「そこにある危機」に対応する学校経営 ~指揮系統を確立し、有事に備えよう~ 教頭のおしごと歳時記 1学期編

連載
GKC(がんばれ教頭クラブ)

元山形県公立学校教頭

山田隆弘

夏は児童が屋外で活動する機会が多くなり、夏休みには児童と学校との連絡がつきにくくなることも多くなります。様々なトラブルが起こる可能性も増えてくると言えるでしょう。新学期から進めてきた学校経営を見直す、よい機会ではないでしょうか? 今回は危機対策について。管理職が不在なときの対応方法や、危機に際して教頭としていかに行動すべきか、といったことを考えてみたいです。

【連載】がんばれ教頭クラブ

1 いかなるときも対応できるように

学校の危機、解決すべき緊急課題はいつ何時やってくるか分かりません。
わたしの経験では、次のような事案がありました。

児童間のトラブルで、川に落とされたという訴え
 川に入って遊んだのを咎められるのを恐れての嘘だったと判明。教職員が早々に気づいて解決。
児童が自宅に帰って来ないと保護者から連絡
 校区外への探検遊びでの迷子。教職員の一斉捜索で無事解決。
放課後に公園で児童間の喧嘩があり、流血騒ぎとなった
 学校に問題が持ち込まれ、関係者全員の迅速な対応で解決。
下校時に児童が不審者に遭遇した
 聞きつけた教職員がまず現場に急行。さらに管理職から関係各所に連絡し対応。
学級での児童間トラブルについて、保護者から電話で抗議・事実確認の要求
 関係教職員全員で即応し、解決。

これらはあくまで一例ですが、学校におけるトラブル事案は、最初は個人で対応したとしても、必ず事態を指揮系統に基づいて教職員が共有し、チームワークをしなければなりません。
そのために管理職がリーダーシップを発揮するわけですが、管理職が不在となることも、ままあります。そこで、事前に次のような配慮と、教職員への周知徹底を行っておきましょう。

①両者不在となる時間を回避する
校長または教頭のどちらも不在、という状況は絶対に避けるようにします。
管理職の行動計画を全員に公開・共有することはもちろん、必ずどちらかが在校していられるようにスケジュールを調整します。

②長期休みの連絡体制の確立
長期休業中も、校長か教頭のどちらかは、必ず交代で出勤するようにします。
また、日直担当者が連絡すれば、どちらも容易につかまるようにします。

③両者不在になる場合
しかし、どうしても両者不在になる場合が生じることがあります。
そのような場合に備えて、以下のような準備をしておきましょう。

ア 暫定指揮命令系統の確立
両者不在の場合には、誰が指揮命令系統の暫定リーダーになるかを決めておきます。
主幹教諭 教務主任 生徒指導主任 第6学年主任 教職員集団での年長者
などが候補です。
中学校では、生徒指導の担当教員に権限をもたせることが多いようですね。
初動の段階で慌てないように、必ず暫定リーダーを決め、しっかり打ち合わせしておきましょう。

イ 事務職員への依頼
一斉に教員が出張に出てしまう研修会などの場合、校内の教員が全員いなくなる、という事態が生じます。その際は事務職員の長に連絡要員としての職務を任せるようにします。

ウ 教育委員会の指示を仰ぐ
どうしても管理職がつかまらない場合は、市町村の教育委員会、つまり監督者に指示を仰ぐようにします。その連絡先や名前など、必要な情報はあらかじめ管理職が教育委員会と相談して決めておき、教職員全員で共有しておきましょう。

エ 経験に基づき判断する
それでも、どんなに頑張ってもこうした体制が整わない場合、または一刻を争うような状況が起きた場合は、「児童の生命」を最優先と考え、各人が適宜判断する、ということにします。
最悪なのは、事態を知っていながら、何も判断しない、動かないということです。
これは避けたいです。

以上を教職員の全員に、徹底的に浸透させます。

また、これらは緊急事態の対応だけにとどまりません。
教頭不在時には、別の教員が校内巡視を代わりに行うなど、日常業務においても代役が機能するようにして、常に学校の安全を保つようにしていきたいです。
そうです。校務においては、いま教頭がいたら、こういうことをするだろう、だから代わりにやっておこう…という「忖度」の感覚を教職員にもってもらえたら完璧です。 

2 校長の動向をつかんでおく

教頭はすべての学校の危機に関わり、対処せねばなりません。
校長の指示を待って対応すべき事案であるかどうかを、まず判断します。
そして行動優先であれば、自ら率先して行動した上で、校長にしっかり情報伝達します。
この初動が機敏であったから、事態が軽微で済んだ、という事例も多いです。
校長には事後、報告を怠らないでください。もちろん翌日報告してもいいというようなレベルの話であれば別ですが、そうでなければ校長に迅速に連絡をとらなければなりません。
そのため、校長がどこにいるかをつかんでおかなければならないです。

校長によっては、退勤時に、
「今日は自宅にいる」
「今夜は地区の○○の会議に出る」
などと行き先を伝えてくれます。
これは本当に助かります。そうでない場合は、自分から動向を伺っておくようにし、なるべく自然に行動を把握し合える関係性をつくりたいですね。

