【相談募集中】不適切行動の多い児童対応に追われ、学級全体を指導しきれません

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髙橋朋彦の「トモチャンネル」

千葉県公立小学校教諭

髙橋朋彦

特定児童の対応でいっぱいになってしまい、ほかの子どもたちへの指導がままならないという相談者さん。このまま高学年を迎えることに不安を覚え、高学年担任のプロ、トモチャンネルでもおなじみの千葉県公立小学校教諭・髙橋朋彦先生にアドバイスの要望がありました。それを受けて回答した高橋先生の内容を紹介します。

イラストAC

Q. 学級全体に指導が行き届かず、このまま高学年を迎えるのが不安です

4年生の担任をしています。単学級でなかなか相談できないのでアドバイスをお願いしたいです。学級に体格が良く、力が強く、友達に暴力を振るったり、止めようとしても治らない子がいます。その子だけではなく、自分の好きなことしかやらない子もいます。ほかの子たちはとても良い子たちなので、言ったとおりにがんばってくれるのですが、この2人の対応にいっぱいになり、ほかの子たちの指導がままなりません。

このままだと真面目に一生懸命頑張っている子たちがダメになってしまいそうで、不安です。あと半年で5年生、全校のリーダーに育てて行かなければなりません。どう指導にあたっていけばいいのか、頭を悩ませています。

高橋朋彦先生に、アドバイスをいただければ幸いです。よろしくお願いします。(HARU先生・20代女性)

A. ポジティブな働きかけを重ねていけば、信頼関係が築かれ学級も変わります

HARU先生、ご質問ありがとうございます。

とても大変な状況の中、子どもと向き合っていらっしゃるんですね。その姿勢に敬意を表するとともに、私のお話が少しでもお役に立てればと願います。

今回の事例は、次の3方向への対応が求められると考えます。

A 友達に暴力を振るってしまう子に対する対応

B 自分の好きなことしかやらない子への対応

C まわりの子への対応

それぞれについて、次のように対応していきます。

A 友達に暴力を振るってしまう子に対する対応

友達の暴力に関する件は、数年前に私の後輩の学級が同じような状況だったので、そのときの後輩の対応を参考にしながら、私の考えをお伝えしていきます。

①ほかの子の安全を第一優先にする

友達に暴力を振るうことが、一番心配ですよね。まずは、ほかの子たちへの安全を第一優先にします。ほかの子に危害が加わらないようにするため、

  • 暴力を振るいそうにならないか、常に状況を把握しておく
  • その子が子どもだけで一緒にいる状況を作らないようにする
  • 暴力を振るいそうになったら、すぐに大人が止める

ことを大切にします。私の後輩は、その子との関係をつくりながら、いつでも近くにいられるようにしていました。また、学校の会議で現状を共有し、担任以外の教師でも自然な雰囲気の中でその子の近くにいられる状況をつくるようにしました。

②教室が過ごしやすい環境になるように整える

暴力を防ぐことだけでなく、教室が過ごしやすい環境になるように学級全体で整えていきます。私は、次のような環境を整えることが大切だと考えます。

  • 言語環境
  • 友達同士の人間関係
  • 物理的な教室環境

学級に「バカ」や「アホ」などの、ネガティブな言葉があふれていると、学級全体が落ち着かない雰囲気になってしまいます。そこで、学級全体で話し合い、ネガティブな言葉を使わないように決め、「ありがとう」や「いいね」「おめでとう」などのポジティブな言葉を使うようにしていきます。ここで決まったことは、担任が率先して守るようにし、徹底します。

また、授業の中で話合いをしたり、学級レクをしたりして友達同士をつなげていきます。私は、「男女問わず誰とでも」という言葉を教え、男女問わず関われた子にポジティブなフィードバックをして、人間関係づくりをしています。

最後に教室環境です。掲示物や置いてあるものが乱雑になっていると心が乱れてしまいます。また、ハサミやカッターなど、危険なものが置いてあると何が起こるかわかりません。子どもの気持ちを落ち着かせ、安全を守れるように教室の物理的な環境を整えていきます。

