用デジタル教科書」製品レポート #1|新興出版社啓林館
1人1台端末が整備され、国の施策によって配布されている学習者用デジタル教科書。2024年4月から小学校の教科書が新版となるに伴い、デジタル教科書も改訂されます。
そこで各社のそれぞれのデジタル教科書には、どんな特徴があるのか。自社製品のよさと特徴、今後の展望などをメーカーの開発担当者に聞きました。今回は新興出版社啓林館さんです。(取材・文/村岡明)
今回の取材先
新興出版社啓林館 コンテンツクリエーション事業部部長
橋本竜夫氏
目次
同社の発行する教科書について
- 小学校:算数・理科・生活・英語
- 中学校:数学・理科・英語
- プラットフォーム:超教科書
デジタル教科書概況
デジタル教科書には学習者用と指導者用があります。指導者用の方が歴史が古く、当社の場合、最初に発行したのは2011年でした。すでに10年以上使われていることもあり、指導者用デジタル教科書は、かなり使われているという印象です。
一方学習者用については課題があります。「どのように授業で使えばいいのか」という問い合わせが少なくありません。教科や学校種、ネットワーク環境などによって使い方が異なるため、難しい問題です。
それでも2023年度に算数と英語のデジタル教科書が国の施策で配布されたことで、クラウドシステムを利用するものが主流となりました。これにより、機能の可能性が広がっています。
読み上げ機能の強化
2024年度版のデジタル教科書(以下新版)では、読み上げ機能を強化しています。これまでは、ブラウザの機能を使った合成音声での読み上げでした。この方法では、どうしても不自然な日本語になってしまう部分が生じます。外国籍児童が増えているなどの背景から、改善要望を多数いただきました。
そこで新版では、イントネーションを整える機能を持った音声合成ソフトで作成した音声ファイルを付けていく形にしました。かなり自然な読み上げになっています。
一方”英語の音声”は人間の声です。ネイティブの方に実際に読んでもらった音声を使っています。
「超しおり」機能
新版では「超しおり」機能が搭載されます。これは超教科書というプラットフォームの機能です。単にページ位置を記憶しておく機能ではありません。主に次のようなことができます。
- しおりをつけた日付と時間を記憶しスライドショーできる
- 部分拡大したり書き込んだりした場合、その情報ごと記憶
- ファイルに書き出すことで他者と共有できる
これらはおもに、先生が見せたいページを子供たちに送ったり、子供同士で共有したりするという使い方を想定しています。
また、同一ページ内でも設定可能です。ページ内で気づいたことを書き込んだり拡大したりした時、都度「超しおり」を設定することで思考の流れを可視化できます。これをスライドショーにしたり、ファイルを送り合ったりすれば、話し合い活動もスムーズになるはずです。
学習を支援する機能
新版では、子供が問題を解くとその正誤判定がなされ、その結果を先生に送信する機能を搭載予定です。先生は、クラス全体の回答状況・正解状況をリアルタイムで把握できます。
また、学習履歴を保存する機能、自分が考えた立方体の展開図を友だちに送るなどの共有機能も予定しています。
このように、個別の体験や協働的な学びにつながるような場面設定やコンテンツを鋭意開発中です。
豊富なオプション教材
各教科とも、デジタル教科書と一体的に使えるオプション教材を用意しています。
英語では、イングリッシュセントラル社と共同で教材を開発しました。発音判定機能や、豊富でワールドワイドなコンテンツが収録されています。イングリッシュセントラル社が世界中に提供している教材にもアクセス可能です。
算数では、学習者が自学できるよう工夫されたデジタル教材が提供されています。回答が終わると、解説動画を見たり高度な問題に挑戦することが可能です。指導者向けには、類題検索機能・学習者の理解度を把握する機能などが提供されます。
そのほか理科では、実験事故防止動画など、安全な実験観察をサポートするコンテンツを提供しています。
標準のデジタル教科書とオプション教材によって、トータルな学習環境を提供していく予定です。
取材を終えて
「学校現場に指導者用デジタル教科書は、かなり普及している」というのは、私も学校を取材していて感じることです。学習者用デジタル教科書は、教科書が新しくなる2024年4月からが本格活用の年になるかもしれません。その点で、超しおりの機能や、学習支援の機能はデジタル教科書の可能性を広げるように思います。
一方で、実際に学習者用デジタル教科書を使って授業している先生(英語科)からは、下記のようないくつか課題が寄せられました。このあたりは今後に向けて、改善していただければいいなと感じます。
・英語の音声再生時に冒頭の音が飛ぶときがある。音声が開始されるまでの余白があるといい。
・再生される英語の音声のスピードが変えられないので不便。
・音声が再生されているとき、文字のテロップがほしい場合がある。
※次回は日本文教出版さんの学習者用デジタル教科書について紹介する予定です。
取材・文/村岡明
国語教科書編集者を経て「ジャストスマイル」など教育ソフトを多数企画する。その後教職員向けのネットマガジンを創刊。ソフトウエア開発、Webサービスの開発を20年以上経験している。