もし仮に校長が学校外での連絡を嫌がったとしても、厳然たる仕事ですから、変な忖度は不要です。
必要なときには、しっかりつかまえましょう。メールでは伝わらないことがあります。断然、電話が良いです。
以前、連休中に旅先でロープウェイに乗っている最中の校長と、生徒指導の事案で緊急連絡を行ったことがありますが、校長からは迷惑がられるどころか、すぐに教えてくれたと感謝をされたことがあります。

3 教頭は、動かない

もし危機事案が起きてしまったとき。すぐ職員室や会議室に本部を置き、教頭はそこに在留鎮座していることが重要です。
まず、教頭がどっしり構えていると、教職員全員に心理的な安心感を与えられます。
次に、教頭が動かないほうが即応性が高くなる、ということが言えます。
ある事態から連鎖的に別の事態が起こったり、事態が複雑化したりと、トラブルは形を変えることが多いです。例えば、教頭が率先して現場に行ってしまうと、別の場所で生じた最新の情報を取りこぼすなどして、事態の解決が遠のくこともあります。
そこで「知り得たすべてのこと、自分の行動したことについて、逐一知らせてほしい」と、事に当たる教職員全員に宣言し、教頭が情報を集約するようにします。
そして、集めた情報をもとに対応を検討し、各メンバーの行動を決め、指示していきます。
このとき、主幹教諭や教務主任など、いわゆるベテラン教員には遊撃手として活躍してもらいます。
つまり彼らには現場で活動し、リアルタイムに情報を収集しつつ、教頭との連絡を常に取り合うようにしてもらいましょう。

4 教頭は「忖度」されてはならない

現場で何か問題が生じたとき、初動で対応する教職員は、自分自身の考えと同時に、こんなことも考えながら行動するのではないかと思います。

・校長だったらこう判断するだろう
・教頭だったらこういう指示を出すだろう
・主任だったらこう動くだろう

上司や先輩の良い振る舞いを見習うことは、組織のメンバーとして当たり前のことでしょう。
しかし、これが転じて、
「上司の手を煩わせないように、わたし(教員)の段階で留め置こう」
とか
「簡単に解決した事案なので、教頭せんせいのお時間をとるまでもない」
となってはいけません。

もしかして、あなたは部下たちに対して、「それくらい自分で考えて行動して!」などと思っていませんか? 報告や質問を受けたとき、そんな発言を返していませんか? あるいは、あなたは自分の仕事が忙しいとき、話しかけられたくないような雰囲気を出したりしてはいませんか?
もし、あなたに思い当たるフシがあったとしたら…。それは大きな潜在的危機です。

一旦解決したかのように見えた問題が、後で再燃することはよくあります。また、現場の教員の判断だけでは見抜けない問題が、事象の裏に隠れていることもよくあります。
こうしたことが後で表出したとき、校長が、
「そんなことは聞いていない」
「そんな判断や指示はしていない」
となってしまっては、学校経営上の大きなマイナスとなってしまいますし、問題の解決により多くの時間を費やすことになってしまいます。
学校における最終責任者は、ただ校長一人だけです。つまり教頭は、その校長の最終判断をやりやすくするために、常に学校全体から情報が集まって来るような人であってください。いつでも話しかけやすく、どんな細事にも耳を傾ける人であってください。
学校という組織の中で、教頭だけは、絶対に忖度をされるような人であってはならないのです。

5 危機対応の情報術

① 危機管理マニュアル(レッドファイル)を準備

有事に最も大切なのは、必要な情報を適切に提供できることです。そこで、誰でも、いかなるときも困ることがないように、皆が共有できるマニュアルを作っておきましょう。
次のような内容です。
・種別ごと(クレーム、事故など)の対策手順
・外部関係機関連絡先(教育委員会、警察、消防署、児童相談所など)の一覧
・教職員の連絡先、児童名簿(緊急連絡先一覧)
・管理職が不在時の指揮系統

これを例えばあなたの机の上など、誰でも見つけやすいところに置いておきます。

② 問題と情報を「見える化」する

何か危機が起こった場合、それをなるべく表沙汰にはしたくない…。そんな気持ちも分かりますが、正しい情報の共有と整理、そして分析こそ、事態の収拾に向けての最善手です。
犯罪推理ドラマでは、ホワイトボードに証拠写真や容疑者の相関関係などを掲示して事件の概要をまとめ、ミーティングをするシーンをよく見かけます。
これは教職員にとっても、事案の経緯や状況を共有化するために有効な手段です。
例えば担当者ごとに、自分の役割をどこまで進めたか一覧化したり、対応すべき事を箇条書きにしたりして、事態の「見える化」をし、全員で共有していくのです。
対応が済んだものが増えていくと、全員で安心を共有できますよ。
また、ホワイトボードに記された記録は、事後の報告書作りの基礎資料にもなります。

危機が起こったとき、慌てずに対応していく方法を日頃から教職員に意識付けをしていきたいですね。教職員研修として、「こんなことが起こったらどうするか…」というテーマで、勉強会を実施するのもいいことです。児童のいのちを守るという鉄則のもと、重要な研修となるはずです。

イラスト/坂齊諒一


山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、様々な分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、様々な資格にも挑戦しているところです。


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