教育の水面下の動きを見ておくと、腰を据えて長期的に教育に取り組める【授業づくり&学級づくり「若いころに学んだこと・得たこと」第40回】
前回、藤原友和先生が、若手の頃に先輩や校長、多様な勉強会で授業づくりや学級づくりについて学んでいった過程や、次第に道徳の専門性を高めていくようになった過程を紹介しました。今回は、その過程で藤原先生がどのようなことを、どのように学んでいたのかなどを具体的に紹介していきます。
目次
答申はもちろん、専門部会での議論の資料などを徹底的に読む
道徳に関しては、全道大会後に北海道の道徳教育推進リーダーになって道徳の周知を任されたわけですが、それまで私自身としては大会の授業者をやっただけで日々、熱心に道徳の研究に取り組んでいたわけではなかったのです。しかし、「特別の教科 道徳」とは何か、先生方に伝えていかなければなりません。ですから学習指導要領や中央教育審議会の答申はもちろん、そこに至る過程での専門部会での議論の資料などを徹底的に読み、分かりやすくスライドにまとめ、教育委員会の人にもチェックをしてもらい、それを使って伝えていくという、1年間をかけた私自身のプロジェクトを進めていきました。
例えば授業(研究授業)をつくるときに、学習指導要領や解説を読むのは当然ですが、それだけでは十分ではないと思います。学習指導要領なら、その学習指導要領に改訂される過程の議論、「特別の教科 道徳」ならそれが求められることになる議論の過程をしっかり読んでおくと、何が重要なのかがしっかり理解できるのです。それは「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して」でもそうですし、第四期の「教育振興基本計画」を見ていてもそうですが、関連する議論のプロセスを見ておくと、次にこれが重視されるということがはっきり分かるわけです。ですから、私は2022年11月に行われた道徳の全国大会の研究部長を務めていましたが、研究主題は「well-being」と、大会の2年前から掲げていました。
「well-being」が教育の分野でにわかに注目されるようになったのは、2022年6月16日に第4期の「教育振興基本計画」が閣議決定されてからだと思います。しかし、その前提となる考え方はすでに令和2年にOECDから示されています。「OECDラーニング・コンパス(学びの羅針盤)2030」の中には、「ラーニ ング・コンパスは、個人や社会のウェルビーイング:私たちの望む未来(Future We Want)に向けた方向性を示しています」などと書かれています。それを読んでおけば、絶対に次にこれが求められるということが分かるわけですし、そこを目指して学びをつくっていけば、誰からも横槍を入れられることはないわけです。
余談ですが、「well-being」という研究主題を考えたとき、道徳の堀田竜次教科調査官に相談したところ、まだ文部科学省からガイドが出ていないので、こういう点には注意してやっていってもらえれば、この先もしばらくは「well-being」を軸に研究していけます、というアドバイスをいただきました。そのように、他の先生が知らない教育の水面下の動きを見ておくと、表層的な変化に踊らされて右往左往することなく、腰を据えて長期的に教育に取り組むことができるのです。
教職大学院に行って、教育に関する大きな地図が手に入った
ちなみに中学校での初任時から参加していた勉強会を通じて、先のような教育のバックボーンとなることもしっかり勉強して授業づくりに取り組むということは学んでいました。しかし、若手の頃の私は自分の学級、授業で、それを現実に機能させることができなかったのです。それは例えば、「体験的な学びが大事だ」ということは分かっているつもりでも、それと自分が子供時代に親子レクや母とママ友と一緒に地域学習体験をしていたことが結び付いていなかったということです。しかし、次第に実際の授業などを通して得た経験と、過去の自分自身の経験などを俯瞰し、教育的に意味付けていけるようになることで、より確かな教育ができていくようになってきたのだと思います。
そういう意味では、令和2年度に1年間、教職大学院で勉強をし直したことも大きかったと思います。それまでは、いろんな分野で聞いたり読んだりして結構な量の勉強はしてきていたわけですが、それぞれ別の分野の内容であり、バラバラな状態でつながってはいませんでした。しかし、教職大学院に行って道徳教育だけでなく、学校教育というものを歴史的にも制度的にも俯瞰して見たときに、教育に関する大きな地図が手に入ったのです。それによって、「ああ、あのときに自分がやっていたことは地図のここに当たるんだ」「その後やったことはここに当たるのか」というように見えてきました。
そうやって、教育の大きな地図の中で自分のそれまでの取組を俯瞰することで、自分にはカリキュラム・マネジメントの視点が弱かったということを感じました。その気付きが背景となって、道徳をハブにしながら総合的な学習の時間につなげていく「一枚画像道徳」のような実践が生まれたのです。
ちなみに、この大学院時代に「地域素材を使って行う道徳」についての研究をしたのですが、それを小学館の担当編集者に見せたことが縁で研究助成費を受けられることになりました。その助成費を使って東北地方を取材して回り、東北の仲間との勉強会もコロナ禍だったのでオンラインで復活させ、本を出そうということでまとめたのが、『オリジナル地域素材でつくる「本気!」の道徳』です。
その頃には、先にお話しした道徳の全国大会に向けて取り組むことが本格化し始めていましたから、そこから行うオンライン・イベントもすべて「well-being」で一貫して、戦略的に取り組んできました。先に説明した通り、地図が手に入ったことで、自分に足りないことは何か、みんなで考えることは何かを整理し、市の教育研究会でやることと民間サークルでやることと、それぞれチャンネルが違うからこそできることがあるので、それぞれの強みを生かして勉強するコースをつくることに、この2、3年は力を入れて取り組んできています。
私自身、そうやって大きな地図を手に入れたことで、自分自身や周囲の仲間がさらに勉強する方向を見定め、学びの場や内容を広げてこられたように、一定の経験と勉強を積まれた先生は、ぜひ教職大学院に行って教育や自分の実践を俯瞰して見る機会をもたれたらよいと思います。
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今回は、藤原先生の学び方や近年の取組について紹介をしてきました。次回は現在、藤原先生が力を入れているICTを活用した実践などを中心に紹介していきます。
【授業づくり&学級づくり「若いころに学んだこと・得たこと」】次回は、1月19日公開予定です。
執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之