小6|画像生成AIを活用した図画工作科の鑑賞授業 【「生成AI利用ガイドライン」徹底解説 特別編】

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「生成AI利用ガイドライン」徹底解説
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田中博之

この特集ではこれまで、文部科学省が7月に公表したガイドラインの内容を5回にわたって解説してきましたが、実際に、授業にどのように取り入れていくのか、気になっている先生方も多いことでしょう。そこで今回は【特別編】として、東京都世田谷区立瀬田小学校(日高玲子校長、児童数805 名)で行われた、おそらく小学校としては日本初ではないかと思われる、画像生成AIを活用した6年生の図工科の鑑賞授業の実践例をご紹介します。この授業は早稲田大学の田中博之教授の助言を受けて行われたものであり、最後に田中教授による解説があります。

本企画の記事一覧です(週1回更新、全5回予定)
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 <特別編>小6|画像生成AIを活用した図画工作科の鑑賞授業(本記事)

写真左から、世田谷区立瀬田小学校の日高玲子校長、図工専科の中根誠一主任教諭。瀬田小学校は今年度70周年を迎えています。

生成AIと図工科

「生成AIを授業で活用してみたい」と思ってはいても、なかなか一歩が踏み出せない学校が多いのではないでしょうか。今回、その一歩を踏み出したきっかけを、日高校長に聞きました。

「もともと世田谷区は子供たちのタブレットの活用を推奨していますので、生成AIを取り入れてみたら面白いのではないかと思いました。子供たちは、こうしてみたい、ああしてみたいという願いや思いをたくさん持っていると思うのです。ただ、それを表現しようと思ったら、勇気が必要だったり、方法が見つからなかったり、時間がかかってしまったりします。生成AIは、その手助けになるのではないかと考えました」

授業者の中根誠一主任教諭は、教職10年目、図工科の専科教員です。「図工科はアナログなイメージが強いのですが、活用場面によっては、意外とデジタルとの相性がいいと感じています」との思いがあり、今回、画像生成AIを使った授業にチャレンジしたそうです。
日高校長は「生成AIを使うにあたり、誰かを傷つけること、嘘やごまかしにつながることは、あってはいけないと思っていました。もしも国語や算数だったら、もっと色々と考える必要があったと思うのですが、まずは図工ということで、図工科の鑑賞の授業を、中根主任教諭が力を入れて進めていたのは知っていましたので、それに画像生成AIの力がどんな風に加わるのか、むしろ興味の方が大きかったです」と語ります。

◇導入10分

今回、授業を行ったのは、6年4組です。3時間目と4時間目の2時間を使って行われました。
授業は、鑑賞についての説明から始まりました。
中根主任教諭「作品をつくることも大事ですけれど、作品を見て考えたり、感じたりしたことをみんなで話し合うのはとても大事なことです。これを鑑賞といいます。今日は『美しい風景』とはどんなものなのかを話し合って、みんなの『美しい風景』を形にして、鑑賞したいと思います」
この日のテーマは、「美しい風景」です。
この時点で、具体的に何をするのか、子供たちは知らされていません。
中根主任教諭が、「先生にとって美しい風景とは何かと考えて、10秒ぐらいでつくってきました」
そう言いながら、ディスプレイに画像を提示しました。
山があり、空には鳥が飛んでいて手前には花がある画像です。

中根主任教諭が10秒でつくったという画像を見る子供たち。場所は図画工作室です。2~4名の班ごとに着席しています。

子供「10秒ぐらい?」
子供「これが?」
子供「えー?」
子供「もしかしてAI?」
中根主任教諭「そうそう。AIでつくりました」

ここで画像生成AIについて説明します。

中根主任教諭「今、世の中ではいろいろな技術が進んでいて、AIと呼ばれる人工知能が身近になりつつあります。そこで、今日は画像生成AIのアプリを使って、みんなが思う『美しい風景』をつくっていきます」

◇展開70分

まず、中根主任教諭が作成した画像を見て、キーワードを考える練習をします。

中根主任教諭「美しい風景って、先生にとっては、夕日とか、空に鳥が飛んでいるとか、お花などがあるといいなと思って、それらのキーワードをAIに入力したら、画像をつくってくれました。みなさんが美しいと思うキーワードを見つけたら、教えてほしいんですけど、どうでしょうか」
子供「雲」
子供「朝日」
子供「夕方」

