教師のアンガーマネジメント ~「6秒ルール」でできること~
怒りの感情の適切なコントロール法(アンガーマネジメント)として、「6秒ルール」が知られていますね。怒りの感情のピークは6秒間であり、その後は怒りの感情は弱まっていくというものです。この6秒間をどう乗り切るかによって、その後の感情は大きく変わります。上手く制御できないと怒りを加速させることになり、グッとこらえることができれば、その後は理性的な対応に移ることができるのです。今回は、「アンガーマネジメントファシリテーター」と「アンガーマネジメントキッズインストラクター」(ともに日本アンガーマネジメント協会)の資格をもつ松下先生による、現場教師に役立つ、怒りの感情のコントロール法についてのお話をお届けします。
指導/大阪府公立小学校教諭・松下隼司
劇団俳優を経て、公立小学校の教壇へ。得意のダンス指導で日本一になったり、絵本作家にチャレンジしたりと、精力的な毎日を過ごす松下隼司先生。その教育観の底には、子どもも指導者も毎日楽しく、笑顔でありたいという願いがあるそうです。そんな松下先生から、笑顔のおすそわけをしてもらうコーナーです。
目次
脳科学の視点からみると
アンガーマネジメントの研修会(主催:日本アンガーマネジメント協会 ファシリテーターの資格取得のための研修会)で、講師の日本アンガ-マネジメント協会理事・小林浩志氏に次のことを質問しました。
「なぜ、『6秒』なのですか? 怒りの感情が6秒以降になると下がっていく根拠は何ですか?」
すると、次の回答がありました。
「アンガーマネジメントは、専門的な言葉をできるだけ分かりやすくし、広く普及するために、心理学の面からアプローチしています。脳科学的には2秒です」。
本能や感情を司っている大脳辺縁系で生まれた「怒り」の感情を、理性を司る前頭葉で抑えるまでの時間は、およそ「2秒」なのだそうです。
自分には向かなかった方法もある
「6秒我慢しても、怒りの感情がどんどん大きくなってしまうことがあります。例えば、放課後、保護者からいじめ被害などの相談を受けたときに、いじめっ子への怒りがどんどん大きくなることがあります。6秒ルールと矛盾することになりませんか?」
この私の質問に関連して、研修では、6秒をうまくやりすごすことができるようにするためのアンガーマネジメントの方法を、30個、教わりました。
その1つに、怒りの強さを数値化する「スケールテクニック」があります。自分の怒りの強さを10段階に分けて怒りのレベルを把握することで、怒りの感情をコントロールしやすくするというものです。
しかしながら、スケールテクニックを私はうまく使えませんでした。
「こんな悪いことしたのだから、MAXで怒って当然!」と自分の怒りの高数値を正当化してしまうことが多かったからです。そして、子どもを怒った後で後悔することも多くありました。
すべての方法が自分にとって効果があるわけではないので、いろいろ試してみて、うまく続けられそうなものを探すことが大切なんですね。
自分なりに工夫してみよう!
怒りっぽい私が、うまく怒りの感情をコントロールできたのは、次の2つの方法です。
(1)グラウンディング
地に足をつけるという意味から、実際に目の前にある物を観察して意識を集中することで、怒りの対象から気をそらす方法です。
私は、ひょうきんな息子の写真を教室や職員室の机に貼ったり、スマホに入れたりしています。
あっという間に怒る気が失せて、穏やかな気持ちになります。
(2)コーピングマントラ
カッとなったとき、その言葉を心のなかで唱えることで、気分を落ち着かせ、客観的になるという方法があります。
たとえば「たいしたことはない」「すぐに終わる」「大丈夫」などの言葉を唱えます。
これは「コーピングマントラ(Coping Mantra)」という方法で、コーピングは「困難なことにうまく対処する、処理する」、マントラは「呪文、繰り返し言う言葉」という意味です。
日本アンガーマネジメント協会HP
上で紹介されている言葉を唱えてみても、怒りっぽい私の場合、「たいしたことある!」「すぐには終わらない!」「全然、大丈夫じゃない!」と変わっていきます……。余計にイライラが大きくなってしまいます。
そんな私でも、我に返って落ち着くことができるコーピングマントラが、身近にありました! それは、息子の最近の口癖です。
①「安心してください。ズボンもおむつも履いていません」(裸で言っています……)
②「あのお姉さん、きれいやな」
息子のセリフを、コーピングマントラにしてみました! 息子の姿を思い浮かべながら、これらの言葉を心の中でゆっくり唱えると、だいたい6秒かかります。すると、6秒後に怒りの感情が大きくなっていることは、全くなくなりました。後で後悔してしまうような感情的な叱り方をすることが、ずいぶんと減りました。大きなトラブル対応の前には、小さく声に出して2回以上唱えると、効果がさらに増しました。
仕事とは無関係な楽しい言葉をコーピングマントラにすること、とってもおすすめです!
松下隼司(まつした じゅんじ)
大阪府公立小学校教諭。第4回全日本ダンス教育指導者指導技術コンクールで文部科学大臣賞、第69回(2020年度)読売教育賞 健康・体力づくり部門で優秀賞を受賞。さらに、日本最古の神社である大神神社短歌祭で額田王賞、プレゼンアワード2020で優秀賞を受賞するなど、様々なジャンルでの受賞歴がある。小劇場を中心に10年間の演劇活動をしていた経験も。著書に、『むずかしい学級の空気をかえる 楽級経営』(東洋館出版社)、絵本『ぼく、わたしのトリセツ』(アメージング出版)、絵本『せんせいって』(みらいパブリッシング)がある。
イラスト/したらみ 横井智美