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佐藤学が語る “ポストコロナ時代の学びのイノベーション”【みん教×EDUPEDIAコラボインタビュー】

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日本の教育学界の第一人者で「学びの共同体」の理論的指導者である佐藤学氏(東京大学名誉教授)が、21世紀型の学校教育に必要な「学びのイノベーション」の理論とポストコロナ時代の学校教育のあるべき姿を論じた新刊が発売されました。それを記念して、聴き合いの重要性や学びの共同体の改革、学びのイノベーションについて伺いました。

聴き合う関係はケアの共同体をつくる

アメリカ留学中の谷津凜勇記者(EDUPEDIA編集部)が、オンラインで佐藤学先生にインタビュー。

──学びの共同体の改革においてベースになるのが、聴き合う関係ということですが、聴き合う関係がなぜ重要なのでしょうか?

佐藤 聴き合う関係は、相手も立てる、自分も立てるというようにお互いを主人公にしてくれます。お互いが助け合う関係になるのですね。相手の困ったところを聴いてあげると、ここが困っていると打ち明けてくれます。そして、「こうするといいよ」「ああするといいよ」とみんなが手助けの方法を考えてくれるわけです。

話し合う関係は、張り合う関係になってしまって、助け合う関係ができにくいのです。一方、聴き合う関係は、学びを創造的にし、学校や教室に民主主義の環境をつくります。ケアの共同体をつくるというふうに言ってもよいと思います。

今、社会も学校も、お互いに言いたいことを言うだけで、聴こうとしないのですよね。他者への無関心が社会、学校、教室に蔓延しています。そのことで、荒れた学校や荒れた教室に行きつきます。これは子どもの気持ちが荒れているだけではなく、聴き合う関係ができていないためなのです。聴き合う関係ができると、子どもは途端に変わります。聴き合う関係はとても重要なのです。

──教師の立場から、どのようにすれば「話合い」から「聴き合い」へと子どもたちの意識変革を起こすことができるのでしょうか?

佐藤 言いたい子どもたちを聴き合う関係にするのは、とても難しいことです。聴き合う関係にするために、私は3つの提案をしたいと思います。

1つ目は、教師自身がよい聴き手になることです。ほとんどの教師は、話すのが仕事だと思っているでしょう。しかし、教師に一番必要なのは「聴く力」なのです。子どものつぶやきや声にならない言葉に、きちんと耳を傾けることができる教師がすばらしい教師だと思います。教師が聴き手になるだけで、子どもは変わってきます。教師をモデルにしますからね。

2つ目は、子どもが小さい声で発言したときの対応です。教師は「よく聞き取れないから、もう1回大きな声で言ってみて」と言うことが多いようです。この言葉はやめましょう。子どもの発言が小さい声で聞き取れない場合、「〇〇さんが今、おもしろいことを言っているよ。もう1回みんなで聴こうね」と言ってみてください。これを繰り返すことによって、子どもたちが聴くようになります。

3つ目は、子どもから重要な発言があったときです。そのとき、他の子どもを指して、「今、□□さんがすてきなことを言ったよね。□□さんが言ったことをもう一度、自分の言葉で言ってみて」と言いましょう。これがリボイスです。それぞれの子どもが、自分の言葉でリボイスするようにします。これを1~2か月間行うと、どの子もよく聴くようになります。このようにして聴き合う関係ができていくのです。

学校を変えるのはその学校の子どもたちや教師たち

──佐藤先生は、多くの学校に指導に入られていますが、著書では「スーパービジョン(指導者の立場から指導すること)を実現するのは難しい」と述べられていますね。どのように実現されているのでしょうか?

佐藤 私は40年以上、毎週2、3校ずつ学校訪問をしてきました。今思い返すと、最初の10年くらいは失敗でした。失敗の原因の1つは、上から目線だったからだと思います。「指導して変えていこう」と考えている間は改革できないですよね。気が付くのに約10年かかりました。

年に1、2回しか行けないのに、「ああしたほうがよい」「こうしたほうがよい」と言うのは、とても傲慢な行為ですよね。学校を変える力というのは、その学校の子どもたち、教師たち、保護者たちの中にあるんです。私は、それを支えるという役割です。スーバーヴァイザーとして入った学校で指導を求められても、僕はたいてい答えを与えません。一緒に考え、答えを一緒に探っていく。それがスーパービジョンの役割だと思っているんです。

だから、これまで4000校以上の学校と関わってきて、1校として同じような関わりはしていません。毎回、頭をフル回転させて、どのように改善していくのかを探っていきます。