各班に付箋とワークシートを配ります。

中根主任教諭「1人で付箋を2、3枚使って、美しい風景にはこのキーワードがあればいいなと思うことを書いて、ワークシートの左側の、枠の中にどんどん貼っていってください」

子供たちはおしゃべりしながら、作業を始めます。
最初は静かでしたが、だんだん話合いが活性化していきます。

3分後、画像を生成するときのヒントを話します。

中根主任教諭「これが美しいな、というイメージがあるのに、画像がうまくできないときのための、ヒントがあります。例えば、人の視点です。雲がはっきりしているのか、ぼんやりしているのか、朝なのか夜なのか、時間によっても風景の感じは変わります。1回やってみてイメージが違ったら、ちょっと言葉を変えると、自分の浮かんでいるイメージに近づくので、班で協力して欲しいと思います」

端末を机上に用意して、画像生成アプリの使い方を説明します。

子供たちはモニターを見ながら説明を聞きます。

今回、使用した画像生成AIは、Adobe Fireflyです。
テキストから画像生成ができ、著作権フリーの画像が使われています。
中根主任教諭がモニターで見せながらこのアプリの使い方を説明すると、さすがはデジタルネイティブ世代です。一度の説明で、すべての班が画像生成をする画面にたどりつけました。
班ごとに画像をつくっていく前に、注意事項を確認します。

中根主任教諭「誰か一人が決めて進めてしまうのではなくて、必ず班のみんなで話し合いながら、このキーワードを入れよう、このキーワードは引き算しようなどと、協力して、よりよい作品をつくっていきましょう」

そして、実際にやって見せます。

中根主任教諭「例えば、ここに3つキーワードを入力して、生成ボタンを押します。そうすると、10秒ぐらいで、はい、作ってくれましたね」
子供「あー」
子供「すごい」

子供たちから、思わず声が上がります。
この後、作品の縦横の設定のしかた、アート作品風にするか写真風にするかなどの設定の仕方、作った画像の保存の仕方を教えました。

班ごとに、テキストを入力し、画像を生成する作業が始まりました。
最初は、「美しい風景」のイメージとして、富士山、海、虹、夕日、花火などのキーワードが、どの班でも出ていました。どこかで見たことがあるような、美しい風景が作られていきました。
そこから、班ごとの話合いも活性化していき、子供たちの顔と顔が自然と近づいていきます。子供たちの想像が広がって、くじら、パンダ、ドラゴン、珊瑚、オーロラ、宇宙……など、いろいろなキーワードが出てきて、一人一人まったく違う画像がつくられます。
教室のあちこちで「おー」「わー」という感嘆の声が上がります。
子供たちの想像を超える出来栄えなのでしょう。

「これよくない?」
「これもいいね」

つくっては消して、保存して、を繰り返します。

生成した画像は、印刷します。
印刷アプリの使い方を教えると、自分たちで考えた画像を10枚、20枚と印刷しはじめました。しかし、印刷には1枚あたり1分程度がかかるため、プリンターの周りに、印刷を待つ子供たちが、たまり始めました。

印刷した作品を見ながら、次はどういうキーワードがいいかを話し合いながら、さらに画像生成を続けます。
ここで中根主任教諭が著作権の話をしました。

「Adobe Fireflyが生成してくれる作品は、著作権がフリーの材料を使っています。今日、印刷したら、紙を家に持ち帰っていいし、つくった作品を自分の端末に入れて、友だちに紹介してもいいですよ。ただ、アプリによっては、著作権のある画像が使われていますので、なんでもかんでも自由だと勘違いしないでください。みんなが好きなアニメのキャラクターには著作権があります。そのキャラクターの名前を入れると、『著作権があるから、NGです』のような画面が出てきて、生成されません」

さらに、子供たちが操作に慣れてきたところで、キーワードについて注意を促しました。
「残酷な言葉や下品な言葉を、ふざけて入れないようにしてください」

「画像生成AIを授業で使う際に大事なのは、文部科学省のガイドラインにあるように、生成AIの危険性、注意点などを、授業の前、あるいは、授業中に必ず伝えることです。今回は、入力してはいけないことを残酷な言葉、下品な言葉と表現し、きちんと板書して説明していました。(早稲田大学教職大学院田中博之教授)

