勇者はここで立ち上がる! いじめの傍観者にならないための指導法【ダウンロード資料付】
教室でいじめが生じたとき。見て見ぬ振りをしてやり過ごす傍観者しかいなかったら、いじめは止まず、どんどんエスカレートしていきます。子どもたちがいじめを自分事と捉え、「声をかけよう」「声をかけたい」という気持ちをもつことが大切です。今回は、いじめから友達を救う「勇者」に子供たちがなるための指導法をお伝えします。
劇団俳優を経て、公立小学校の教壇へ。得意のダンス指導で日本一になったり、絵本作家にチャレンジしたりと、精力的な毎日を過ごす松下隼司先生。その教育観の底には、子どもも指導者も毎日楽しく、笑顔でありたいという願いがあるそうです。そんな松下先生から、笑顔のおすそわけをしてもらうコーナーです。
指導/大阪府公立小学校教諭・松下隼司
目次
1.一人でいる子への声掛け意識を高める
カナダのヨーク大学、デボラ・ペプラー(Debra Pepler)博士らの調査によると、孤立は、いじめ被害リスクを1.42~1.82倍に高めるという調査結果があります。
一人で心細そうにしている子どもへ教師が声をかけるのはもちろんです。でも正直、仲間外れにされている子どもがいることに気づけていないときが、私はあります。
だから、クラスの子どもたちの力を借ります。
いつも一緒にいたはずの友達と過ごさずに一人で寂しそうにしている子に気付いたら、声をかけられるように、教師から働きかけます。気づいて声をかける行動力は、大人になっても大切な力です。
そこでまずは、原動力となる「声をかけよう」「声をかけたい」という“動機づけ”が大切になってきます。
「思いやり算 ~人を笑顔にする算数~」
“傍観者効果”という集団心理があります。自分以外に傍観者がいる時に、率先して行動を起こさない心理です。
いじめられている人を助けるのは、大人でも難しいことですよね。自分がいじめられるかもしれないことを恐れ、見て見ぬ振りをしたり、人まかせになったりしてしまうからです。
そこで、以前もご紹介した、「思いやり算」という詩を使った授業をおすすめします。
困っている人を見かけたら、声をかけたり労ったり、助けたりできるようになるための授業です。人権教育や道徳(思いやり)の授業、参観授業などにもおすすめです。
「自分が声をかけないと!」と子どもに感じ取らせましょう。
「思いやり算」で進んで手を差し伸べる子に! 傍観者やいじめをなくそう! 小学校の人権教育【スライドダウンロード可】
2.仲間外れにされている子への働きかけ方
前出のペプラー博士らの調査によると、いじめの傍観者には以下のようなことが言えるそうです。
- いじめの約96%は、教師がいないところで起こる。
- いじめの現場の約88%に、傍観者がいる。
- 傍観者の83%が、いじめの状況を不愉快だと感じている。
- いじめを止めようと介入するのは、いじめに遭遇した人のうち約19%。
- いじめを止めようとした場合、「効果があった」は約57%、「まったく効果がなかった」が約26%、「効果があったかどうか判断できなかった」が約17%。
上の調査からも、いじめの傍観者はとても多いが、介入することによるいじめへの抑止力も大きいことが分かります。いじめられている子どもを「見て見ぬふり」をしないようにすることはとても重要です。
傍観者がいじめを止めるために介入できるようになる具体的な方法を、子どもたちに伝える必要があります。そこで、子どもたちに『いじめを止めるのは勇者の証』という話をします。
動機づけ
いじめを止めるのは誰を救うことになると思う?
理由も言わせます。
8歳でいじめっ子だったら、24歳までに犯罪者になる割合は、いじめっ子でない子どもの何割高いと思う?
ペプラー博士の調査によると、これは約6倍になるとの調査結果が出ています。
いじめで、心の病気になる危険が4倍も高いのは誰だと思う?
こちらもペプラー博士の調査に基づきます。いじめっ子の方であることを伝えます。
もう一度聞きます。いじめを止めるのは誰を救うことになる?
いじめられている子といじめっ子。
いじめを止める人は、どんな人ですか? 「〇者」「〇ー〇ー」。〇の中に言葉を入れてね。
勇者・ヒーロー!
