「特別支援教育コーディネーター」とは?【知っておきたい教育用語】

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特別支援教育は、2006(平成18)年の学校教育法等の改正を受けて、それまでの「特殊教育」に代わって翌2007(平成19)年から本格実施されました。学校の特別支援教育の推進の要とも言われるのが特別支援教育コーディネーターです。ここでは、小中学校の特別支援教育校内委員会と特別支援教育コーディネーターの役割を確認しながら、特別支援教育の現状について解説します。

執筆/創価大学大学院教職研究科教授・渡辺秀貴

特別支援教育の体制整備の重要性

通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」の結果が2022年12月に公表されました。小中学校では、学級担任等が「学習面又は行動面で著しい困難を示す」と判断した子どもが8.8%(推定値)いるという結果が示されました。仮に子どもが500人規模の学校であれば40人を超える要支援者がいるという計算になります。どの学級でも学習や生活において、その状態に応じた支援を必要とする子どもが2〜3人は在籍するということです。

学校には、主体的・対話的で深い学びのある授業や、誰一人取り残さない一人一人の発達の状態に応じた教育活動の実現が求められています。そのためには、支援を必要とする子どもを確実に把握し、その状態に応じた支援を適切に行い、主体的に学習できるように、また、友達と協働的な活動ができるようにする必要があります。特別支援教育体制の整備とは、子ども一人一人に適した支援のあり方を学校として組織的に検討し、実施していくことです。学校経営の基盤づくりとして、特別支援体制の整備は不可欠だと言えます。

校長が学校経営方針に特別支援体制整備の重要性を示し、自校の実情に応じた具体的な方策が校内で検討され、校務分掌の機能を活用して効果的な支援体制を整える必要があるということです。その中心的な組織が特別支援教育校内委員会です。そして、校内委員会の運営の責任者が特別支援教育コーディネーターです。

校内委員会の役割

校務分掌に位置付けられた校内委員会には次のような役割を果たすことが求められています。

 主な内容としては次の事項が示されています。

・支援を必要とする子供の把握とその状態、支援策の検討、支援体制を共有する。
・保護者や関係機関と連携して、個別の教育支援計画を作成する。
・当該の子供に関わる校内の関係教職員と個別支援計画を作成する。
・支援を必要とする子供の支援体制や保護者との連携等について校内で共有したり、その内容の理解や支援スキル向上のための研修会を実施したりする。
・自治体が設置する専門家チームへの相談の必要性等を検討する。 
・校内の特別支援の取組の評価と実施計画を更新する。
  など

校内委員会の仕事は、学校全体に関わることや、保護者や関係機関との連絡調整など外部との連携に関わることがあります。それぞれの仕事の進行管理も担い、常に最適な支援体制を目指すということからも校内委員会にはフットワークの良さも求められます。

これらの役割と責任を担うには、組織的な権限と、特別支援教育や障害への専門的な知識等をもつメンバーが必要です。校内委員会のメンバーは学校の実態に応じて決められますが、一般的に、校長、教頭(副校長)、教務主任、生活指導主任、養護教諭、校内に設置されていれば特別支援学級や教室の担任、支援が必要な子どもの担任などに加え、必要に応じて外部の専門家、そしてこのチームの活動をリードする特別支援教育コーディネーターで構成されます。

特別支援教育コーディネーターの役割

特別支援教育コーディネーターの職務は、学校内と学校外に関わるものと大きく2つに分けることができます。主なものは次のように整理できます。

【学校内】
・校内委員会での検討・協議のための情報の収集と準備
・学級担任等への支援
・校内の研修の企画・運営

【学校外部との連携等】
・関係機関の情報の収集・整理
・専門機関等との相談を進める際の情報の収集と連絡調整
・専門家チームや巡回相談員との連絡調整

特別支援教育コーディネーターは、子ども一人一人の学校生活をよりよいものにするために大変重要な役割を担っています。校長は、所属職員の中からその役割を担える者を指名します。学校全体や外部の関係者・関係機関にも配慮し、子どもにとって最適な支援体制を組織できるよう、教職員の力を結集できる力量のある教職員が特別支援教育コーディネーターとして活躍するのです。

その指名の仕方は、学校の規模や教職員の構成等の実情によって異なります。特別支援学級が設置されている学校では、その担任が特別支援教育コーディネーターを務める場合もあります。また、養護教諭と通常学級担任の複数を指名し、それぞれの立場の強みを発揮しながら連携して校内をリードするという形態をとっている学校もあります。

今後の課題

「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」は、2012年と2022年に実施されています。2つの調査結果を比較すると、通常学級で学習面又は生活面で著しく困難さを示すと判断された小中学生の割合は、6.5%(推定値)から8.8%(推定値)に増加しています。2022年の調査報告書では、2つの数字を単純比較できないと述べながらも、通級指導学級利用者が10年間で約2.5倍に増えていることから、通常の学級で支援を必要としている子どもの増加傾向を指摘しています。支援を必要とする子どもの増加は、対応の多様化と複雑化にも結びつきます。学校現場の最前線で子どもの指導に当たっている教職員は、校内の特別支援教育の体制整備をさらに進める必要を訴えています。

しかし一方で、教員不足の問題に象徴されるように、学校の組織としての力の低下は避けられない状況です。加えて、学校の働き方改革の推進は社会的にも待ったなしの状態です。教職員の特別支援教育や障害への理解と支援スキルの向上、校内委員会による子ども一人一人の発達の状態やそれに応じた支援の丁寧な検討と、その結果の共有、保護者等との連携には多くの時間が必要です。特別支援教育サポーターなどの支援員制度を導入している自治体も少なくありませんが、人材不足に悩んでいるということです。

特別支援教育は、共生社会の実現という崇高な理念の実現に欠かせないものです。国と自治体の行政施策と、最前線の学校現場の実践が一体となって、複雑化・多様化する課題の解決にどう臨んでいくか。現状を共有しながら、それぞれの立場から何をすべきか、何ができるかを検討し、すべての子どもが生き生きと生活する学校をどうつくっていくか、正念場を迎えていると言えます。

▼参考資料
文部科学省(ウェブサイト)「特別支援教育をめぐる制度改正
文部科学省(ウェブサイト)「特別支援教育について
文部科学省(PDF)「通常の学級に在籍する特別な教育支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について」令和4年12月13日
文部科学省(PDF)「特別支援教育の推進について(通知)」平成19年4月1日

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