【セミナー動画】子どもたちが広げる組体操の可能性(埼玉県組体操協会・戸田克)
7月に開催された「全国組体操研究発表会in東京」のセミナーを動画でお届けします。『いまこそ安全!組体操 ~「高さ」から「広がり」へ!新技50~』(小社刊)などの著者としてお馴染みの戸田克先生が、安全で取り組みやすい組体操の指導法について語りました。
※本文は、動画の内容を箇条書きにしたものです。
戸田克●埼玉県公立小学校教頭。初任者のとき、小学校時代の恩師に偶然会い、その縁でなわとび・組体操の研究を始める。仲間とともに埼玉県組体操協会を立ち上げ、「安全かつ効率的な指導で、子供たちの笑顔を満開に」をモットーに、組体操教室や研究発表会、講習会などを中心に活動している。主な著書: 『ドラえもんの体育おもしろ攻略 とべる!なわとび』『8時間でできる!組体操の指導法』『徹底解説 組体操 新しい技と指導の基礎基本』『マット運動の指導法』『5分間で跳べる!ダブルダッチの指導法』『いまこそ安全!組体操 ~「高さ」から「広がり」へ!新技50~』(いずれも小社刊)。
目次
組体操にかかわる教師の移り変わり
- 最初の著書となった『8時間でできる!組体操の指導法』を執筆した約10年前には、中堅の先生が組体操を指導することが多かった。
- どんな組体操の技があるのかをまとめてほしいという声が多くあったので、その本では、約150の技をDVDの映像とともに紹介した。
- 数年すると、「この技をやりたいが、どう指導したらよいのか」という質問が多く寄せられるようになった。
- 若い先生が多くなり、特に高学年の担任や体育主任になるようになって、学校の伝統として組体操を担当しなければならない状況になってきた。
- 「大ピラミッド」「サボテン」「飛行機」などの技をやらなければいけないという要請……というより呪縛のようなものが、若い先生たちに来ていた。
- 前年度に行った組体操の技の名前や図はわかるが、どう安全に指導するかまではわからないということがあった。
- そこで、第2弾の『徹底解説 組体操 新しい技と指導の基礎基本』では、代表的な技をもとに指導法を紹介した。
どのように指導すればよいか
- 高いから危険だ、ということだけではなく、低い技でもケガをすることを知っておく必要がある。
- 例えば、補助倒立の場合に、補助者が、倒立者のどちらの足が上がってくるかがわからない子は、相手の足を両方ともつかまえようとしてキャッチできず、相手の足が自分の顔に当たってしまう。
- なので、補助倒立の場合、倒立者に対して横で補助すれば安全に行えるという指導が一部にあった。
- 倒立者の足が補助者の顔に当たる危険はないかもしれないが、今度は、補助者が足を受け止められないので、倒立者が転倒する危険が生まれる。
- 高学年になって補助倒立を初めて行うのではなく、3年生での壁倒立、カエル倒立、低学年での壁上り逆立ちを通して、腕支持感覚、逆さ感覚をきちんと身につけていくという積み重ねが大事だと考える。
- 補助倒立の場合は、倒立者と補助者の間で、事前にどちらの足から上げるかを確認しておけば、補助者がどちらの足が上がるかと不安に思うことはなくなる。
- このような指導をすれば、技を安全に行うことができる。
- 先ほど、何時間で行うのか、どう技を選べばよいかという質問が会場からあったが、それは、子どもたちの実態による。
- 伝統だからピラミッドやミニタワーを行うというのではなく、この学年の子どもたちは腕支持や補助倒立の経験が少ないから、こういう技を選ぶという考え方をするほうがよいのではないか。
- そういう子どもの実態に合わせて技を選択すれば、ケガをする可能性はより低くなるということがいえる。
- 組体操は、低学年の運動遊び、器械運動や体つくり運動や、高学年の表現運動など、体育の集大成として行うものであると捉えている。
- まさに組体操は、総合的な体育を発表する場だと思う。
小さな技でも楽しい
- 子どもたちは、組体操の基礎基本がわかってくると、いろいろな技を試すようになる。