みんなだったら、きっといじめから友達を救う勇者、ヒーローになれます!
レベル表・ロールプレイ
動機づけに加えて、いじめを止める手立てを教え、事前にロールプレイしておきます。実際にいじめの現場に居合わせた際、介入できるように練習しておくのです。
あなたは勇者ですか? 勇気がある人ですか?
と、子どもたちに問います。そして、次の表を見てもらいます。
「仲間外れの子を救う勇者としてのレベル表」
レベル1 | 仲間外れにされている子に気づくことができた。 |
レベル2 | 「〇〇さんが仲間外れにされています」と、友達といっしょに先生に教えに来ることができた。 |
レベル3 | 「〇〇さんが仲間外れにされています」と、1人で先生に教えに来ることができた。 |
レベル4 | 仲間外れにされている子に、「いっしょに遊ぼう」と、友達と声をかけることができた。 |
レベル5 | 仲間外れにされている子に、「いっしょに遊ぼう」と、友達と声をかけ、いっしょに過ごすことができた。 |
レベル6 | 仲間外れにされている子に、「いっしょに遊ぼう」と、1人で声をかけることができた。 |
レベル7 | 仲間外れにされている子に、「いっしょに遊ぼう」と、1人で声をかけ、いっしょに過ごすことができた。 |
レベル1から順番に、班でロールプレイして練習します。
「仲間外れにされている子」役・「気づく子」役・「先生」役・「その他」役と、役割を分担します。また、その役割は固定せずにローテーションして、いろいろな役を体験できるようにします。仲間外れにされている子の気持ちを少しでも感じ取れるようにします。
3.いじめられている子・いじめている子への働きかけ方
「仲間外れにされている子への働きかけ方」だけでは足りません。さらに進んだ段階である、「いじめられている子・いじめている子への働きかけ方」も教えます。
レベル表・ロールプレイ
下は、いじめの止め方のレベル表です。
「いじめ被害者・加害者を救う勇者としてのレベル表」
レベル1 | いじめられている子に気づくことができた。 |
レベル2 | 「〇〇さんがいじめられています」と、友達といっしょに先生に教えに来ることができた。 |
レベル3 | 「〇〇さんがいじめられています」と、1人で先生に教えに来ることができた。 |
レベル4 | いじめが終わってから、いじめられた子に「大丈夫?」と友達と声をかけることができた。 |
レベル5 | いじめが終わってから、いじめられた子に「大丈夫?」と1人で声をかけることができた。 |
レベル6 | いじめの最中に、いじめっ子に「君らしくないから、やめよう」と、友達と声をかけることができた。 |
レベル7 | いじめの最中に、いじめっ子に「君らしくないから、やめよう」と、1人で声をかけることができた。 |
「仲間外れにされている子への働きかけ方」の表と同じように、班でロールプレイして練習します。実際にその現場に出くわしたときに少しでも行動できるようになるためです。
また、「いじめの止め方」の表を見せる前に、
友達がいじめられていたらどうしますか?
1人で止めるってすごいね!
1人で止めるのが難しい人もいるかもしれない。その人はどうしたらいい?
と、子どもに質問しながら、いじめの止め方を引き出しておくことが大切です。いじめを、他人事でなく自分事として捉えられるようになる、動機づけにつながるからです。
参考文献:『学校を変えるいじめの科学』和久田学(日本評論社)
松下隼司(まつした じゅんじ)
大阪府公立小学校教諭。第4回全日本ダンス教育指導者指導技術コンクールで文部科学大臣賞、第69回(2020年度)読売教育賞 健康・体力づくり部門で優秀賞を受賞。さらに、日本最古の神社である大神神社短歌祭で額田王賞、プレゼンアワード2020で優秀賞を受賞するなど、様々なジャンルでの受賞歴がある。小劇場を中心に10年間の演劇活動をしていた経験も。著書に、『むずかしい学級の空気をかえる 楽級経営』(東洋館出版社)、絵本『ぼく、わたしのトリセツ』(アメージング出版)、絵本『せんせいって』(みらいパブリッシング)がある。
イラスト/したらみ 横井智美