自学をもっと楽しく、そして自由に!意欲を高めるICT自学のススメ
児童にとっても担任にとっても、自学は悩みのタネです。「何をしたらいいか分からない」と迷う児童も多く、担任によっては自学メニューを決めて児童に選ばせたり、テーマやネタを児童に紹介したりするなど、様々な工夫をしていますが、昨今児童の興味も多様化しがちで、個々人にピッタリ合うような題材を見付けるのは、なかなか難しいです。そこで、ICTを活用し、自学に友達との共同作業という要素を取り入れることで、皆が励まし合い、楽しみながら自学を進められる、という実践を紹介します。
【連載】マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~
目次
1 自学に乗り気ではない児童のために…
本実践は、山形県の公立小学校で、研究主任としてICTを使った授業改革に取り組まれている八巻和樹氏によるものです。筆者は八巻せんせいの取り組みを拝見し、「これはぜひ皆さんと共有したい!」と感じました。以下、八巻せんせいと著者の一問一答で、実践の内容をご紹介します。
これまで自学と言えば、興味のあるテーマについて図書館の本などで調べていくような、プライベートでアナログな方法が当たり前でした。八巻せんせいが、新しい自学の方法に取り組まれた理由は何ですか?
なかなか、自学に乗り気でない児童が多いのです。特に、書くことが苦手だとか、ドリル的に自分でコツコツ続けていく学習が好きではない、という児童に、その傾向が強く見られます。また、そうした児童は決して少なくはないですよね。
そこで、日常生活の中で疑問に思ったことや、授業の中で、もう少し調べてみたいなと思ったことなどを、もっと手軽に、気楽に、自学として発展させられないかな、と思いました。
そして、自分が調べたことを「どうだ、すごいだろう!」と友達にも示せるようにできれば、より意欲を高めて自学に取り組めるのでは? と考えたのです。
2 新しい「共有できる自学」を目指して
この新しい自学は、どういった手順でやっていくのですか?
10のステップで考えています。自学を進めていく児童の立場で示しますと、次のとおりです。
① Googleスライドを使います
② 取り組みたいテーマを決めます
③ ネットや本、実地の取材活動など、様々な手段で知りたいことを調べ、カメラで撮影したり、画面写真を撮ったりします
④ 調べたことを、写真や画像を交えながら、スライドに書いていきます
⑤ 調べたことの最後に、自分なりのテーマに関するまとめ(メッセージ性のあるもの)を書きます
⑥ 共有ファイルに作ったシートを入れます
⑦ 友達からコメントをもらいます
⑧ 場合によっては協力者を求めて調べたことをシェアします
⑨ 担任がコメントします
⑩ プリントアウトし、掲示板で全校生にも紹介します
できれば、調べた情報の出典やリンクも記しておくようにしましょう。出典の明示は今後の学習で必須となるため、その習慣付けになります。今日はここまで、明日はここから…と、日々探究していく姿勢と習慣がつくれます。
3 スキマ時間での交流! 給食片付け前の5分間で
通常、自学は児童がせんせいに自学ノートを提出し、赤ペンで丸を付けたり、メッセージを書いたりするようなツーウェイで行われます。このデジタル自学では、さらに友達が関与するのですね。どういった形で進めるのですか?
共有ファイルにした自学のスライドに、友達がコメントを書く、というのが基本です。
さらに、同じクラスにいる身近な人同士ですから、対面での交流を増やすと、より楽しくなるだろうと考えました。
日々の交流に使いやすい、スキマ時間を活用します。例えば、給食の片付け前です。給食の所定の時間には、食べるのが遅い児童のための配慮時間があります。5分程度でしょうか。そんなスキマ時間を使います。
<手順>
① 自学シートを作成者が発表します
② 発表内容に基づき、作成者はクイズを出題して、友達に答えてもらいます
③ 友達からの質問を受け付けます
④ 「こんな情報もあるよ」「○○を聞いたことがあるよ」と、友達からの知識をシェアします
⑤ 友達や担任から次のテーマのアイデアをアドバイスしてもらいます
児童はこの時間を楽しみにしています。「ああ、こういう形だったら、わたしでもできそう」という気持ちを持つようになりました。
なるべく5分の間に収まるよう、配慮して指導しています。また、定刻になっても食べている児童は牛乳が苦手な児童だけなので、ゆっくり飲みながらクイズに参加してもいいことにしています。
児童のみなさんには、どんな変化がありましたか?
