「生理の貧困」とは?【知っておきたい教育用語】
アメリカ医学女性協会(AMWA)では、「生理の貧困(Period Poverty)」を「生理用品、洗濯施設、廃棄物管理など、月経衛生ツールや教育へのアクセスが不十分であることを指す」(AMWA、2019年)と定義しています。これは、開発途上国だけの課題ではありません。生理についての知識や教育が十分でないことが要因であり、女性の健康や尊厳に関わる重要な課題となっています。
執筆/文京学院大学名誉教授・小泉博明
目次
「生理の貧困」とは
「生理の貧困」とは、まず、経済的な貧困により生理用品を買うことのできない状態にあることです。次に、知識の貧困により、生理についての知識や教育が保護者からも、学校教育においても十分に指導がされていない状態にあることです。そして、家族関係の貧困により、生理や生理痛などについて保護者に言えない、頼ることができない状況にあることです。このように、「生理の貧困」は単に経済的な貧困によるものではなく、複合的な要因によるものであり、教育の担う役割が重要となります。また、今でも生理禁忌(タブー)の風習や慣習があり、これらを払拭する必要もあります。
「生理の貧困」は、SDGsのゴールの中の目標1「貧困をなくそう」、目標3「すべての人に健康と福祉を」、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」、目標6「安全な水とトイレを世界中に」に関わる課題です。
日本における「生理の貧困」
厚生労働省は2022年2月に「生理の貧困」に関する全国調査「『生理の貧困』が女性の心身の健康等に及ぼす影響に関する調査」を実施しました。調査の項目は以下の通りです。
●生理用品の購入・入手に苦労している人の分布
●生理用品を購入・入手できないときの対処法
●身体的な健康状態
●精神的な健康状態
●社会生活への影響
●生理用品に関する公的支援制度の認知・利用状況
調査結果によると、生理用品を購入・入手できないことを理由とする社会生活への影響については、「プライベートのイベント、遊びの予定をあきらめる(40.1%)」「家事・育児・介護が手につかない(35.7%)」、「学業や仕事に集中できない(34.1%)」などが挙げられます。
居住地域で行われている生理用品の無償提供の認知については、生理用品の購入・入手に苦労したことが「ある」人のうち、制度があるかが「分からない」は49.6%でした。また、制度を知っている人のうち、利用したことがある人は「17.8%」のみでした。市区町村での無償提供を知っていたが利用しなかった理由として「必要ないから(69.8%)」のほか、「申し出るのが恥ずかしかったから(8.5%)」「人の目が気になるから(7.8%)」「対面での受け取りが必要だったから(6.2%)」等が挙げられます。
生理用品の購入・入手に苦労すると、身体的な健康状態だけではなく、精神的な健康状態にも負荷がかかり、社会生活への影響もあります。また、生理用品の公的支援制度が整備されていても、認知されていなかったり、利用を躊躇したりする実態があります。
「生理の貧困」への支援
2021年6月に、内閣府は「女性活躍・男女共同参画の重点方針2021」を決定し、その中に「生理の貧困」への支援を盛り込みました。
地方公共団体が、女性への寄り添った相談支援の一環として行う生理用品の提供を「地域女性活躍推進交付金」により支援します。その際、地方公共団体に対し生理用品を提供すると共に、「生理の貧困」によって困窮する女性の背景や事情に寄り添った相談支援を充実するように促します。
また、様々な要因によって複雑な課題を抱える子どもたちに対し、地方公共団体がニーズに応じた支援を適切に行えるよう、「地域子供の未来応援交付金」によって、子どもたちと支援を結びつけます。
これらの交付金については、文部科学省や厚生労働省、各学校や学校設置者、ハローワーク、福祉事務所等が生理用品の提供に関して積極的に協力し合い、関係部局との連携を強化。そして、適切な相談支援等の周知および要請によって、交付金の活用を推進します。
また、小・中・高等学校において生理用品の入手に困難が生じている児童生徒が判明した際には、養護教諭やスクールソーシャルワーカーなどが連携することで、生活支援や福祉制度につなげていきます。
▼参考資料
アメリカ医学女性協会「生理の貧困(Period Poverty)」2019年10月31日
厚生労働省(PDF)「『生理の貧困』が女性の心身の健康等に及ぼす影響に関する調査」2022年3月23日
すべての女性が輝く社会づくり本部 男女共同参画推進本部(PDF)「女性活躍・男女共同参画の重点方針2021」2021年6月1日