【松尾英明先生の学級にまる1日密着! 不親切教師の自治的学級づくり】 #4 子供たち自身で学級を変えるクラス会議

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千葉県公立小学校教諭

松尾英明

昨年来論争を巻き起こしている教育書『不親切教師のススメ』(松尾英明・著/さくら社)。著者の学級では、実際どのような実践が行われているのでしょうか? 松尾学級(2年生)に、まる1日密着(2023年5月末)した記録をお届けする全5回の連載、第4回は4時間目のクラス会議の様子をお伝えします。クラス会議実践における初期の指導のあり方について考えることができるレポートです。


<プロフィール>
松尾英明(まつお・ひであき)
1979年宮崎県生まれ、神奈川県育ち。「自治的学級づくり」を中心テーマに千葉大学教育学部附属小学校等を経て研究を続け、現在は千葉県公立小学校教諭。全国で教員や保護者を対象にしたセミナーや研修会等の講師を務めるほか、メルマガ、ブログ等でも情報発信を行う。学級づくり修養会「HOPE」主宰。『不親切教師のススメ』(さくら社、2022年)ほか著書多数。


4時間目 学活(クラス会議)

学活の時間には、輪になって座り、クラス会議を行います。
上越教育大学教職大学院・赤坂真二教授の提唱する理論と手法に基づいたクラス会議実践は、松尾先生の学級づくりの中核にあると言っても過言ではありません。
この学級では今年度、クラス会議を行うのはまだ2回目ですから、子供たちはまだ慣れていない様子です。前回、第1回のクラス会議では、「みんな仲良し会議」という会議の名前を決めたと言います。

前回レポートしたように、休み時間には子供たちが自分で机と椅子を動かして輪をつくり、準備しました。その際、子供たちがお互いに声をかけあって協働している姿が印象的でした。
松尾先生「…どう? そろそろいける? 準備できた? 姿勢を正して…」
子供たち「はいっ!」
松尾先生が全員の姿勢を確認してから、「礼!」と声をかけます。
子供たち全員(礼をしながら)「よろしくお願いします!」
松尾先生「今日の『みんな仲良し会議』の議題は、みなさんが議題箱に入れてくれたものの中から、先生が選びました。二人の子が入れてくれたことが、ほぼ同じだったんです。
Aさんは、『緑の壁に、みんなで自分の似顔絵を描いて飾りたい。そして、みんなが笑顔のクラスになったらいいな』という願いを書いてくれました。Bさんは、『教室全体に、みんなで協力して、いろんなものをいっぱい貼ってみたい』と書いてくれました」

ある子供が作ってきてくれた議題箱。クラス会議の議題を提案したいときは、この中に入れます。

「緑の壁」とは、廊下側の後ろにある掲示板のことです。この時期、あえて何も貼らずに空けてありました。

AさんとBさんの提案を受けて、この日の議題は「クラスをいっぱい飾りたい」になりました。
松尾先生「Aさんから『緑の壁に似顔絵を描いて飾ったらどうですか』というアイデアが出ています」
それを聞いた一人の子供が言いました。
子供「やだ。やだ」
松尾先生はその言葉を聞き逃しませんでした。
松尾先生「やだ、って言っていいんだっけ?」
他の子供たち「ダメ」
松尾先生「『やだ』とは言わないよ。『みんな仲良し会議』では、みんなが仲良くなるのが目的なので、人の意見に、いきなり×は出さない。
でも、例えば、みんなで遊ぼうとしたときに、誰かが『野球をやりたい』と意見を言ったら、それに対して『えーっ。野球のルールを知らない人もいるのに』と思う人もいるよね。そんなときは、全員の意見を聞いた後に、『野球はルールを知らない人が多いので、難しいと思います』などと、意見を言ってもいいんだよね。だけど、誰かが『野球をやりたいです』と言った時点で×を出すのはダメだよ。まずは、みんなの意見をちゃんと聞きましょう」
こうして、一人の子供のつぶやきをきっかけに、話合いの基本ルールを再確認しました。

続いて、司会を決めました。やってみたいと挙手した子供の中から、早かった2名を選びました。そして、「今日からマイクはこの子たちです」といって、松尾先生は、司会の二人に、マイク代わりのアライグマとウサギのぬいぐるみ(クラス会議用語ではトーキングスティックと言います)を渡しました。これは松尾先生が家から持ってきたものだそうです。
子供たち「かわいい~!」
子供たちのワクワクする気持ちが伝わってきます。

この日の司会の子供たちとマイク代わりのぬいぐるみ。

松尾先生「今日は初めての司会なので、先生が教えながらやります。みなさんも覚えてください。全員に司会を最低1回はやってもらうからね」。そう伝えた後、松尾先生は司会の子供たちの近くで、小声で話しかけています。

この場面での松尾先生の思い

できるだけ司会の二人だけで進行してほしかったので、あえて小さな声で二人だけに話しました。私の声がみんなに聞こえてしまうと、「先生の意見」になってしまうからです。

2分間考える時間をとってから、私はこんなものを飾りたい、緑の壁以外の場所にこうしたい、というそれぞれのアイデアを出していくことにしました。
司会の隣の子から、一人ずつ時計回りに意見を発表していきます。
全員に平等に発言の機会が与えられ、どんな意見も否定されず受容されることが、クラス会議のルールです。マイク代わりのぬいぐるみを受け取った子供が発言し、ぬいぐるみを隣の子供に渡していきます。「パスします」や「後で言います」もありです。
子供「私は折り紙をいっぱいつくるのがいいと思います」
松尾先生は、「おりがみ」と板書しながら、
「先生を無視していいよ。どんどん行こう」と声をかけました。