印刷したものを見て、鑑賞タイムです。
自分たちの班で、あるいは、別の班の人と、2人ペア、もしくは3人トリオになって、作品を鑑賞します。

中根主任教諭「おすすめを1人1点選んで、『今日はこういうのをつくったよ』と紹介し合ってください。作品を見せてもらったら、一言感想を言ってあげましょう。質問があったら聞いていいですよ。逆に、『これはどういうキーワードでつくったのかな』と質問された人は、答えてあげてください」

子供たちはまずは同じ班の友だちと交流し、その後は作品を持ち、席を立って、移動しながら、教室のあちこちで交流しました。人の説明を聞き、自分の作品の説明もして、双方向の交流ができていました。

子供「かっこいいね」
子供「すごく嬉しい」
子供「どんなキーワードにしたの?」

子供「暗くなっちゃったので、頑張って最後は明るいのをつくりました」
子供「どういうキーワードにしたら、こんな明るい感じの色になるの?」
子供「空の色をキーワードで変えていったから」

◇まとめ10分

中根主任教諭「今日は『美しい風景』をテーマに、画像をつくってもらいました。今日の授業のこういうところが勉強になったなとか、感想がありましたら発表してほしいのですが、どうでしょうか」
子供「キーワードを少し変えるだけで、色々な風景に変えられることがわかりました」
中根主任教諭「画像生成AIは人間じゃないから、こういう風にやってほしいなというニュアンスがなかなか伝わらないと思うのです。キーワードを変えるのは大事なことです。自分もそう思った、という人はいますか? 何人かいました。他はどうでしょうか」
子供「夜だったり朝だったり、山だったり海だったり、いろんな場所があって、みんなそれぞれ違って、おもしろかったです」
中根主任教諭「みんなそれぞれ、美しいと感じるものが、意外と違うことを、今日は知ってもらえたらいいかなと思います」

その後、1人1台端末を使って自分のワークシートの写真を撮り、今日つくった作品をそこに貼り付けて、今日の授業の感想を書いて共有用アプリへ提出します。

ワークシートを写真に撮ります。

写真撮影したワークシートを、それぞれ端末で仕上げます。

最後は共有用アプリへアップロードして終了です。

今日の授業を振り返ってもらいました。

「複数の子供が協力して画像をつくっていくことで、『もっとこうしたほうがいいんじゃないか』などと提案し合えたのがよかったと思います。それが見方・感じ方の気付きにつながり、『この子はこういうことを美しいと思うんだな』、『自分にとってはこれが美しいと思うな』という思いをシェアできました。
最終的に、『美しい』というテーマについて、子供たちはいろいろな見方ができるようになり、星、夕焼け、海の水面、光の加減……など、いろいろな美しさの引き出しを手に入れられたのではないかと思います。今後の図画工作の時間に、それが生かされ、『もっとこうしたいな』という幅が広がっていたらいいなと思っています」(中根主任教諭)
「もしも1人1台の端末で、一人ずつつくるとなったら、自分で考えて、人に説明することが苦手な子供もいます。授業の一番最初に何を美しいと思うか、キーワードを考えてから、班で協力してつくっていったのがよかったと思います。そして、作品を友だちと共有できて、どう思うかをみんなが言えていました。画像生成AIは、対話の活性化に有効だと感じました。
それから、想像していた以上に、子供たちが意欲的でした。それは、失敗がないからだと思います。絵を描こうと思ったら、得意な子供は自分の作品に思い入れが持てますが、得意でない子供は自分の作品を大事にできないと思うのです。しかし、今回の授業では画像生成AIが自分の思いを代弁して、誰でも素晴らしい作品をつくれるわけです。子供たちは、自分の考えが形になったことが嬉しかったのではないかと思います」(日高校長)