この自学の手法を始めようと思ったきっかけになったのはHくんです。Hくんはアナログ的な自学に苦手感を覚える、よくいる児童の典型例でした。
アナログ的な自学では、丁寧に漢字混じりの文章を書き、構成についても考えなければならない、と、様々な条件があると思います。Hくんはこうした、コツコツ積み重ねる丁寧な作業が苦手だったのです。しかし一方で「なぜこうなるんだろう?」といった探究心は、とても旺盛でした。
Hくんは手書きの自学では途中で諦めたり、面倒くさくなったりしていましたが、デジタルだと、文字は漢字に変換してくれるし、見た目もキレイだし、構成も簡単に入れ替えたり修正したり、柔軟にできます。手書きの苦手意識が克服され、また自分の興味があることに対して友達から意見をもらえることを大変うれしく感じ、高い意欲を維持できるようになりました。理科で学んだ植物の生長から発展して、草花だけでなく「樹木」にも興味を持ち、調べを進めました。
4「デジタル自学」のメリットと注意点
Hくんにとって、劇的な学びの転換があったのですね。「デジタル自学」のメリットが浮かび上がってきたように思いますが、八巻せんせいはそのメリットをどのようにとらえていますか。
デジタル化による自学のメリットは、大きく分けて3つあるかなと思っています。
まず、簡便性による連続性です。
「デジタル自学」はコツをつかめば、簡単に取り組むことができます。特に次の3点がポイントです。
<ポイント1> いつでもどこでも学習できます。タブレットやパソコンがあれば、自宅や図書館など場所を問わず学習を進めることができます。
<ポイント2> 画像や動画を活用できます。教科書や参考書に載っていない情報も、インターネットやSNSから簡単に入手することができます。
<ポイント3> 担任やクラスメートと共有できます。自学の作品を共有フォルダにアップロードすれば、教師やクラスメートからコメントやアドバイスをもらうことができます。
こうした簡便性によって場所と時を選ぶ必要がなくなるため、意欲が途切れにくくなるわけです。いわば自学の連続性ですね。今日はここまで、明日はここから…と、日々探究していく姿勢と習慣がつくれます。
次に、期待以上の成果を上げているのが創造性ですね。
デジタル化は、自学をより創造的なものにする可能性を秘めています。例えば、動画やアニメーション、音声を活用することで、より豊かな表現が可能になります。まだまだ画像レベルの活用で、このレベルにはいたっていませんが、今後取り組んでいきたいです。この自学手法は、子どもたちの創造性を伸ばすための新たなツールになり得るのではないでしょうか。
そして、学級担任としてうれしいのが、協調性ですね。
デジタル化は、自学をより協調的なものにする効果もあると思うんです。例えば、先の例のようなグループワークツールを使って、複数の子どもたちが自学交流で共同で学習することができます。それから、環境が整えば、オンラインで交流することで、遠く離れた他校の子どもたちと学び合う機会も広がることも可能ではないでしょうか。修学旅行先の児童に情報を求めるとか、児童が作った自学テーマのシートをもとに新しいコミュニケーションに発展することも可能になるのではないでしょうか。従来だと、Hくんはわたしとだけのツーウェイだったわけですが、クラスメイトが関わることでマルチウェイで交流し、クラスメイトにも認められて得意になっていました。認められるから、さらにがんばるという良い流れにもなりました。
なるほど、デジタル化は、子どもたちが協働して学ぶ力を育むための新しい環境とも言えますね。デジタル化は、自学をより身近で便利なものにするようですね。
こういった手法を進めていく中で、何か配慮事項や注意点などがありますか。
はい、特に力を入れているのは次の4点ですね。
① 著作権の問題に注意する