松尾先生による不親切ポイント解説

クラス会議では、私はわざと発言者の顔を見ないことにしています。もしも私が子供に顔を向けて発言を聞いていたら、子供たちは私に向かって話してしまうからです。
「先生は見ていない」と分かると、子供は他の子供たちに向かって話します。
「先生を無視していいよ」と伝えたのはそのためです。
ただ、困っているときは助けます。今はまだ助けが必要なときに口を出していますが、最終的には、私が全く口出しをしないレベルまでいく予定です。

ぬいぐるみが子供の手から手へ、次々と移動していきます。
子供「僕は折り紙でいいと思います」
子供「似顔絵がいいと思います」
子供「私は自分だけのキャラクターがいいと思います」
子供「かわいいハートとか、キャラクターをつくる」
向かい側の子供の発言中に、つい隣の子とおしゃべりをしてしまう子もいました。そんなとき松尾先生は、その子に向かって「聞こえた?」などと声をかける指導を適宜行い、司会の二人にもサポートさせていました。

もちろん、パスする子もいます。なかなか発言できない子供がいると、司会の子供がパスをするかどうかを確認します。
子供「私は天井のカーテンレール(下写真)に飾りたいと思いました」
この発言を受け、ここも飾る場所に加わりました。

しばらく「折り紙を飾る」という同じ意見が続いたのですが、ある子供の意見をきっかけに、クラスの雰囲気が変わりました。
Cさん「世界の絵を描きたいと思いました」
それを聞いた多くの子供たちは、思わず笑ってしまったのです。
松尾先生「笑わなくていいよ。一生懸命考えて真面目に話しているでしょ。Cさん、もう一度言ってくれる?」
Cさん「世界の絵を描きたい」
松尾先生「先生は全然笑う意見じゃないと思うんだけど…。よく考えて。折り紙、折り紙って、同じような意見が続いている中で、違う意見を出すことは、すごく大事じゃない? 
笑っていた人は大丈夫? それよりもいいアイデアが出せるのかな? Cさん、もう少し詳しく教えてくれるかな。世界の絵というのは、どんなものかな。例えば、日本とかアメリカとか?」
さん「そうじゃなくて、クラスの世界」
松尾先生「この壁を一つの世界にしたいってことかな」
Cさんがうなずきました。
松尾先生「なるほど。クラスを一つの世界にする。おもしろいね」

一巡目が終わると、パスした子供のところに司会がぬいぐるみを持っていきます。
子供「余っている壁に、海の世界をつくってみたいです」
子供たちから「おーっ!」と声が上がりました。個性的な意見を出す子供に対して、賞賛する雰囲気が生まれました。
子供「カーテンレールに輪飾りと折り紙を飾りたい」
最終的にクラスの全員が発言しました。

こうして意見が出尽くしたところで、「実際にどこに何を飾るか」という収束に入ります。
松尾先生は、「場合によっては『全部やる』もありです」「誰かが困ったり傷付いたりしないアイデアは通します」「飾る場所については、多数決で決めてもOKです(クラス会議では原則として多数決は用いない)」等のポイントをしっかり伝えてから、自らの進行で子供たちの話合いを進め、何をどこに飾るかを決めていきました。

結果、飾る場所は、緑の壁、後ろの壁、天井のカーテンレール、使われていないヒーターの表面と決まりました。
飾るものは、折り紙、似顔絵、輪飾りなどに決定。
最後に、場所ごとに何をするのかを再確認し、希望制で担当チームを決定、各チームのリーダーを指名して、第2回「みんな仲良し会議」は終了しました。
松尾先生「礼!」
子供たち全員「ありがとうございました!」

この場面での松尾先生の思い

今日の会議では、子供たちは本気で考え、自分たちでクラスを変えられるのだと実感し、話し合ってくれていました。
これからもどんどんクラス会議を行っていきたいと考えています。今後は、もう少し重いテーマ、例えば、いじめやいたずらをなくすにはどうしたらいいかなどについて話し合って、クラスの課題を解決していきたいと思っています。

<この時間の板書>

昼休み

クラス会議での決定を受けて、その後の昼休みには、早速後ろの壁に自分で折った折り紙を貼り始めた子供たちがいました(下写真)。

クラス会議の後、子供たちが自分からすぐに行動を起こしたのには感心しましたが、筆者が気になったのはロッカーの上に乗っていたことです。
「これは危ないのでは……」と少々気になり、一人の子供に「今、先生はいないけど、ここに乗ってもいいの?」と聞いてみました。
子供「うん。先生は危ないって言ってた。だから、こうやって気を付けて降りるの」
そう言いながら、ゆっくりと降りて見せてくれました。

この場面での松尾先生の思い

ロッカーの上に乗ることについては、「落ちるとケガするから、落ちないでね」とは言ってありますが、「乗るな」とは言いません。
ただし、上に乗ってふざけていたり、走り回ったりしていれば注意します。
私が子供の頃にはもっと高い場所に登っていましたし、何かを貼るために乗るのは大丈夫かなと考えています。
子供の行動を制約すればするほど、自由度が下がり、生き生きした活動を妨げると考えています。「落ちたら危ないよ」と伝えて、どうやったら安全に降りられるかを、子供たち自身が考えることが重要だと思っています。

※この連載は、第5回(最終回)に続きます。

取材・文/林 孝美

【松尾英明先生の学級にまる1日密着! 不親切教師の自治的学級づくり】ほかの回もチェック⇒
第1回 子供たちとつながり、子供同士をつなげる朝の会
第2回 自由な立ち歩きOK!の算数授業
第3回 仲間と一緒に学ぶ価値を実感する国語授業

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※Edupediaのサイトでも、松尾学級への密着レポートを独自の切り口で公開しています。以下のリンクからお読みください。
https://edupedia.jp/archives/35118
https://edupedia.jp/archives/35121

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