最後に、画像生成AIを授業で使ってみたいと思う学校のために、日高校長からアドバイスをしてもらいました。

「画像生成AIを使った授業を私は今回、初めて見たのですが、子供の反応がよく、手応えを感じました。子供たちの学びを広げるという意味では、とても魅力的だと思います。安心できる材料を揃え、教員がある程度学んでから、まずは高学年からチャレンジしてみるといいのではないかと思います。
また、今回のアプリは、子供たちの自己肯定感を高めるツールになると感じました。月や星など、入力したキーワードは似たり寄ったりでも、時間や場所を提案するだけで、全然違う作品になるのが、子供たちにとってはおもしろいようで、『見て、見て』という気持ちになるのだと思います。最終的にそれが美術作品になるかどうかは別として、自分の伝えたいことを機械が表現してくれて、それに対して友だちから感想がもらえて、さらに学びを深めていく、そういうことを可能にしてくれるツールだと思います」(日高校長)

解説|早稲田大学教職大学院教授 田中博之

画像生成AIを授業で使うことのメリットは?

今回の授業でよかったことは3つあります。

①集中力が途切れなかった
2時間連続の授業でしたが、子供たちの集中力が途中で切れることはなく、自分の「美しい風景」のイメージが生成されるまで、何度もキーワードを入れ直し、友だちと協力してつくっていました。おそらく普通の図工科の授業では、これほど集中できないと思うのです。子供たちがAIを用いた画像の生成にこれほど楽しく、意欲的に、集中して取り組めたのは、驚くべきことです。

②試行錯誤ができた
子供たちはグループごとに、画像生成AIに入力するキーワードを何度も変えながら、画像を生成していました。例えば、キーワードに、色について書いた子供がいました。「黄金」を「白い」に変えたり、怖いイメージにするときは「黒」を入れたり、このように自分のイメージに近づけていくために、創意工夫をしながら試行錯誤が粘り強くできたのは素晴らしいことです。これは、「主体的に学習に取り組む態度」の育成につながります。クレヨンや絵の具を使って描いた絵は、一度描いたら途中で消せませんが、AIを用いると書き換えが何度もできるのは図工科の授業にとって画期的なことです。画像生成AIに代理で創作してもらっているわけですが、造形遊びを通した鑑賞の授業と捉えれば、試行錯誤という新しい図工科教育の道が切り開けたのではないかと思います。

③協力や教え合いができた
授業の中では協力や教え合いがよくできていました。画像生成AIを2~4人のグループで、使ったのがよかったのだと思います。

「こういうのをつくってみたいんだけど……」と悩んでいる子供がいたら、「こんなキーワードを入れてみたら?」「私はこんなキーワードを入れたよ」などのやりとりがありました。その後はできた作品を見ながら、「すごく面白いね」、「全然違うイメージなんだね」などと、感想を伝え合い、前向きな対話が行われていました。画像生成AIを使って個別にイメージしたことを生成するのは個別最適な学びですが、グループワークにより、協働的な学びにもなっていました。

図工科からスタートして他の教科へ

小学校で生成AIを使ってみたいと思ったら、まずは画像生成AIから始めるといいと思います。これを使えば、絵を描くのが苦手な子供でもどんどん作品をつくることができ、子供は楽しく活動しながら、創造性を育むことができるからです。

今回は、図工科での活用でしたが、例えば、国語科で物語を学び、創作絵本をつくってみてはどうでしょう。ぜひ図工科の先生と担任の先生がTTで、教科横断的に授業を進めるといいと思います。道徳では、教材の続きを考えて、教科書には載っていない挿絵を描いてみてはどうでしょう。また、総合的な学習の時間に、アートポスターを作ってSDGsを訴えるときには、子供たちが部分の画像を生成し、コラージュ作品として、それらを組み合わせて貼り付けて、1枚のポスターを作ることもできます。このように、画像生成AIを出発点として、図工科から、国語、道徳、総合的な学習の時間などへと、いろいろな教科に広げていけると思います。

今回授業で使用したアプリはAdobe Fireflyです。キーワードを入力し、生成ボタンを押すと、約10秒で画像を生成してくれます。Adobe Expressは、学校としてアカウントを取ると、無料でAdobe Fireflyも使えます。このように無料でも十分活用できるものがありますので、まずは無料のものを気軽に試してみるといいと思います。

取材・文/林 孝美

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