外国につながる子供たちの支援~インクルーシブな学校・学級・授業づくりとは?
神奈川県横浜市立潮田小学校は、外国につながる子供たちを40年前から支援し続け、様々な取組でインクルーシブな学校・学級・授業づくりを行っています。子供たちのルーツに関わらず、「あなたはあなたである」という一人一人のアイデンティティを大切にしている同校の取組の様子を紹介します。
目次
全体の約2割が外国につながる子供たち
潮田小学校は、全校児童682人の内、約2割に当たる136人(2023年4月時点)が外国につながる児童です。つながる国は日本を含め18か国を数え、ブラジルをはじめ、南米につながる子(ポルトガル語、スペイン語)が多いのが特徴です。近年はフィリピン、中国につながる子が増えています。また、年度の途中で現地校からの編入が多く、その子たちは、日本語がまったく話せない状態で編入してきます。
横浜市では40年前に公立小学校に「国際教室」を設置し、外国につながる子供たちの支援を始めました。その当初から潮田小学校は、国際教室が設置されています。横浜市では現在、外国につながる子供が5人在籍すると、その小学校に国際教室を設置することが義務付けられています。
国際教室では国語と算数の授業を行う
国際教室は、外国につながる子供の学習面、生活面、そしてアイデンティティの面から支援を行っています。また、その保護者に対しても翻訳した手紙を配付するなど、言葉の壁に対する支援、密な連絡、説明会、懇談会を行うようにしています。
国際教室での授業は、主に国語と算数の2教科を行います。2教科以外の教科等は母学級で授業を受けますが、子供の状況に応じて個別に対応しています。国際教室での国語と算数は、各学年の学級での授業と基本的に同じ単元を扱います。国際教室では6人の教師が担当し、教科の授業のほか、朝の時間を使っての日本語の指導や母語支援を行います。また、外国語補助指導員、日本語講師、母語支援サポーターなどの支援体制が整っています。
子供たちが多文化共生を自然に行っている
同校の文化として根付いている多文化共生は、子供たちのなかに浸透しています。外国につながる子供たちが転校してきても、子供たちは、それが普通のことのように自然に受け入れています。転校してきた子が、もし日本語が分からないようなら、その国の言葉が分かる子供を介して話すことも自然に行っています。つながる国がどこであっても、「仲よくしたい」「困っていたら助けたい」「その子のことを知りたい」という文化が根付いているのです。
ミニインタビュー
同校・池田恭平主幹教諭
子供がそれぞれ活躍できる場をつくる
外国につながる子供に限らないのですが、その子が活躍できる場をつくることが大切になります。特に、転入したばかりで日本語が分からないという子がいますので、その子が活躍できる場づくりを心がけます。例えば、以前転入してきた子供は生き物が好きだということが分かったので、生き物係になってもらいました。すると、生き物を通じて自然に学級の子供たちや学級に馴染んでくれました。
授業では、なるべく絵やビジュアルを取り入れるようにしています。その子に分かるようにすれば、その教科が苦手な子にも分かるようなインクルーシブな授業づくりを意識しています。また、社会科なら、「○〇さんがいた国はどこか探そうか」と言って地図帳で調べるなど、外国につながる子供の国のことを授業のはじめにしゃべるだけでもその子にとっては気持ちが落ち着くのではないかと思います。できるだけ、子供たちのこと、その国のことを知っていきたいですね。
この学校の子供たちは外国につながる子供たちに慣れているため、いろいろなことで助け合っています。グループ活動などで子供同士をつなげるようにしています。
国際教室での個に応じた授業
国際教室では国語と算数の授業を行います。今回は、5年生の算数の授業をダイジェストでレポートします。この日は国際教室の主任である5年担当の中原田美樹教諭が授業を行いました。