③自分一人では抱え込まない

ここまで、担任が主体となったいろいろな方法をご紹介しました。しかし、一人だけではこのような方法を取ることは難しいと思いますし、何かあったときに対応しきれません。そこで、管理職や同学年、生徒指導担当と相談し、対応方法について話し合っていくことが大切です。

HARU先生のメンタル面も大切にしつつ、子どもの安心安全のためにもいろいろな方と相談していきます。

B 自分の好きなことしかやらない子への対応

自分の好きなことをやっているときに輝いていることはとても素敵なことです。しかし、学校ではやらなければならないことがたくさんあります。ですので、子どもの好きなことを尊重しつつ、やらなければならないことをやれるようになるようにしていきたいですね。私は、次のようなことをしていくことが大切だと考えます。

①その子と相談する

自分の好きなことに集中することを尊重しつつ、どうしたらやるべきことができるようになるか、子どもと相談します。例えば、

■ノートを取らない →  ノートを取らないで本時のねらいを達成するための手立てを一緒に考える
■課題を提出しない →  いつ課題に取り組むか、約束をする

などです。子どもと一緒に考えることで、「教師がやらせなければならない活動」から、「子どもが自分で選んだ活動」に変わります。相談を通して活動の主語を子どもに変えることで、子どもが自分で取り組めるようになります。とはいえ、全ての活動をその子の活動にすることは不可能です。その子と話し合い、「これだけは」というものを決めていきます。

子どもとやることを決めたら必ず「ポジティブな評価」をします。

「自分で決めた方法にしっかりと取り組めているね」
「この方法が合っているんだね」

と、ポジティブな評価を積み重ねることで、自分が興味のあること以外にも参加できるようになっていきます。

②保護者と連携する

子どもと決めた方法について保護者と連携をとります。「うちの子がダメだから」という印象を与えるのではなく、「うちの子に合った方法を考えてくれた」というメッセージが伝わるように連絡をします。

また、家庭で困っていることを聞いたり、家庭にお願いしたいことを伝えたりします。そして、しばらく時間が経ってから、子どもと決めた方法の成果も伝えることで、保護者に安心してもらえるようにします。学校と家庭が協力して、その子がよい方向に成長できる方法を考えていきます。

③やらなければならないことをやる瞬間を見逃さない

子どもと一緒に決めた方法に取り組み、ポジティブな評価を積み重ね続けると、話合いで決めた以外の「やらなければならないことをやる瞬間」が出てきます。その瞬間を見逃しません。

「嬉しい!」
「できたね!」
「やってみてどうだった?」

と、教師のポジティブな感情を伝えたり、子どもの気持ちを聞いてみたりします。このポジティブな評価を続けることで、自分の好きなこと以外にも取り組めるようになってきます。

しかし、すぐにできるようになるとは限りません。もしかしたら、まったくできないかもしれません。「できるようになる」と信じて、気長に待ち続けるように心がけます。

C まわりの子への対応

このような大変な状況の中、一生懸命に頑張っているまわりの子たちのことを考えられるHARU先生はとても素敵だと思いました。まわりの子たちが輝くために大切なことは次の3つだと考えます。

①活動の目的を伝える

活動をするときに、

「なんのためにこの活動をするのか」
「なぜこの活動が必要なのか」

など、やらなければならないことの目的を伝えます。目的をしっかりと子どもの腹に落とすことで、子どもは前向きに活動に取り組み、子どもの成長につなげることもできます。

②指示を端的に伝える

目的が伝わったら、指示を出します。2人の子に関わらなければならないからこそ、ほかの子たちが活動しやすいように指示を出すことを心がけます。具体的には次の2つの方法で指示をすると伝わりやすいです。

