「温かい学校の空気感で授業が変わる」に全市で取り組む ~教育リーダー対談③松浦加代子 【菊池省三流「コミュニケーション科」の授業 #27】

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菊池省三流 コミュニケーション科の授業
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教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三

教師と子供、子供同士のコミュニケーション不足こそ今の学校の大問題! 菊池省三先生が、1年間の見通しを持って個の確立した集団、考え続ける人間を育てる「コミュニケーション科」の授業の具体案と学校管理職の役割を提示します。
第27回「コミュニケーション科」の授業は、<松浦加代子さんとの教育リーダー対談③>です。

右)菊池省三先生 左)松浦加代子教育長

まつうら・かよこ。滋賀県湖南市教育長。1963年滋賀県生まれ。同市社会福祉課(現障がい福祉課)発達支援室長、菩提寺小学校校長、学校教育課長を経て2020年より現職。

連続性の中で子供を育てていくことが大切

菊池 湖南市とのかかわりは、2018年11月、滋賀県で開かれた菊池道場のセミナーに、湖南市の前教育長が参加されたことがきっかけですね。

松浦 前教育長が「ぜひうちにも!」と、翌年の全員研修会に菊池先生をお招きし、翌々年の20年から「学力向上アドバイザー」として、年4回、市内4校区に一回ずつ来ていただいています。
菊池先生にお願いしているのは、学校全体の空気感を向上させること。「温かい学校の空気感で授業が変わる」ことを、先生方に実感してほしいと思っています。

菊池 学校を訪れるたびに、子供も先生も柔らかくなっているな、と感じます。
学校で問題が起こるたび、子供のせいにして、「小1プロブレム」「中1ギャップ」というラベルを貼る空気感があります。本来、変わらなければいけないのは、私たち大人のはずです。

松浦 その通りです。子供達の学びを見ずに「小1だからこれぐらいは」「中1ならこうあらねば」と、大人の都合で押しつけているにすぎないのに。

菊池 送り出す側の幼稚園・保育所、小学校は「子供達をここまで育てた」と丁寧に送り出しても、受け入れる側の小学校、中学校は、「ここまでできていて当然」という上から目線で線引きするんですね。
これは、幼・保小中連携がきちんと機能していないからです。そういう意味でも、湖南市が学校区ごとで研修を進めていることは大きな意味があると思います。

松浦 連続性の中で子供を育てていくことが大切ですね。そのためにどうするか。①授業改善、②差別について学ぶ、③教職員が本来の職務に専任できる環境づくり、の3つの視点から全ての研修を整理し、つなげていくように試みています。

菊池 新たな取組を始めると、「また負担が増える」と身構える先生が多いですが、どのようにつなげているのですか?

松浦 その研修のためだけに新たに特別な取組をする、ということはしません。
最終目標を伝えたら、あとは学校区でそれぞれ工夫するよう任せています。

菊池 それはすごいことですね。

松浦 菊池先生が来られた1年目には、まず菊池先生に各学校区で授業をしていただきました。菊池先生の授業を通して子供達がどのように変容するかを感じてもらうためです。菊池先生の授業データは、市内の小・中学校が閲覧できるネットワークに入れて、後日、全ての学校区で見てもらいました。
今年度からは、先生方の授業を菊池先生が参観し、アドバイスする形を取りました。どういう形で進めるかは、各学校区に任せていますが、「自分の授業を見てほしい」と手を挙げる先生が増えてきました。「せっかく授業を公開するのだから」と、菊池先生が参観される学級以外の学級も、公開授業の案内書に「ここを見てほしい」という授業者のポイントが一言書き添えられていました。こうした一つ一つに、先生方のやる気が感じられてとてもうれしく思っています。

「校長の笑顔率世界一」をキャッチコピーに

「私たち行政は、学校を<ほめて・認めて・励ます>立場です」

松浦 私たち行政は、学校を<ほめて・認めて・励ます>立場だと考えています。
だから、私も学校を訪れるたびに各学校の良さを言語化してきました。
学び合う集団づくりの第一歩は、信頼できる仲間を作ること。そのためには、まず職員室の空気づくりが大切です。職員室で先生方が険しい顔つきをしていたら、教室もとげとげしくなるでしょう。
私は各校長に、「湖南市は今年、<校長の笑顔率世界一>を目指すから」と話しています。学校で校長が笑顔でいることで、先生方は安心するし、何かあったら相談しようと思えますから。

菊池 「校長の笑顔率世界一」とキャッチコピーで、実際に学校のいいところを具体的に伝えていく教育長はなかなかいないです。

松浦 職員室で、子供達の悪口を言う学校は絶対によくならない。子供の問題行動を「しんどい」と愚痴るのではなく、「なぜこうなったのか」「こうしたらどうか」と相談し合える職員室にしなければならないと思います。

菊池 職員室の空気が冷たいと、子供が何か問題を起こしたときも、「担任である自分の指導に問題があると思われる」と隠蔽する方向に持っていってしまう。これでは、いつまでたっても、その子は「問題ありき」のままで、何も救えない。担任の “1年間” ではなく、義務教育9年間のスパンで見ることが大切だと強く感じます。
教育長便りで、ロッカー下のスペースに寝転んでいる自閉傾向の子を、「これもあり」とプラスの視点で触れていました。こういう視点が職員室の当たり前になってこそ、具体的な手立てが見つかるはずです。

松浦 小中連携を進めると、その子の特性や心配事、いいところなど、背景が見えてきます。すると、その時々に適切な対応を先生方も取ることができる。ロッカー下にいた子はその後、中学校でバスケットボール部に入り、集団活動を送っています。その様子はもちろん、小学校にも伝えてくれています。お互いに成長を喜び合える関係になったんだな、とうれしく思っています。

学校教育課全員が “担当者” となって

「担任の “1年間” ではなく、義務教育9年間のスパンで見ることが大切です」

菊池 学校訪問の際、教育委員会の職員も大勢来られていますね。

松浦 菊池先生にアドバイスいただいている学校全体の空気感を作るということは、学力向上という限られた範疇ではなく、人権教育も、特別支援教育も、生徒指導も、全ての学校活動にかかわることです。だから、教育委員会を挙げて行うべきことだととらえています。全体のまとめ役のもと、中学校区に各担当者を配置し、学校教育課全員が動いているんです。まず私たち教育委員会が温かい空気感を出すことが大事ですから。
指導主事は、スペシャリストになるよりも広く知ることが大切で、学校教育課の業務を全て経験してほしい。彼らが再び学校現場に戻ったとき、経験したことを活かしていくためにも必要なことだと思っています。

菊池 横・縦・斜め、全方位的なつながりを作るということですね。

松浦 例えば、特別支援教育のみにかかわると、その視点だけで測ってしまいがちです。子供や保護者の困り感に対し、検査の数値や知識、ハウツーで対応してしまうのです。それでは、本当の解決策は見つけられないと思うのです。
しかも、そのスペシャリストが抜けてしまったら、システムが機能しなくなってしまいます。
システムがあっても人がいないと続けていけない。そのためには、学校と教委、関連機関、様々な人をつないでいくことが大切です。そういう視点を持った職員を育てていきたいと考えています。

菊池 「ほめて・認めて・励ます」「全体をどうつなぐかの視点を持つ」。この二つが根底にあってこそ、温かい空気感が生まれるのでしょうね。

構成/関原美和子


菊池省三(きくち・しょうぞう)
教育実践研究家。
1959年、愛媛県生まれ。山口大学卒業後、北九州市の小学校教諭として崩壊した学級をこの20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『菊池省三流奇跡の学級づくり』(小学館)他著書多数。


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