水害対策 【わかる!教育ニュース#27】
先生だったら知っておきたい、様々な教育ニュースについて解説します。連載第27回のテーマは「水害対策 」です。
目次
学校での水害に備えて、対策づくりの流れや具体策などの手引がまとまる
雨の季節を迎えました。最近は「恵みの雨」どころか、各地で豪雨や台風がもたらす大きな水害が起きています。学校の浸水も珍しくありません。
文部科学省によると、2018年7月の西日本豪雨で667校に校舎や体育館の損壊、浸水などの被害があり、2252校が休校。19年10月の台風19号で被害は2170校に及び、休校は294校に上ります。20年7月豪雨も252校が被害を受け、2114校が休校しました。
学校の耐震化は進んだ反面、水害への備えは遅れていました。文科省は対策を進めようと、21年に有識者会議を設置。このほど、学校の水害対策についての考え方を整理した上で、対策づくりの流れや具体策などの手引をまとめました(参照データ) 。
手引を作った背景の一つは、現状の対策の偏りです。文科省によると20年10月時点で、全国の公立小中高校などの20.0%が浸水想定区域内にあります。けれど、浸水対策をとっているかを調べると、校舎など建物に対しては14.7%、受変電設備には15.0%にとどまります。避難の計画作成や訓練実施といったソフト面は7~8割強が取り組んでいるのと比べ、ハード面の遅れが目立ちました。
手引が説いた大まかな作成手順は、まず地域の浸水などのハザード情報をもとに、学校ごとに防災上弱い点を確認。「対策の方向性」を考え、ハードとソフト両面から様々な被害想定で対策を練る―という流れです。
手引は、発生頻度の高い災害に目を向けるよう唱える
手引のポイントは「対策の方向性」です。
これまで、自治体などが公表するハザード情報は、「1000年に1度」という最大規模の豪雨を想定していました。甚大な被害を念頭に置くのは大切なことでしょう。けれどその分、備えの規模も膨らみ、予算の都合などでハード整備が遅れる側面も否めません。
手引は防災を考える上で、発生頻度の低い「1000年に1度」ではなく、より頻度の高い10年、30年、50年、100年に1度の災害に目を向けるよう唱えました。
そして、それぞれの頻度と起きうる被害に応じて、現実的な対策を促しています。
ハード対策の例では、緊急時の安全確保の点から敷地や校舎のかさ上げなどを挙げています。一方、学校の早期再開を考えれば、電気設備の防護と、教室などを使える状態に保つことも考えねばなりません。その備えには、受変電設備の上階移設、電気室や職員室などへの止水板設置、コンセントの位置の工夫などを提案しました。
もちろん、ソフト面対策も欠かせません。重要書類の管理場所の見直し、いざというときに上階に移動させる物の選定など、平時にできる点検や確認の例も紹介されています。
立地によって、想定しておく被害の種類や度合いは異なります。けれど、子供の安全を守ること、そして被災しても学びへの影響を小さくとどめることは、どの学校の備えにも通じる観点です。
参照データ
▽水害リスクを踏まえた学校施設の水害対策の推進のための手引
https://www.mext.go.jp/content/20230419-mxt_kyoiku02_000029047_02.pdf
【わかる! 教育ニュース】次回は、6月30日公開予定です。
執筆/東京新聞記者・中澤佳子