- 会場の皆さんに質問。「バランス遊びや2段ピラミッドは何年生で実践しますか」(参加者からは、3・4年生で行うという意見が一番多かった)
- (2段ピラミッドの動画を上映)これは、5年生の4月の体育の一場面。できれば表情を見てもらいたい。少しふらついているが、上の子が立った瞬間ににこっとしている。たった2段で。
- 5年生というと、4月の段階で3段や4段ピラミッドを行ってしまうところもあるのではないかと思う。しかし、実態としては、2段ピラミッドで上に立つ子はバランスをとるのが難しい状況。
- 今年度の担任の先生方は、子どもの実態を踏まえた上で技を選ぶようにしてほしい。
- ちなみに、この動画のケースで上に立つ子のバランスが崩れた理由は、土台になっている子の背中が丸まっていたから。
- 「馬」はただ手を着くのではなく、上に立つ子が乗りやすいように、土台の子は背中を少し反らすということも、2段ピラミッドから落ちた経験により、子どもは学ぶことになる。
- バランス遊びから子どもが発展させた技として、「みんなでV字バランス」という技がある。
- (V字バランスの動画を上映) これは、6人が手をつなぎ、つま先を接した形でV字バランスを行う技。
- 動画の中の子どもたちもそうだが、技を行うとき、「せーの」や「ここに乗るよ」などの声かけが子どもたちに生まれる。
- 組体操の練習でも本番でも、子どもたちが他者とのかかわり合いを言語化することが大事。
- 他者とのかかわり合いが言語化されることは、子どもたちが主体性を発揮していることでもあるから、教師は、主体性が発揮できる環境をつくってあげるとよい。
子どもたち自身が技をつくっていく
- ( 補助倒立の発展技の動画を視聴)これは、子どもたちが考えた技。長座の状態の補助者が倒立者の腰を両手で受け止める。倒立者は「壁トン」の壁倒立ができるので、長座でも受け止められるのかなと試した。その後、倒立者が足を補助者の肩に載せ、補助者は両腕を開いてフィニッシュするという技。
- ( 別の補助倒立の発展技の動画を視聴)これも、子どもたちが考えた技。補助者の肩に、倒立者が足を載せ、その後、補助者は両腕を開くという技。
- そうすると、補助者も演技者になる。
- このように子どもたちが体育のいろいろな基礎基本を身に付けてくると、この場合では静かに壁倒立(「壁トン」の壁倒立)ができるようになり、技の広がりが出てくる。
- 補助者が長座で倒立者の腰を受け止められるようになったり、逆さ感覚が身に付いているので、倒立者が膝を曲げても倒立を保持できたりするようになる。
- (「私たちが考え出した技だ」と誇らしげに叫んでいる技の練習風景の動画を視聴)子どもたちが学習発表会で組体操の発表をしたいと言い出した。
- 自分たちで選んだ技を、自分たちで笛を吹き、自分たちで演技するという発表。後の「ウィングピラミッド」がここで生まれた。
- (6人による)3段ピラミッドで、2段目が着地しているピラミッドを作り、そして、(2段目が)手を広げて下が抜ける。誇らしげに「私たちが考え出しました。」という姿が、私は大好き。
- 練習時、たまたま2段目の子が手をはずして顔をポリポリと掻いたのがきっかけで生まれた技。
- みなさんも、手を離して顔を搔いている子がいたら「何を手を放しているんだ」「ちゃんと支えていないとだめじゃないか」と注意しませんか? わたしもそうかもしれない。しかしそこで「手を離せるんだ!? だったら手を広げられるよね。ということは(1段目の)君は抜けれらるね。」という形ができ上がった。
- 「手を広げた形が翼のようだね」ということで、ウィングピラミッドと名付けた。
- 足を着いた場合、足と手の力のかかり具合は8:2と言われるが、実は10:0。このことによって、いろいろな技での「抜けられる」につながっていく。
- 子どもたちがいろいろな技、いろいろな考え方をして刺激を与えてくれている。主体的になれば、いろいろな新しい技が生まれる。本日は、実際に子どもたちが組体操の世界を広げている姿をご覧いただけたと思う。
動画撮影/北村瑞斗(Studio31) 構成/高瀬康志