何十年にもわたって困難を極めているような学校に対して、学びの共同体の改革を行うと劇的に変わります。2、3か月間ですべての子どもが夢中になって学ぶようになり、校内暴力はほとんどゼロになります。県で最低レベルだった学力は、全国平均より超え、さらにはトップレベルになっていくのです。

「佐藤先生はゴッドハンドを持っている」と言われることもありますが、そうではなくて、すべての子どもや教師がゴッドハンドを持っているのです。それをどう引き出して、どう支えていくのかがスーパービジョンの役割だと考えています。

――学力の高い進学校など、改革をしなければならないというインセンティブが少ない学校にも、学びの共同体の効果はあるのでしょうか? 

佐藤 進学校でも、学びの共同体の改革を取り入れるのは非常に効果的です。今の進学校、特に高校は様々な問題を抱えています。進学校の生徒たちに教科書通りの授業を行っても満足しません。そのため、実のところ、進学校の授業は崩壊の危機に直面していると言えます。

進学校の授業こそ、学びの共同体の改革が必要です。学びの共同体の改革を最初に取り入れた高校は、いわゆる超進学校です。進学実績を飛躍的に伸ばしました。しかし、進学実績をアピールしていません。なぜなら、進学目的でその学校に入学されると、学びの共同体が潰れてしまうからです。

――学びの共同体によって「真正の学び」が実現されるとしても、入試が変わらない限り、学校や授業はなかなか変わらないのではないでしょうか?

佐藤 私は、むしろ逆ではないかと思います。学校の現場が変わらない限り、入試制度も変わらないのではないでしょうか。つまり、授業や学びのスタイルが変わることによって、入試が変わっていくと思います。

僕も東京大学に長く勤めていて、入試改革にも随分と関わりました。

で、そこから言えることは、現在、トップレベルの大学は、いわゆる塾や予備校で付けた受験のための学力で合格するような入試をしていませんから。相当質の高い問題を各大学が必死に作っていますね。そこは信頼してもらえばいいと思います。今、大学入試で求められているのは、真正の学びに基づいた学力なのです。

――学びのイノベーションが広がっていくにつれ、高学力校と困難校の格差が広がってしまう可能性があると思われますが、この点についてどのようにお考えでしょうか?

佐藤 学びの共同体の改革を進めていくと、学力格差は狭まりますが、なしにすることはできません。

学力格差の形は2コブラクダだと言われています。これを右に押していく、つまり全体を上げていくと同時に、この幅を狭めていくことは可能です。

学力が違う子ども同士が学んでいた場合、高いレベルの学力の子たちが不満をもつことが多いです。「学力が低い子たちに合わさせられた。だから進度が遅れる」と。でも違います。学びの共同体の授業は、みんなが高いレベルに挑戦するから、みんなが伸びていきます。

能力の違うもの同士が学び合うと、全体に下がる、特に、上のほうは下がると考えてしまいがちですが、これは誤解です。学力が高い子はもっと伸びるし、低い子ももっと伸びることが現実に起きています。学びの共同体の改革ではそういうことが起こっています。

それを支えているのが「ジャンプの学び」です。学びの共同体の学校では、普通の学校で行う教科書レベルはグループワークで、授業の前半で済ませてしまうのです。後半部分にジャンプの学びを入れます。ジャンプの学びは、3分の1の子どもが分かって、3分の2の子どもは分からないままで終わるというレベルになります。学力は上から引き上げることがポイントです。そうすると子どもが夢中になって探究して、結果として全員が上がっていくという仕組みなのです。

──コロナ過の影響もあり、一気に展開されたGIGAスクール構想ですが、佐藤先生はICT教育による問題も説かれていますね。

佐藤 現在のICT教育では、ICTを使えば使うほど学力は下がります。PISAの大規模な調査(2015年)やマッキンゼーの調査(2020年)でも、コンピューターの利用時間が長ければ長いほど学力が下がるという調査結果が出ています。ICTを使ってメリットが見られたのは、教師が1人で使ったときだけです。これが現実なんです。

では、何が問題なのかというと、いろいろなことが考えられますが、1つは、有効に活用できる教育ソフトがまだ整っていないということがあると思います。これは、AIや様々な技術が進んでいくと、改善できるだろうと思います。

もう1つは、どんなにコンピューターという便利な道具を活用しても、やはり、フェイスtoフェイスの学びの環境と比べれば、教育効果を発揮できていないということなんですね。有効な使い方ができるようになれば、すごく効果があるはずです。そのような研究がこれからは必要だと思っています。

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