画像や引用など使用に際して著作権の問題が生じることがあります。学校内の、児童間の交流のみであれば、著作権法において保護されている使い方ですが、広く公開したり資料として頒布したりすると問題になる恐れがありますので、避けるべきだと思います。
② キーボードの入力の速さと正確さを求める
デジタル自学を進めるに当たっては、キーボードの入力の速さや正確さが必要になってきます。校内ではスキルアップを目指し、キーボード入力の「級」を設定して、励まし合っています。勉強が苦手な児童でも、練習次第でキーボードのスキルアップは可能です。
このスキルと「デジタル自学」は、いわばセットです。
③ 調べた資料の正確性を検討するスキルを高める
これからは、「With生成AI」の時代となるでしょう。
検索エンジンでの、キーワード検索の結果や、生成AIが示すテキストデータが本当に正しいのかを見極め、資料の比較をすることで情報の精度を高いものにしていかなければならないです。その判断力が求められてくると思います。
④「読む」スキルを高める
漢字習得を例にしますと、「漢字練習○ページを書きなさい」といった従来の手法を求めるのではなく、それぞれの児童の認知の仕方に基づいて習得の手法を変えていくべきだと思います。ICTを利用する、鉛筆によらない習得の仕方も取り入れていきたいです。
特に、「正確に漢字を書く」というスキル向上のために使っていた時間は「漢字を読む」というスキル向上にシフトしていくべきではないでしょうか。ネットの記事や資料は、漢字の使用制限なく書かれていることがほとんどだからです。
○年生で学習した漢字しか○年生では読み書きしないという謎のルールをなくし、決められた学年別の習得漢字表からジャンプアップして、「読むスキル」を高めていくべきです。
勤務校では、ほかのせんせいはどんな実践をしていますか。
私は5年生の担任ですが、他の学年では、総合的な学習の時間で「修学旅行のしおり」作りをしたり、クラス全員で「地域発見」「地域に住む音楽家、ナチュラリストへのインタビュー」などのテーマで調べ学習をし、その発表までデジタルで行ったりしています。
地域に広がる学びの実践には、保護者の協力が不可欠です。家庭も巻き込んで学ぶ、自学の発展型とも言える実践までもが行われています。
◆
本実践の八巻せんせいは、学習の習慣付けのために簡単なドリル学習を課すほかは、児童の好きなように自学をさせているそうです。本実践のように保護者も巻き込み、友達と共に少しずつつくっていく「デジタル自学」は、これまでの自学ではなかなか得られなかった、協働作業による知識の共有や意欲の向上、家庭も巻き込む力など、様々な可能性を秘めています。未来の自学手法の1つではないかと思われます。ますます進化させていってもらいたいです。
イラスト/したらみ
【参考図書】
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マスターヨーダの喫茶室は土曜日更新です。
八巻和樹(やまきかずき)
山形県公立小学校教諭
1991年8月24日神奈川生まれ 教歴、9年+講師半年得意分野、算数や社会。
現在3校目 5年生担任 以前副教務主任として学級外専科教員も経験。
現在研究主任としてICTを活用した授業改革をリードし、今年度はICTを駆使して、地域在住の文化人を取材しまとめる学習を仕組んだ。児童が作詞し音楽家が作曲した曲を披露する実践も実施。
人間中心の教育と先端技術を活用する方法の両方を備えた授業を模索している。
趣味:ドライブ+温泉+ショッピング。
モットー:楽しむが1番。
好きな言葉:楽しくするのもつまらなくするのも自分しだい(神奈川県から引っ越してきて新しい環境になるからこそ、大事にしてきたこと)
山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、様々な分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、様々な資格にも挑戦しているところです。