この日の5年生の算数の授業では、「公倍数」「最小公倍数」「約数」「公約数」「最大公約数」の復習を行いました。6人の子供たちに配られたプリントにはルビが振ってあります。
最初は、中原田先生が、子供といっしょに約数の問題を解いて、解く手順を子供たちに分かるようにします。
その後、各子供に任せて、次の約数の問題を解いていきます。みんなが解けたところで、答えを子供たちといっしょに導いていきます。
この方法で、順に「公倍数」「最小公倍数」「約数」「公約数」「最大公約数」の問題を解いて、定着するように図ります。
ミニインタビュー
同校・中原田美樹教諭
個のペースに応じて授業に臨めるように
国際教室の5年生を担当していて、国語と算数の授業を行います。国語は、書くことに時間がかかりますので、母学級より少し先行して学習します。算数は母学級と基本的に同じ単元を学習します。授業の最初の5分間は、国語では漢字のテスト、算数では、これまで習ってきた計算問題など、定着を図るための学習を行います。
それぞれ個のペースに応じて授業に臨めるように、子供たちには「自分のペースでいいよ」と伝えています。例えば、漢字のテストで、10問中8問解けたとして、「明日は何点取りたい?」と聞くと「明日は満点取りたい!」と言う子もいますが、その子自身に日々の目標を立てさせるようにしています。
授業では、子供たちが戸惑わないように、繰り返し同じ言葉を使ったり、授業の流れも決めていたりします。ある子は、最初は言葉がなかなか出なかったのですが、授業中に自然にその子が発言する機会を増やすことで、だんだんと発言できるようになりました。
子供たちが困ることは、教師が分かっていると思ってしまうことです。例えば、明日の準備で「国語」と記載していても、外国につながる子供たちや保護者は、国語には何を準備するのかが分からないという状況があります。分かっていると思っていることが、外国につながる子供たちには実は分からないということもありますので、できるだけ事細かにていねいに伝えるように心がけています。
アイデンティティを大切にする「うしおだYY(わいわい)」
年に数回開催される「うしおだYY」は、同じ国につながる仲間が集まり、遊んだり保護者や同じ国をルーツとする講師に文化を教わったりして母国のよさを発見するなかで、アイデンティティを大切にする取組です。
これまでの「うしおだYY(わいわい)」の様子
〇ブラジルグループ:サンバ、ブラジル鬼ごっこをしました。
〇アミーゴスグループ(スペイン語圏):ピニャータ(お祭りなどに使われる日本のくす玉のようなもので、中にお菓子やおもちゃなどを詰めている)やダンスをしました。
〇フレンズグループ(アメリカ、ヨーロッパ、アジアなどの国):インドネシアのダンスやモンゴルのカードゲームをしました。
〇中国・台湾グループ:クイズやダンスなどをしました。
〇フィリピングループ:リンボーダンス、月鬼ごっこをしました。
「うしおだYY」は、同じ国につながる仲間と活動することで、自分らしさを発揮し、外国につながることに自信がもてるような子供の育成をめざしています。
「自分の国のいいところを知って、好きになったよ」「いろいろな国の友達のことをもっと知りたいな」「みんな違ってあたりまえ。でも同じ仲間だよ」といった思いがたくさん生まれるような活動を実施しています。
このような様々な取組によって、同校は多文化共生を行っています。これらの取組によって保護者間にも助け合いの気持ちが広がり、「お隣さんがブラジルにつながる方なので、ポルトガル語を勉強したい」と言って勉強しているなどの様子が聞かれるようになっています。
取材・文・構成・撮影/浅原孝子
外国人児童の教室支援の決定版!
『学級担任のための 外国人児童指導ハンドブック』
菊池 聡/著 小学館
長年、外国人児童指導に携わってきた多文化共生教育のスペシャリストが、一般校の学級担任向けに、外国人児童の支援法や指導の方法、外国人保護者への対応法などをわかりやすく解説。外国人児童のいる教室で起こりがちなトラブルやエピソードを4コママンガで紹介しながら、外国人児童の指導における様々な悩みに具体的に答えます。