■一時一事の原則

一時一事の原則は、向山洋一氏によって提唱された教育技術の原則です。この原則は、子どもに指示を与えるとき、一度に一つのことだけを指示するようにすることです。子どもは、一度にたくさんの指示をされると、どの指示を優先して行えばよいのかわからなくなり、混乱してしまいます。そのため、子どもに指示を与えるときは、一度に一つのことだけを指示し、子どもがその指示を完了してから、次の指示を与えるようにしていきます。

例えば、教科書を開いて教科書を読み、ポイントをまとめる活動をする時には、

「教科書◯ページを開きましょう」

と、1つだけ指示をします。全員が教科書をひらけたことを確認したら、

「開いたページを3分間黙読します」

と、指示をして活動したら、

「ここに書かれたポイントを3つノートに書きましょう」

と、1回に1つのことを指示していきます。活動ごとに指示を出すことで、スムーズに活動に取り組むことができます。

■黒板に指示の箇条書き

とはいえ、指示を一度にたくさん出さなければならないこともあります。そんな時は、黒板に箇条書きで指示を書きます。例えば、先ほどの活動を例にするなら、

①教科書P◯を開く
②3分間黙読をする
③ポイントをノートに3つまとめる

と、黒板に書きます。黒板に書くことで、指示の内容が可視化され、時間が経っても残っているので、子どもたちは確認しながら作業を進めることができます。ほかの子に時間を取られたとしても、自分たちで活動を進めることができます。

③子どもの協力に感謝を伝える・成長を喜ぶ

活動の目的を伝え、指示を端的に伝えると、子どもたちはしっかりと動くことができます。また、指示を与えなくとも自分に与えられた役割に取り組んでくれたり、学級のためにできることを自分で考えて行動してくれたりする子もいます。

しかし、しっかりと動けたことで終わりにしてはいけません。ほかの子たちも大切にするためにも、子どもの協力に感謝を伝え、成長を喜びます。

子どもの協力に感謝を伝える

「指示通りに動いてくれてありがとう」
「自分の仕事に責任を持って取り組んでくれてありがとう」
「学級のために動いてくれて助かったよ。ありがとう」

と、子どもの行動をよく観察し、感謝を伝えます。感謝を伝えることで、子どもと教師の信頼で学級をよくしていくことができます。

子どもの成長を喜ぶ

「話をしっかり聞けるようになったね」
「計算が早くなったね」
「発表がとても上手だったよ」

活動の目的を伝え、指示を端的に伝えると子どもは成長してくれます。その成長を喜ぶことで、子どもはさらに成長しようと、前向きに活動に取り組んでくれるようになります。

ここで大切にしたいことが、

「一生懸命に頑張っていることが認められる」

ということです。特定の子が教師の指示に従わなかったり、好きなことばかりしていたりすることばかりに気を取られ過ぎてしまうと、ほかの子も『自分もそっちの方が楽でいいや』と、楽な方へ流れてしまいます。

だからこそ、たとえ不適切な行動を止めきれなかったとしても、

「いけない行動は先生は認めていない」

と話をし、しっかりと取り組んでいる子にポジティブなメッセージを伝え続けます。

また、今までやらなかった子がたまたま1回やっただけでほめられてしまうと、ほかの子は『頑張らないほうが得じゃん』と、思ってしまいます。もちろん、今までやらなかった子がたまたま1回やったことをほめることで行動改善につながるかもしれないので、ほめることは大切です。

しかし、それ以上に、一生懸命に頑張っている子に目を向け、感謝を伝えたり成長を喜んだりすることを大切にします。そうすることで、一生懸命に頑張っている子たちは、『自分たちは間違っていない』 と、思うことができるようになります。

 HARU先生、大変な中、相談してくださりありがとうございました。私のお話が少しでもお役に立てれば嬉しいです。とはいえ、私自身も日々悩みながら学級経営をしています。遠く離れた土地かもしれませんが、このようなつながりが私の励みにもなっています。困った時に、私のことを思い浮かべてくださりありがとうございました。元気をいただけました。

これからも大変なことが続くかもしれませんが、一緒に頑張っていきましょうね!


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